悪い知らせは、伝える側が先にためらう
悪い知らせの場面で最初につまずくのは、聞き手ではなく伝える側です。どう切り出すかを考えているうちに、話すタイミングそのものが後ろへずれていきます。
心理学では、人が良い知らせより悪い知らせを伝えるのをためらう傾向を「MUM効果」と呼び、繰り返し確かめられてきました。Dibble 氏と Levine 氏は、このためらいが悪い知らせを避けたい気持ちから来るのか、良い知らせを早く伝えたい気持ちから来るのかを実験で調べています。114名の参加者が、面識のない相手にテストの結果を伝える役を担いました。
結果は、両方でした。伝える結果が悪いほど、伝え始めるまでの時間は長くなり、ためらいも強くなりました。逆に良い結果ほど、早く伝えようとしました。悪い知らせは抱え込まれ、良い知らせは急いで渡される、ということです。
職場では、報告の冒頭に明るい話題を並べ、悪い数字は最後に少しだけ触れる、という形で現れます。伝える側の都合で決まった順番が、そのまま聞き手に届いているわけです。
受け手は、悪い知らせを先に聞きたがる
では受け手は、どの順番で聞きたいのでしょうか。
Legg 氏と Sweeny 氏は、良い知らせと悪い知らせが混ざっている場面を想定し、3つの研究で伝える側と受け手の好みを比べました。最初の研究で確かめられたのは、伝える側と受け手とでは、好む順番が違うということです。受け手は悪い知らせを先に聞くほうを好み、伝える側はそれと違う順番を選びがちでした。
2つ目の研究では、このずれを埋める方法が試されました。伝える側に受け手の立場を想像させるか、相手の気持ちを守ることを意識させると、伝える側の順番は受け手の好む順番に寄りました。順番のずれは、話し手の性格ではなく視点の置き方で動くということです。
ただし、3つ目の研究には注意すべき結果があります。受け手の好みどおり悪い知らせから伝えると、受け手の心配は減りました。一方で、その安心によって、行動を変えようとする意欲も下がったのです。
つまり「悪い知らせを先に」は受け手の気持ちには合っていても、それだけでは片づきません。この点は後の「順番」の節で扱います。
伝えた人が嫌われやすい理由
伝える側がためらうのには理由があります。実際に、伝えた人が損をするのです。
John 氏らは11の実験で、知らせの中身に何の責任もない伝え手でも、悪い知らせを伝えると好かれにくくなることを示しました。くじ引きのような偶然で決まった結果を伝えただけでも、そうなります。この効果は、たまたまその場にいただけの人には生じず、伝え手に固有のものでした。
研究者たちは、その理由を「起きたことの意味を知りたい」という欲求に求めています。悪い知らせを受けると、人は近くにいる人に意図を読み込むのです。知らせが予想外であるほど伝え手は嫌われやすく、伝え手に悪意があったと誤って推測する傾向とも結びついていました。
一方で、希望の持てる結果もあります。伝え手の動機が善意であることを受け手が知ると、嫌われる傾向は和らぎました。
実験で操作されたのは伝え手の動機の情報であり、特定の言い回しではありません。それでも実務上の含意は読み取れます。なぜ自分がこれを伝えるのか、相手にとって何を守ろうとしているのかを、言葉にして添えることです。誰が話すかで受け取られ方が変わる点は、同じ話でも、誰が話すかで伝わり方が変わるで扱っています。
伝え方を決める3つの要素
ここまでの3つの研究は、伝える側の心理と受け手の反応を明らかにしたものです。どの言い方が最も良い結果を生むかを直接比べたものではありません。そこで本稿では、研究が示した傾向を踏まえ、伝える場面を次の3つの要素で組み立てます。どれか一つが欠けると、残りの二つが整っていても話は届きにくくなります。
- 順番 — 結論を前置きの後ろに隠さない
- 情報量 — 一度に渡す量を相手に合わせる
- 次の一手 — この後どうするかを置く
順番 — 結論を前置きの後ろに隠さない
最も起きやすい失敗は、本題の前に長い前置きを置くことです。聞き手はその間ずっと「何を言われるのか」を探りながら聞いています。
先に見たMUM効果を踏まえると、前置きは聞き手のためではなく、切り出す瞬間を遅らせるために置かれていることが多いと言えます。
実務では、最初の1〜2文で知らせの中身を言います。
- 「今日は、来期の予算についてお伝えしなければならないことがあります。新しいプロジェクトの予算は、承認されませんでした」
そのうえで、Legg 氏と Sweeny 氏の研究が示した注意を反映させます。悪い知らせを先に伝えて相手の心配が和らいだところで話を終えると、変える意欲まで下がる可能性があります。相手に行動を変えてもらう必要がある場面では、安心で話を閉じず、求める行動を最後に具体的に置くようにします。これは研究結果からの推論ですが、順番を「先か後か」の二択で考えないための手がかりになります。
技術的な不具合や遅延を報告する場面での、事実・状態・見通し・原因という報告の順番は、MITに学ぶ、技術者のための伝える力で扱っています。本稿で扱うのは、報告というより、相手の立場や処遇に関わる知らせです。
情報量 — 一度に渡す量を相手に合わせる
結論を先に言ったあと、経緯や数字をどこまで話すかが次の判断です。
医療の分野では、悪い知らせの伝え方が長く議論されてきました。Ptacek 氏と Eberhardt 氏は、この分野の文献をレビューし、繰り返し挙げられている13の推奨を整理しています。その中には、患者のペースに合わせて伝える、何らかの希望を伝える、共感を持って伝える、といった項目が含まれていました。
同じレビューは、この分野の文献は多いものの実証研究が足りず、まず伝え方の違いがその後の適応を左右するのかを確かめる必要がある、と結論づけています。推奨の効果が確かめられているわけではありません。
それでも「相手のペースに合わせる」考え方は業務でも役立ちます。知らせを聞いた直後の人は、細かい数字を受け取れる状態にないことがあります。
- 結論を伝えたら、一度話を止めて相手の反応を待つ
- 「詳しい経緯もお話しできますが、今お聞きになりますか」と、量を相手に選ばせる
- 資料は手元に用意しておき、求められたら出す
用意した説明を全部話すことと、相手に伝わることは別です。一度で伝えきれない情報は、次の面談や書面に分けて渡します。
次の一手 — この後どうするかを置く
悪い知らせを聞いた人が次に知りたいのは、この後自分はどうすればよいのか、です。
