「そんなつもりで書いていない」が起きるとき

会議の資料を急いで仕上げた部下に、上司が「さすが、仕事が早いですね」とだけ返信する。上司は素直にほめたつもりでも、締め切りぎりぎりだった部下は、皮肉を言われたと受け取るかもしれません。

対面であれば、同じ言葉に笑顔や明るい声の調子が添えられ、ほめ言葉だとすぐにわかります。文字だけになると、その手がかりが消え、読み手は言葉そのものと、自分の置かれた状況から意味を判断するしかありません。

こうした行き違いは、書き手の文章力の問題として片づけられがちです。しかし研究は、もっと構造的な原因を示しています。書き手は自分の意図を知っているせいで、文面が意図どおりに伝わると思い込みやすいのです。

書き手は、伝わり方を高く見積もる

Kruger 氏らは、5つの実験でメールによる感情や調子の伝達を調べました。身ぶりや強調、抑揚といった言葉以外の手がかりがないメールでは、感情や調子を伝えるのは難しくなります。ところが人は、この難しさを過小評価し、メールで実際よりうまく伝えられると考えがちでした。

著者らは、この過信の原因を自己中心性に求めています。自分の視点から離れて、相手の視点で物事を評価するのは、本来とても難しいことです。研究4と研究5は、過信がこの難しさから生まれていることを示唆しています。

ポイントは、書き手が自分の文面を読み返すとき、頭の中では意図した調子で「聞こえて」しまうことです。皮肉のつもりで書いた文は皮肉に、冗談のつもりで書いた文は冗談に聞こえます。同じ文面を、意図を知らない相手がどう読むかを想像するのは、書き手にとって最も苦手な作業だといえます。

読み手は、足りない手がかりを自分で補う

では、読み手の側では何が起きているのでしょうか。Riordan 氏と Trichtinger 氏は、身ぶりや声、表情、文脈が会話の正確な解釈を支えているのに対し、メールにはそれが欠けているため、読み手が欠けた部分を自分で補って読むと述べています。

何で補うかは研究の主題ではありませんが、実務では読み手自身の状況が大きく影響すると考えられます。忙しくて余裕がない日、相手との関係に不安がある時期、自分の仕事に自信がないとき。そうした状態で読む短い文面は、書き手が込めていない意味を帯びやすくなります。

2人の3つの実験では、書き手も読み手も、感情の読み取りに高い自信を持っていました。しかし、その自信は実際の正確さに見合っていませんでした。書き手が「伝わったはず」と思い、読み手も「こういう意味だろう」と確信している。双方が自信を持ったまま、意味がずれていくのです。

仕事のメールは、否定的に読まれやすい

ずれには向きがある、という議論もあります。Byron 氏は、メールでの感情の伝達と誤解を論じた理論論文で、受け手は仕事のメールを、送り手の意図よりも否定的、あるいは中立的に読みがちだと論じました。

この論文は実験の報告ではなく、コンピューターを介したコミュニケーションや非言語コミュニケーション、感情と知覚の研究を土台に、誤解を起こしやすい要因と、それが組織に与える影響、精度を上げる方法を整理した枠組みです。

それでも、実務の感覚とはよく合います。前向きなつもりの「了解です」が素っ気なく読まれ、気遣いのつもりの「無理しないでください」が「期待していない」と読まれる。書き手が温かさを込めたつもりの文面ほど、温度が下がって届くと考えておくほうが安全です。

親しい相手でも、読み取りの精度は上がらない

「気心の知れた相手なら大丈夫」と考える人も多いでしょう。Riordan 氏と Trichtinger 氏の実験は、この思い込みも検討しています。書き手は、見知らぬ相手より友人のほうが自分のメールを正しく読み取ると考えていましたが、友人の読み取りが見知らぬ相手より正確だったわけではありませんでした。

著者らは、友人関係や文脈、文面に添えた手がかりに頼って感情を読み取ろうとしても、うまくいかず、かえって逆効果になることもあると述べています。

職場に置き換えると、長く一緒に働いている部下や同僚ほど、短い文面や軽い冗談で済ませがちです。関係が近いほど書き手の安心感は高まりますが、読み手の精度はそれについてきません。親しさは、誤読を防ぐ理由にはならないのです。

上司と部下の関係では、さらに注意が要ります。上司にとっては気軽な一言でも、部下にとっては評価にかかわる言葉として読まれやすいからです。これは研究で確かめられた点ではありませんが、立場の差がある相手ほど、文面を慎重に読み込まれると考えておくほうが安全です。

冗談・皮肉・婉曲は、文字で送らない

ここまでの研究から言えるのは、文字の上で最も誤読されやすいのが、言葉の表面と本当の意味がずれている表現だということです。冗談、皮肉、遠回しな言い方は、どれも「書いてある意味とは別の意味で受け取ってほしい」という表現です。

対面なら、表情や声の調子が「これは冗談です」という合図になります。文字ではその合図が消えるため、読み手は書いてある意味をそのまま受け取るか、自分の状況に合わせて別の意味を補うしかありません。

  • 冗談 — 「また徹夜ですか、さすがですね」は、ねぎらいにも当てこすりにも読める
  • 皮肉 — 「ずいぶん丁寧な資料ですね」は、書き手が本気で感心していても皮肉に読まれうる
  • 婉曲 — 「少し検討の余地があるかもしれません」は、修正の指示なのか感想なのかがわからない

