条件が同じなら、最後は人で決まる
最終面接まで進んだ候補者が、給与も役割もほぼ変わらない他社を選んで辞退した。条件で負けたわけではないのに、選ばれなかった。採用に関わる経営層なら、一度は経験する場面です。
このとき何が起きていたのかは、記録に残りません。辞退の理由は「ご縁がなかった」で終わることがほとんどで、候補者が本当に何を見ていたのかは伝わってきません。
このサイトには面接をテーマにした記事がいくつかありますが、実績の伝え方も逆質問の準備も、すべて候補者の側から書いたものです。この記事は視点を反対側に置きます。経営層が面接の場で候補者に何を渡しているのかを、採用の研究をもとに整理します。
面接は、会社が選ぶ場であると同時に選ばれる場である
採用側は、面接を「見極める場」として設計します。質問項目を決め、評価軸をそろえ、候補者の発言から適性を判断する。この設計自体は必要なものです。
ただし同じ時間、候補者の側も判断しています。Chapman 氏らは、応募者が組織に惹きつけられる過程と職務選択の結果に関わる要因を統合したメタ分析を行い、職務や組織の特徴だけでなく、採用に関わる人の行動や選考プロセスの受け取られ方が、応募者の意思に結びついていることを整理しました。
さらに Uggerslev 氏らは、232件の研究(延べ約10万8千人)をまとめた分析で、選考の段階が進むほど採用プロセスそのものの特徴が重く見られるようになることを示しています。書類の段階では待遇や事業内容が判断の中心でも、最終段階に近づくほど「どう選考されたか」の比重が上がるという構図です。
最終面接に経営層が出る意味は、ここにあります。候補者にとってそれは、会社の中身を確かめられる最後の機会になっています。
経営層が候補者へ渡している3つのもの
経営層が採用の場で渡しているものは、事業説明や条件提示だけではありません。候補者が持ち帰る判断材料は、大きく3つに分かれます。
- 一貫性 — 会社が外へ出している言葉と、目の前の経営者が話す言葉が合っているか
- 扱われ方 — 候補者自身が選考の過程でどう扱われたか
- 本音 — 良いことだけでなく、課題や弱みも語れるか
一貫性 — 採用サイトの言葉と面接で聞く言葉がずれていないか
候補者は面接の前に、採用サイト、経営者のインタビュー記事、社員の発信を読んでいます。そこで得た会社像を持って面接に来ます。
ずれは、細かいところに出ます。採用サイトに「挑戦を歓迎する」と書いてあるのに、面接での質問が失敗の追及に偏っている。「フラットな組織」と掲げているのに、同席した役員が社長の顔色を見ながら話す。候補者はこの差を、言葉ではなく空気として受け取ります。
Cable 氏と Judge 氏の研究は、応募者が自分と組織が合っていると感じる度合いが、就職先の選択に関わっていることを扱っています。ここで働くのは「実際に合っているか」ではなく「合っていると感じられるか」です。外向けの言葉と面接での言葉がずれていると、候補者はどちらを信じてよいか分からなくなり、合っているという感覚そのものが立ち上がりません。
経営者の言葉が組織の文化として社内に根づく条件は別の記事で扱いましたが、社外の候補者に対しても同じことが起きています。違うのは、候補者には確かめる時間が数時間しかないという点です。
扱われ方 — 候補者は自分の扱われ方から社員の扱われ方を推測する
候補者が最も具体的に観察できるのは、自分自身が受けた扱いです。
Rynes 氏らは、就職活動中の学生に縦断的なインタビューを行い、どう意思決定したかを本人の言葉で語ってもらいました。その結果、応募者は面接担当者の力量、面接に出てきた人の顔ぶれ、選考結果の連絡が遅れることといった経験を、その組織全体の性質を示すものとして解釈していたことが分かりました。とくに選考の遅れは、強い負の影響を持っていました。
これは推測の連鎖です。連絡が二週間遅れる会社は、社内の意思決定も遅いのだろう。面接官が資料を読んでいないなら、入社後も準備なく会議が始まるのだろう。候補者は自分に対する扱いを、社員に対する扱いの見本として読みます。
経営層が直接関わるのは最終面接だけかもしれません。しかしそこに至るまでの日程調整、連絡の速さ、面接官の準備は、すべて同じ会社の振る舞いとして候補者の中に積み上がっています。最終面接で経営者がどれだけ良い話をしても、そこまでの経験は消えません。
本音 — 弱みを言えるかどうかが判断材料になる
面接で経営者が会社の良い面だけを話すと、候補者は判断材料を得られません。良い面は採用サイトに書いてあるからです。
一方で、課題を率直に語る経営者に会うと、候補者は材料を手にします。「この事業はまだ利益が出ていない」「管理職の育成が追いついていない」「この職種は社内に前例がなく、最初の一年は手探りになる」。こうした話は、聞いた候補者を遠ざけることもありますが、残った候補者には強い納得を残します。
弱みを言うことは、自社を低く見せることではありません。何が課題かを把握していて、それを外の人に説明できる状態にあることを示す行為です。逆に、課題を尋ねられて具体的に答えられない経営者は、把握していないか、話せないかのどちらかだと受け取られます。
ここで大事なのは、弱みを語ったあとに何を続けるかです。課題だけを並べて終えると不安が残ります。「だから今この役割を採用している」まで言い切ることで、候補者にとっての意味が定まります。
「うちは面白い会社です」が響かない理由
面接で経営者がよく使う表現に、「うちは面白い会社です」「風通しがいいです」「若手にも裁量があります」があります。これらはほとんど機能しません。
理由は単純で、内容がないからです。どの会社も同じことを言うため、候補者は差を測れません。さらに、これらは評価を語る言葉です。面白いかどうかを決めるのは候補者であって、会社ではありません。
置き換えるべきなのは、事実です。「若手にも裁量があります」ではなく「入社二年目の社員が、この製品の価格改定を提案して通しました」。「風通しがいいです」ではなく「役員会の議事録は全社員が読めます」。事実を出せば、候補者は自分で評価できます。
第一印象はごく短い時間で立ち上がることが知られていますが、その後の数十分で候補者が検証しているのは、最初の印象が事実に支えられているかどうかです。抽象的な自己評価が続くほど、検証の材料が足りなくなります。
最終面接で経営者が話しすぎるとき
最終面接は、経営者が話しすぎる場になりがちです。自社への思い入れが強いほど、事業構想や創業の経緯を語る時間が伸びます。
