苦情対応は、内容より先に態度が読まれる
取引先から電話が入り、開口一番に納品の遅れを責められる。窓口に来た顧客が、前回の説明と違うと語気を強める。苦情を受ける場面では、何をどう解決するかを考える前に、まず何か言わなければなりません。
このとき多くの人は、謝罪を重ねて相手の怒りが収まるのを待ちます。しかし相手が確かめようとしているのは、謝罪の回数ではありません。自分の訴えが正しく受け取られたか、この会社はこの件をどう扱うつもりなのかです。
Tax 氏らは、苦情を申し立てた顧客の体験を調べ、回答者の過半数が直近の苦情対応に不満を持っていたと報告しています。同じ研究は、顧客が苦情の処理を3つの面から評価していることも示しました。受け取った結果、結果に至るまでの手続き、そしてその過程での対人的な扱いです。つまり、最終的に何を補償したかだけでなく、どう扱われたかが評価の独立した柱になっています。
最初の応対は、この「扱われ方」が最初に表に出る時間です。
最初の30秒で相手が判定していること
ここで言う30秒は、研究で測られた長さではありません。相手がひとしきり話し終えたあとの、こちらの最初の発話のまとまりを指す実務上の目安です。
その短い時間に、相手は次の3つを判定しようとしています。
- 聞いていたか — 自分が何に困っているのかが伝わったか
- 決めつけられていないか — こちらの言い分を最初から疑われていないか
- この後どうなるか — 待てばよいのか、また電話しなければならないのか
Gelbrich 氏と Roschk 氏は、苦情対応に関する研究をメタ分析で統合し、組織の対応が公正さの知覚を経て満足につながり、さらに継続利用や好意的な口コミにつながる、という経路を確かめました。注目されるのは、長期的な関係の土台になる累積的な満足が、補償の中身の公正さよりも、わずかに強く対人的な扱いの公正さに左右されていたという結果です。
補償の中身は、最初の30秒ではまだ決められません。しかし対人的な扱いは、最初のひと言から始まっています。
一次対応の3つの要素
Davidow 氏は、苦情への組織の対応に関する研究を整理し、対応を6つの次元に分けて検討しました。対応の速さ、苦情の申し立てやすさ、補償、謝罪、説明の信頼性、そして相手に注意を向けているかどうかです。この整理は、各次元について何が分かっていて何が分かっていないかを明らかにすることを目的にしたもので、どの順番で話せばよいかを示したものではありません。
ただ、6つのうち最初の応対の時点で打てる手は限られます。補償はまだ決められません。そこで実務では、最初の応対を次の3つに絞って組み立てます。
- 受領 — 何について言われているかを言い直す
- 確認 — 事実と解釈を分けて聞く
- 見通し — いつ、誰が、何を返すかを言う
受領 — 何について言われているかを言い直す
相手が話し終えたら、最初にその内容を短く言い直します。
- 「9月20日にお届けする予定だった部品が、まだ届いていないということですね」
- 「前回の担当者からは無料と聞いていたのに、請求書に費用が載っていた、ということでよろしいでしょうか」
言い直しは、聞いていたことの証明になります。同時に、こちらの理解が間違っていれば相手がその場で訂正できます。ずれたまま謝罪と対応が進むと、後で「そういう話ではない」ともう一度怒らせることになります。
言い直すときは、相手の言葉の強さまで写す必要はありません。「ひどい対応だ」と言われても、言い直すのは「何が起きたか」の部分です。相手の評価の言葉を繰り返すと、それを認めたように聞こえる場合があります。
確認 — 事実と解釈を分けて聞く
次に、足りない事実を確かめます。このとき、相手の話の中にある事実(何が、いつ、どうなったか)と、解釈(なぜそうなったと相手が考えているか)を分けて聞くのが要点です。
「わざと遅らせたんだろう」という言葉には、遅れているという事実と、故意だという解釈が混ざっています。事実はすぐに確かめられますが、解釈はこの段階では肯定も否定もできません。
- 事実を聞く — 「ご注文の番号をお伺いできますか」「最後にご連絡を差し上げたのはいつでしたでしょうか」
- 解釈には踏み込まない — 「経緯はこちらで確認します」と受けて、その場で反論しない
相手の怒りが強く、話が何度も同じところに戻ってくることもあります。そのときに質問を急ぐと、話を打ち切られたと受け取られます。まず相手が言い切るまで待ち、区切りがついたところで「確認のために3点だけ伺ってもよろしいでしょうか」と、質問の数を先に示してから聞きます。終わりが見えている質問は、尋問ではなく手続きとして受け取られやすくなります。
ここで解釈に反論すると、相手には決めつけられたと映ります。反対の意見を受け止める場面全般については、反対意見を受け止める話し方で扱っています。苦情の場合はさらに、事実の確認が終わるまで原因の話をしないことが重要です。
見通し — いつ、誰が、何を返すかを言う
最後に、この後どうなるかを言います。多くの応対で抜けるのがここです。「確認いたします」で終わると、相手はいつまで待てばよいのか分かりません。
見通しには3つの要素を入れます。
- いつ — 「本日17時までに」
- 誰が — 「担当の私、山田から」
- 何を — 「出荷の状況と、お届けできる日をお電話でお知らせします」
その場で答えが出せないときも、見通しは出せます。答えの期限を約束するのではなく、次に連絡する時刻を約束するのです。17時の時点で分かっていなくても、分かっていないことと次の見通しを伝える連絡を入れます。
自分が担当ではない案件の苦情を受けることもあります。このとき「担当から折り返させます」だけで電話を切ると、相手は同じ説明をもう一度することになります。Davidow 氏が挙げた次元の一つである申し立てやすさは、相手に同じ話を繰り返させないこととも言い換えられます。受領と確認までは自分で行い、聞き取った内容を担当者に渡すこと、担当者の名前と連絡の時刻を伝えることまでを、最初に電話を取った人の仕事にします。