文字で送るなら、書いてある意味がそのまま本当の意味になる文に直すのが基本です。言いにくいことを和らげたいときほど、遠回しにせず、和らげる言葉を別に添えます。

上の3つの例なら、次のように書き換えられます。

  • 冗談の書き換え — 「遅くまで対応してくれてありがとうございます。今日は早めに切り上げてください」
  • 皮肉に読まれうる文の書き換え — 「図の説明が丁寧で、初めて読む人にもわかりやすいと思いました」
  • 婉曲の書き換え — 「結論は賛成です。費用の根拠だけ、もう一段詳しく書いてもらえますか」

どれも少し長くなりますが、読み手が意味を補う余地はほとんど残りません。

感情や意図は、言葉にして書く

ここからは、誤読を減らす手順を3つに分けて考えます。

文字の誤読を減らす3つの手順。意図を言葉にする・手段を選ぶ・送る前に読み直す
図|文字の誤読を減らす3つの手順
  1. 意図を言葉にする — 声の調子が運んでいた感情や意図を、文に書き起こす
  2. 手段を選ぶ — 文字で運びきれない内容は、声で伝える
  3. 送る前に読み直す — 意図を知らない相手の立場で読む

1つ目は、対面なら声や表情が運んでいたものを、文字で補うことです。たとえば、資料を急いで仕上げた部下への返信なら、「仕事が早いですね」だけで終えず、次のように書きます。

  • 「急ぎの依頼に、半日で対応してくれて助かりました。おかげで明日の会議に間に合います」

何に感謝しているのか、なぜ助かったのかを書けば、皮肉と読まれる余地は小さくなります。修正をお願いするときも同じです。「少し気になる点があります」ではなく、「全体の構成はこのままで大丈夫です。3ページ目の数字だけ、最新の値に差し替えてください」と、評価と依頼を分けて書きます。

依頼文そのものの組み立て方は、「依頼」が気持ちよく通る頼み方の「メール・チャットでの頼み方」で扱っています。本稿で強調したいのは、感情や意図を、読み手の推測に任せず文として書くことです。

文字で揉めたら、声に切り替える

2つ目は、文字で運びきれない内容を見極めることです。Kruger 氏らが指摘したとおり、メールが難しいのは、身ぶりや抑揚といった手がかりが欠けているためでした。そうであれば、手がかりが戻る手段に切り替えるのが自然な対策です。研究がすべての場面での切り替えの効果を確かめたわけではありませんが、電話やオンライン会議で声を使えば、文字で失われていた調子の情報が戻ります。

切り替えを考えたいのは、次のような場面です。

  • 評価や指摘を含む内容 — 改善点を伝える、期待とのずれを指摘する
  • 相手の感情が動いている内容 — 失敗の報告を受けた、不満を伝えられた
  • メールの往復で温度が上がってきたとき — 返信が短く、硬くなってきた

とくに3つ目は見逃しやすい場面です。書き手も読み手も自分の解釈に自信を持っているため、文字のまま応酬を続けると、ずれは修正されないまま積み重なります。「文面だと伝わりにくいので、5分だけ話せますか」と一言添えて声に移すほうが、結果的に早く収まります。

ただし、文字には記録として残るという強みがあります。声で話して合意できたら、決まったことだけを短く文字で送り直すと、調子は声で、内容は文字で、と両方の強みを使えます。「先ほどはありがとうございました。3ページ目は金曜までに差し替え、構成はこのままで進めます」のように、感情を込めた言葉より、決まった事実を書くのがこつです。

送信前に確かめること

3つ目は、送る前の読み直しです。書き手は自分の文面を意図した調子で聞いてしまうため、ただ読み返すだけでは誤読の危険に気づけません。読み方を意識して変える必要があります。

  • 意図を知らない相手として読む — 前後の事情を知らない人が、この一文だけを読んだらどう受け取るか
  • 余裕のない日の相手として読む — 忙しく、不安を抱えた状態で読んだら、どの言葉が引っかかるか
  • 表面と本当の意味がずれた文がないか — 冗談・皮肉・婉曲が混ざっていないか
  • 評価と依頼が分けて書けているか — 何が良く、何を直してほしいのかが文として読めるか
  • 文字で送るべき内容か — 声で伝えたほうがよい内容が混ざっていないか

5項目すべてを毎回確かめる必要はありません。部下への評価、取引先への断り、感情が動いている相手への返信など、誤読の代償が大きいメールに絞って使うだけでも効果があります。

まとめ

メールで感情や調子を伝えるのは、書き手が思うより難しいことです。書き手は自分の意図を知っているために伝わり方を高く見積もり、読み手は欠けた手がかりを自分の状況で補います。双方が自信を持ったまま意味がずれ、仕事のメールは意図より冷たく読まれがちで、親しい相手でも読み取りの精度は上がりません。

対策の中心は、冗談や皮肉に頼らず、感情や意図を文として書くこと、文字で運びきれない内容は声に切り替えること、意図を知らない相手として読み直すことです。「伝わったはず」と思ったときこそ、相手の画面に映っているのは文字だけだと思い出すことが、行き違いを防ぐ第一歩です。

参考文献・出典

  • Byron, K. (2008). Carrying too heavy a load? The communication and miscommunication of emotion by email. Academy of Management Review, 33(2), 309-327. https://doi.org/10.5465/amr.2008.31193163
  • Kruger, J., Epley, N., Parker, J., & Ng, Z.-W. (2005). Egocentrism over e-mail: Can we communicate as well as we think? Journal of Personality and Social Psychology, 89(6), 925-936. https://doi.org/10.1037/0022-3514.89.6.925
  • Riordan, M. A., & Trichtinger, L. A. (2017). Overconfidence at the keyboard: Confidence and accuracy in interpreting affect in e-mail exchanges. Human Communication Research, 43(1), 1-24. https://doi.org/10.1111/hcre.12093