ここで二つの問題が起きます。ひとつは、候補者が話す時間が削られ、見極めの精度が落ちること。もうひとつは、候補者が「この人は聞かない人だ」という印象を持ち帰ることです。入社後に自分の意見が届くかどうかを、候補者はこの時間から推測します。
有効なのは、時間配分を先に決めておくことです。60分なら、経営者が話すのは合計20分までとし、残りは候補者の話と質疑に充てる。とくに終盤の質疑では、候補者からの質問にどう答えるかが観察されています。答えを持ち合わせていない問いに対して、その場で取り繕うのか、分からないと言って後日返すのか。この選択は、社内で判断が詰まったときの振る舞いとして読まれます。
オンラインで実施する場合は、話しすぎの影響がさらに大きくなります。画面越しでは相手の反応が読み取りにくいため、経営者が一方的に話し続けても止まる合図が入りません。時間の管理は、人事側が事前に合意しておくほうが確実です。
断られた候補者に何が残るか
採用の成果は、入社した人だけで測られません。辞退した候補者、不採用にした候補者も、その会社についての印象を持って市場に戻ります。
Hausknecht 氏らは、86の独立したサンプル(延べ約4万9千人)を統合した分析で、選考の進め方に肯定的な印象を持った応募者ほど、その組織を好意的に評価し、内定を受け入れる意思と、他者にその会社を勧める意思が強かったことを示しました。推薦の意思が含まれている点が重要です。選考の体験は、その候補者一人の判断だけでなく、周囲への伝わり方にも関わっています。
実務としてできることは限られていますが、効果はあります。不採用の連絡を約束した期日までに出す。可能な範囲で、判断の理由を一言添える。最終面接まで来た候補者には、経営層の名前で連絡する。いずれも手間ですが、断られた候補者に何を残すかは、次の採用の条件を決めます。
経営層が採用の場で準備しておくこと
面接に臨む前に、次の項目を確認してください。
- 自社の採用サイトと直近のインタビュー記事に、今日話す内容と矛盾する記述がないか読み返した
- 会社の課題を三つ挙げ、それぞれ二文で説明できる状態にした
- 「面白い」「風通しがいい」といった評価語を、具体的な事実に置き換える準備をした
- この職種を採用する理由を、事業計画の言葉で説明できるようにした
- 60分の面接で、自分が話す時間の上限を決めた
- 答えられない質問が来たときの対応(その場で取り繕わず、後日返す)を決めた
- 候補者がここまでの選考で受けた扱い(連絡の間隔、面接官の顔ぶれ)を把握した
- 不採用・辞退となった候補者への連絡方法と期日を人事と合意した
この準備は、話し方を磨くこととは別のものです。経営者の言葉が組織に届く条件と同じく、語る内容が実際の判断と一致しているかどうかが問われています。
まとめ
条件が並んだ候補者が最後に何を見て決めるのかは、記録に残りません。しかし採用の研究は、応募者が選考の過程で得た経験を、その組織の性質を推し量る手がかりとして使っていることを繰り返し示しています。
ここで確認しておきたいのは、研究が示しているのは「採用に関わる人の行動や選考プロセスの受け取られ方が、応募者の意思に関係している」という範囲までだということです。経営者の人間性が採用の成否を決める、という話ではありません。
それでも、経営層が採用の場で渡しているものが、一貫性、扱われ方、本音の3つに整理できることは変わりません。いずれも面接の当日に作れるものではなく、日頃の判断と発信の延長線上にあります。
採用は、会社が候補者を評価する場であると同時に、候補者が会社を評価する場です。その評価は、こちらが用意した説明ではなく、こちらが取った振る舞いに向けられています。
参考文献・出典
本記事で触れた研究の一次情報は以下のとおりです。
- Chapman, D. S., Uggerslev, K. L., Carroll, S. A., Piasentin, K. A., & Jones, D. A. (2005). Applicant attraction to organizations and job choice: A meta-analytic review of the correlates of recruiting outcomes. Journal of Applied Psychology, 90(5), 928-944. https://doi.org/10.1037/0021-9010.90.5.928
- Uggerslev, K. L., Fassina, N. E., & Kraichy, D. (2012). Recruiting through the stages: A meta-analytic test of predictors of applicant attraction at different stages of the recruiting process. Personnel Psychology, 65(3), 597-660. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.2012.01254.x
- Rynes, S. L., Bretz, R. D., & Gerhart, B. (1991). The importance of recruitment in job choice: A different way of looking. Personnel Psychology, 44(3), 487-521. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1991.tb02402.x
- Cable, D. M., & Judge, T. A. (1996). Person-organization fit, job choice decisions, and organizational entry. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 67(3), 294-311. https://doi.org/10.1006/obhd.1996.0081
- Hausknecht, J. P., Day, D. V., & Thomas, S. C. (2004). Applicant reactions to selection procedures: An updated model and meta-analysis. Personnel Psychology, 57(3), 639-683. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.2004.00003.x