Davidow 氏の6つの次元のうち、対応の速さと説明の信頼性は、この見通しを守れるかどうかに直結します。約束した時刻に連絡が来なければ、最初の応対がどれほど丁寧でも評価は崩れます。
3つの要素を通すと、最初の応対は例えば次のようになります。
- 「ご不便をおかけして申し訳ございません。9月20日にお届けする予定だった部品が、まだ届いていないということですね。ご注文の番号をお伺いできますか。……ありがとうございます。出荷の状況をこちらで確認し、本日17時までに、担当の私、山田からお電話でお知らせします」
受領・確認・見通しを順に置いても、話す時間は30秒前後に収まります。長く話す必要はありません。抜けがないことのほうが大事です。
謝罪の位置をどこに置くか
謝罪は、6つの次元のうちの1つとして整理されている要素です。ただし最初の応対では、何について謝るのかを区別しておく必要があります。
原因がまだ分からない段階で「弊社の不手際で」と言い切ると、後で事実と食い違ったときに説明を修正しなければならなくなります。一方、相手に手間や不快な思いをさせていることは、この時点で確かな事実です。
- 冒頭 — 「ご不便をおかけして申し訳ございません」(相手が被っている手間に対して)
- 確認の後 — 原因が分かった時点で、原因について謝る
冒頭の謝罪は短く一度にとどめ、受領と確認に進みます。謝罪を何度も重ねると、相手の話を聞く時間が削られます。経営層が公に謝る場面での責任・具体策・再発防止の示し方は、世界のリーダーの「謝罪」の作法で扱っています。
「対応が良かった」がどこまで効くのか
苦情対応の分野では、うまく立て直せば苦情の前より満足度が高くなる、という「リカバリー・パラドックス」がよく語られます。これについては、断定を避けたほうがよい知見があります。
de Matos 氏らのメタ分析では、この効果は満足度については有意に正だった一方、再購入の意向、口コミ、企業イメージについては有意な効果が見られなかったと報告されています。さらに効果の大きさは、研究のデザインや対象者、業種によって変わっていました。
先に挙げた Gelbrich 氏と Roschk 氏のメタ分析でも、公正さの知覚と満足の結びつき方は、対象者、業種、苦情の種類によって変わっていました。金銭的でない失敗や、サービス業で起きた失敗では、とくに対人的な扱いの公正さに注意を払うべきだと述べています。つまり、同じ対応でも効き方は一律ではありません。
Tax 氏らの研究も、関係の厚みには限界があることを示しています。それまでの良い経験は、まずい苦情対応の影響を和らげるものの、その緩和は限られた範囲にとどまっていました。
実務上の含意は2つです。苦情対応を「挽回して評価を上げる機会」とみなすのは危うい。そして、長い付き合いの相手でも、まずい一次対応は関係に響く、ということです。
電話・メール・対面で変わる点
3つの要素は、どの手段でも同じです。変わるのは、それぞれの出し方です。
- 電話 — 表情が見えないため、受領の言い直しが「聞いていた」ことを示すほぼ唯一の手段になります。相手が話している間は相づちを短く入れ、途中で遮りません
- メール — 冒頭の2〜3行に受領と見通しを置きます。長い経緯説明から始めると、相手は最後まで読まないと何が起きるのか分かりません
- 対面 — 立ったままではなく、場所を移して座って聞けるかを先に考えます。メモを取る姿は、それ自体が受領の合図になります
まとめ
苦情を受けた最初の応対で、相手は補償の中身より先に、自分がどう扱われているかを読んでいます。研究が示すように、対人的な扱いは処理全体の評価を支える柱の一つです。
最初の応対は、受領・確認・見通しの3つで組み立てます。謝罪は冒頭で短く一度、相手の手間に対して行い、原因への謝罪は事実が分かってからにします。そして、良い対応で評価が上がることを期待するのではなく、約束した時刻に次の連絡を入れることを最初の目標に置きます。
参考文献・出典
- Davidow, M. (2003). Organizational responses to customer complaints: What works and what doesn’t. Journal of Service Research, 5(3), 225-250. https://doi.org/10.1177/1094670502238917
- de Matos, C. A., Henrique, J. L., & Rossi, C. A. V. (2007). Service recovery paradox: A meta-analysis. Journal of Service Research, 10(1), 60-77. https://doi.org/10.1177/1094670507303012
- Gelbrich, K., & Roschk, H. (2011). A meta-analysis of organizational complaint handling and customer responses. Journal of Service Research, 14(1), 24-43. https://doi.org/10.1177/1094670510387914
- Tax, S. S., Brown, S. W., & Chandrashekaran, M. (1998). Customer evaluations of service complaint experiences: Implications for relationship marketing. Journal of Marketing, 62(2), 60-76. https://doi.org/10.1177/002224299806200205