答えをずらした受け答えは、なぜ成立してしまうのか

質疑応答で、聞かれたことに正面から答えず、近い別の話題について答える。政治家のインタビューでよく見かける光景ですが、企業の説明会や社内の会議でも珍しくありません。

その頻度を示した古典的な分析があります。Bull 氏と Mayer 氏は、1987年の英国総選挙期間中に放送されたテレビの政治インタビュー8本を分析しました。サッチャー首相(当時)は質問の56%に、労働党のキノック党首(当時)は59%に答えていませんでした。答えない受け答えは11の大分類に整理され、最も多かったのは自分の政治的主張を述べること、次が質問そのものを攻撃することでした。

2人の型には違いもありました。サッチャー首相がインタビュアーを攻撃して答えにくい質問を封じたのに対し、キノック党首は守りに回り、労働党がとらない政策を長々と述べることがありました。著者らは、それが同じ話題での追及をさらに招き、本人をはぐらかしているように見せたと指摘しています。

この研究は話し手の発言を分類したもので、視聴者が答えていないことに気づいたかどうかは調べていません。それでも、質問に答えない受け答えは、例外ではなく日常的に起きていることがわかります。問題は、それがなぜ多くの場合に通用してしまうのかです。

聞き手の注意は「答えたか」より「どんな人か」に向く

Rogers 氏と Norton 氏は、4つの研究でこの問いを調べました。話し手が、聞かれた質問に似ているが厳密には違う質問に答えた場合、聞き手はそのずれに気づかないことがあり、気づかなかった聞き手は、はぐらかした話し手をとくに低く評価することもありませんでした。

著者らはその理由を、聞き手の注意の向け方に求めています。私たちは誰かの答えを聞くとき、「この人は質問に答えているか」を確かめるより、「この人を好ましいと思うか」という評価のほうに注意を向けがちです。答えの中身が質問と合っているかは、意識して確かめようとしない限り見落とされやすい、という説明です。

経営者や管理職が質問を受ける場面では、聞き手は話の中身と同時に、話し手の人柄や自信を見ています。その注意の配分こそが、ずれた答えを見過ごさせる土台になっていると考えられます。

流暢さが、内容のずれを覆い隠す

同じ研究の3つ目の実験は、話し方の影響を調べました。似た別の質問に流暢に答えた話し手は、実際の質問にたどたどしく答えた話し手よりも、好意的に評価されました。

これは、答えの正確さより話しぶりのほうが印象を左右しうることを示しています。聞かれたことに誠実に答えようとして言葉に詰まる人が、質問をかわして滑らかに話す人より低く見られることがある、ということです。

ただし、ここから「流暢に話せば、はぐらかしても問題ない」と考えるのは誤りです。次に見るとおり、はぐらかしが見抜かれやすくなる条件があり、見抜かれた場合には話し手の評価は下がっています。むしろ、誠実に答える人ほど、答えの中身だけでなく話し方まで準備しておく必要があると読むべき結果です。

はぐらかしが気づかれやすくなる3つの条件

Rogers 氏と Norton 氏の研究は、聞き手がいつもずれを見過ごすわけではないことも示しています。はぐらかしが見抜かれやすくなったのは、次の3つの条件でした。

  • 聞き手が答えの関連性に注意を向けたとき — 話し手への好き嫌いではなく、答えが質問に合っているかを判断するよう促された場合
  • 答えが質問から大きく外れたとき — 似た質問ではなく、明らかに違う質問に答えた場合
  • 質問が目に見える形で残っていたとき — 話し手が答えている間も、質問が画面に表示され続けていた場合

さらに、聞き手がはぐらかしを見抜くよう導かれた条件では、はぐらかした話し手はより否定的に評価されました。気づかれない限りは評価が下がらないが、気づかれた瞬間に評価が下がる。はぐらかしの効果は、聞き手の注意という不安定な条件の上に乗っています。

気づかれないことは、得なのか

政治家のインタビューを使った研究は、見抜かれたときの代償をより直接に示しています。Clementson 氏は、政治家が質問をはぐらかすニュースインタビューを作り、2つの実験で視聴者の反応を調べました。視聴者は特定の種類のはぐらかしを見抜き、はぐらかしは政治家の信頼性の評価を下げました。どこまで見抜くかは、視聴者の政治的態度の強さにも左右されました。

同じ著者による別の研究では、研究1(202名)で、はぐらかしを質問と無関係な答えと見て欺瞞と受け取ったのは、その政治家に自分を重ねていない有権者でした。つまり、はぐらかしに敏感なのは、話し手と同じ側に立っていない聞き手です。

ビジネスに置き換えると、取引先、批判的な株主、懐疑的な部下といった相手ほど、ずれた答えを見逃さない可能性があります。これらの研究は政治の場面を扱ったもので、そのまま一般化はできません。それでも、はぐらかしが見過ごされやすいのは話し手と同じ側に立つ聞き手であり、本当に納得してもらいたい相手の前ほど通用しにくい、という見方は持っておくべきです。

答えられないときの3つの選択肢

とはいえ、どんな質問にもすべて答えられるわけではありません。未公表の情報、交渉中の案件、その場で確認できない数字など、答えられない理由は現実にあります。そのとき、別の問いにすり替える代わりに取れる選択肢は、大きく3つあります。

答えられない質問への3つの選択肢。保留・範囲の限定・持ち帰り
図|答えられない質問への3つの選択肢
  1. 保留 — 答えられないことと、その理由を言う
  2. 範囲の限定 — 答えられる部分だけを答え、その境界を示す
  3. 持ち帰り — 誰が、いつまでに、何を返すかを約束する