伝える側はしばしば、知らせを言い終えた時点で役目を果たしたと感じます。しかし聞き手にとっては、そこからが始まりです。相手が次の状況へ移るところまでを、伝える側の仕事に含めます。後で見る医療の手順も、伝えた後に今後の方針を患者と一緒に考えることを目的の一つに挙げています。
次の一手には、少なくとも次の3つを入れます。
- 決まっていること — 「予算の再申請は、次の四半期から可能です」
- 決まっていないこと — 「チームの体制をどうするかは、まだ決まっていません」
- 次に話す機会 — 「来週の火曜日に、もう一度時間をください」
次に話す日時を約束しておけば、相手は今日すべてを理解しなくてもよくなります。情報量の調整は、この約束があって初めて成り立ちます。
医療の手順を、業務に持ち込むときの注意
悪い知らせの伝え方で最もよく知られている手順の一つに、SPIKES があります。Baile 氏らが、がん患者に病状を告げる面談のために提案した6段階の手順です。
この手順の目的として挙げられているのは、患者から情報を得る、医学的な情報を伝える、患者を支える、今後の方針づくりに患者の協力を得る、という4つです。伝える前に相手が何を知っているかを確かめ、伝えた後に一緒に次の方針を考える、という構造は、業務の場面にも参考になります。
ただし、業務にそのまま当てはめることには慎重であるべきです。1つは、作られた場面が違うことです。上司と部下や、企業と取引先の関係を想定したものではありません。もう1つは、確かめられた範囲が限られていることです。報告されているのは、手順を学んだ医師や医学生が、悪い知らせを伝えることへの自信が高まったと答えたことです。患者の受け止め方や、その後の経過が改善したことまでは示されていません。
医療の手順から借りられるのは、「伝える前に相手の理解を確かめる」「伝えた後に次の方針を一緒に考える」という構造です。患者への説明で不安を和らげる方法そのものは、医療従事者のための、不安を和らげる説明で扱っています。
減益・撤退・人事異動での使い分け
3つの要素は同じでも、場面によって重心が変わります。以下は研究結果ではなく、ここまでの整理を実務に当てはめた例です。
- 減益の説明(チーム全体へ) — 順番に重心を置きます。冒頭で数字を言い、原因と対応を続けます。一人ひとりのペースには合わせにくいので、質問を受ける場を別に設けます
- プロジェクトの撤退(担当チームへ) — 次の一手に重心を置きます。これまでの仕事がどう扱われるのか、メンバーが次にどこで働くのかが、最も知りたいことだからです。決まっていないことは、決まっていないと言います
- 本人が望まない異動(1対1で) — 情報量に重心を置きます。結論を伝えたら話を止め、相手の反応を待ちます。理由の説明を一度に重ねると、相手には言い訳として聞こえることがあります
どの場面でも避けたいのは、次のような伝え方です。
- 前置きの最後に、ついでのように本題を置く
- 「私も反対したのですが」と、自分だけを知らせから切り離す
- 決まっていないことを、決まっているかのように言う
2つ目は、伝え手が嫌われるのを避けたい気持ちから出やすい言い方です。しかし先に見たように、和らげる手がかりになるのは伝え手の善意が伝わることであり、責任の所在を曖昧にすることではありません。組織のトップが交代を伝える場面は事業承継・トップ交代時の発信設計、対外的な記者会見はグローバル企業のクライシス会見に学ぶで扱っています。
まとめ
悪い知らせの場面では、伝える側はためらい、受け手は先に聞きたがり、伝えた人は嫌われやすくなります。
伝え方は、順番・情報量・次の一手の3つで組み立てます。ただし「悪い知らせは先に」を万能の答えにはしません。相手に行動を変えてもらう必要があるなら、安心で話を閉じず、求めることを最後に置きます。そしてなぜ自分がこれを伝えるのかを、言葉にして添えることを忘れないようにします。
参考文献・出典
- Baile, W. F., Buckman, R., Lenzi, R., Glober, G., Beale, E. A., & Kudelka, A. P. (2000). SPIKES—A six-step protocol for delivering bad news: Application to the patient with cancer. The Oncologist, 5(4), 302-311. https://doi.org/10.1634/theoncologist.5-4-302
- Dibble, J. L., & Levine, T. R. (2010). Breaking good and bad news: Direction of the MUM effect and senders’ cognitive representations of news valence. Communication Research, 37(5), 703-722. https://doi.org/10.1177/0093650209356440
- John, L. K., Blunden, H., & Liu, H. (2019). Shooting the messenger. Journal of Experimental Psychology: General, 148(4), 644-666. https://doi.org/10.1037/xge0000586
- Legg, A. M., & Sweeny, K. (2014). Do you want the good news or the bad news first? The nature and consequences of news order preferences. Personality and Social Psychology Bulletin, 40(3), 279-288. https://doi.org/10.1177/0146167213509113
- Ptacek, J. T., & Eberhardt, T. L. (1996). Breaking bad news: A review of the literature. JAMA, 276(6), 496-502. https://doi.org/10.1001/jama.1996.03540060072041