範囲の限定と持ち帰りは、たとえば次のように言います。

  • 範囲の限定 — 「地域別の数字はまだ確定していません。全社の合計については、計画どおりに推移していると申し上げられます」
  • 持ち帰り — 「その件は手元に資料がありません。担当部門で確認し、金曜日までに私からメールでお答えします」

持ち帰りは、期限と返答の主体を言わなければ、体裁を整えたはぐらかしと変わりません。約束した期限に実際に返すところまでが、受け答えの一部です。

3つに共通するのは、質問に答えていないことを、聞き手に隠さない点です。はぐらかしが聞き手の見落としに頼るのに対し、これらは答えていない部分をあえて明示します。

保留の具体的な言い回しや、開示規制が関わる場面での線引きは、株主総会の質疑で動じない準備法の「誠実な保留」で詳しく扱っています。決算説明の場で「答えないこと」と「はぐらかすこと」を区別する考え方は、決算説明会で投資家の信頼を得る話し方も参考になります。

曖昧に答えることと、別の問いに答えることは違う

答えにくい質問に対して、人がとりがちなもう1つの反応が、曖昧に答えることです。Bavelas 氏らは仮想の場面を使った実験で、どう率直に答えても誰かが困る状況では、人は嘘をつくのではなく、曖昧だが真実である答えを選ぶことを示しました。

たとえば「その施策は失敗だったのですか」と聞かれ、正直に認めれば担当者を傷つけ、否定すれば事実に反する、という場面です。このとき「狙った成果のうち、出たものと出なかったものがあります」と答えるのは、曖昧ではあっても質問に向き合っています。

一方、同じ質問に「来期は新しい施策に注力します」と答えるのは、別の問いへのすり替えです。前者は質問の範囲の中で言葉を選んでおり、後者は質問の外へ出ています。答えにくさを感じたときは、曖昧さで質問の内側にとどまるか、保留で答えていないことを明示するかのどちらかを選び、質問の外へ出ないことが大切です。

質問が記録に残る場では、何が変わるか

Rogers 氏と Norton 氏の研究で、質問が画面に表示され続けると、はぐらかしは見抜かれやすくなりました。この条件は、現実の場面にも当てはまります。

オンライン説明会のチャット欄に質問が文字で残っている、会議の議事録に質問と回答が並べて記録される、事前に質問票が配られている。こうした場では、聞き手は答えを聞きながら、いつでも元の質問と見比べられます。

著者らも、この結果の実務上の意味を、対人コミュニケーションや公開討論の文脈で論じています。話し手の側から見れば、質問が記録に残る場ほど、ずれた答えは後から照合されるということです。文字で質問を受けた場合は、回答の冒頭で質問をそのまま言い直してから答えると、自分自身も答えのずれに気づきやすくなります。

聞き手として「ずれ」に気づくための聞き方

ここまでの研究は、聞き手として質問する側に立ったときにも役立ちます。管理職が部下に報告を求める場面、経営者が担当役員に説明を求める場面では、自分が受け手になります。

  • 答えを聞く前に、自分の質問を一文で書いておく — 質問が目の前に残ることで、答えとの照合がしやすくなる
  • 答えを聞いたら「今の答えは、何という質問への答えか」を考える — 話し手の印象から、答えの関連性へ注意を移す
  • 話しぶりの滑らかさと、答えの中身を分けて評価する — 流暢な答えほど、質問との対応を確かめる
  • ずれに気づいたら、責めずに質問を言い直す — 「確認させてください。お聞きしたかったのは〜です」と、答えの範囲を戻す

ずれた答えは、話し手が意図してはぐらかした場合だけでなく、質問の意図を取り違えた場合にも起きます。言い直しは相手を追い詰めるためではなく、やりとりを質問に戻すための手段として使うと、会議の空気を損なわずに済みます。

まとめ

聞き手は、似た別の質問への答えに気づかないことがあり、流暢なはぐらかしが好意的に受け取られることさえあります。しかし、関連性に注意が向いたとき、答えが大きく外れたとき、質問が目に見える形で残っていたときには、はぐらかしは見抜かれ、話し手の評価を下げます。とくに、話し手と同じ側に立っていない相手ほど、はぐらかしを欺瞞と受け取りやすいことも示されています。

答えられない質問に対して取るべき道は、別の問いへのすり替えではなく、保留、範囲の限定、持ち帰りのいずれかで、答えていないことを明示することです。気づかれないことに賭けるより、答えられない理由を言えることのほうが、長い目で見て信頼を守ります。

参考文献・出典

  • Bavelas, J. B., Black, A., Chovil, N., & Mullett, J. (1990). Truths, lies, and equivocations: The effects of conflicting goals on discourse. Journal of Language and Social Psychology, 9(1-2), 135-161. https://doi.org/10.1177/0261927X9091008
  • Bull, P., & Mayer, K. (1993). How not to answer questions in political interviews. Political Psychology, 14(4), 651-666. https://doi.org/10.2307/3791379
  • Clementson, D. E. (2018). Effects of dodging questions: How politicians escape deception detection and how they get caught. Journal of Language and Social Psychology, 37(1), 93-113. https://doi.org/10.1177/0261927X17706960
  • Clementson, D. E. (2018). Susceptibility to deception in a political news interview: Effects of identification, perceived cooperativeness, and ingroup vulnerability. Communication Studies, 69(5), 522-544. https://doi.org/10.1080/10510974.2018.1454486
  • Rogers, T., & Norton, M. I. (2011). The artful dodger: Answering the wrong question the right way. Journal of Experimental Psychology: Applied, 17(2), 139-147. https://doi.org/10.1037/a0023439