経営者には、迷わず答える姿が求められがちです。部下の前で「分からない」と言えば頼りなく見える。そう感じている方も多いでしょう。
一方で、組織研究では、リーダーの謙虚さが部下や組織にどう関わるかが調べられてきました。本記事では三つの研究を取り上げ、謙虚な振る舞いが部下に何をもたらすのかを整理します。
経営者は、弱みを見せてはいけないのか
経営者が答えに詰まると、部下は不安になる。この心配には一理あります。ただ、すべてに答えを持っているように振る舞い続けると、次のようなことが起きがちです。
- 部下が、経営者の知らない現場の情報を上げにくくなる
- 経営者の見立てが外れていても、誰も指摘しない
- 部下も「分からない」と言えず、分かったふりで仕事を進める
こうなると、経営者に届く情報は、経営者の考えに合うものばかりになっていきます。判断の材料が偏れば、経験の長い経営者でも見誤ることがあるでしょう。
答えを持つ姿を見せることと、分からないことを隠すことは別の話です。研究は、この後者が部下に与える影響を扱っています。
研究が扱う「謙虚さ」— 周りから見た振る舞い
謙虚さは、内面の性格として語られることの多い言葉です。Owens 氏らは2013年、八つの実験室・現場のサンプルを使って、組織における表に現れた謙虚さを研究しました。
注目したいのは、Owens 氏らが謙虚さを、本人の自己申告ではなく周りの人が評定する尺度として開発した点です。つまり研究が扱っているのは、本人が謙虚な気持ちでいるかどうかではなく、周りから謙虚に振る舞っていると見えるかどうかです。
図は、本稿が研究をもとに実務向けに整理した三つの振る舞いで、研究の尺度そのものではありません。本稿では、この三つを順に取り上げていきます。
55人のリーダーへの聞き取りから見えたこと
Owens 氏と Hekman 氏は2012年、さまざまな組織のリーダー55人に詳しい聞き取りを行い、謙虚なリーダーの振る舞い、その結果、効果を左右する条件をモデルにまとめました。
二人が見出したのは、謙虚なリーダーは「どう成長するか」を部下に手本として示しているということです。リーダーが自分の限界や学びの途中にあることを隠さないと、部下は、自分が成長の途中にあることや、確信が持てない気持ちを職場で抱いてよいと考えるようになる、と二人は述べています。
ただし、これは聞き取りからモデルを組み立てた研究です。謙虚な振る舞いが部下の変化を引き起こすことを実験で確かめたものではありません。ここで示されたのは、因果を確かめる前の見取り図だと受け取るのが適切です。
謙虚さは、部下の定着と学ぶ姿勢に関係していた
Owens 氏らの2013年の研究のうち、三つ目の研究は大規模な現場のサンプルで、リーダーの謙虚さと部下の関係を調べています。結果は次の二つの経路にまとめられます。
- 職務満足を通じて、部下の定着と関係していた
- チームが学びを重んじる姿勢を通じて、部下の仕事への熱意(エンゲージメント)と関係していた
つまり、謙虚なリーダーのもとでは、部下が仕事に満足して辞めにくく、チームとして学ぶことを大事にする雰囲気の中で、仕事に打ち込みやすい傾向が見られました。
ここで注意したいのは、謙虚さが業績を直接押し上げると示されたわけではないことです。示されたのは、満足や学びの姿勢といった途中の経路を介した関係です。
同じ論文の二つ目の研究は、リーダーではなく働く本人の謙虚さを扱っています。本人の謙虚さと個人の成績の関係を、誠実さや自分の能力への自信、知的能力と比べて検討し、個人の成績については、謙虚さが知的能力の低さを補う可能性があると報告しました。謙虚さは、上に立つ人だけの話ではないということです。
経営者の謙虚さは、経営チームと中間管理職にも届く
では、組織のトップの謙虚さはどうか。Ou 氏らは2014年、中国の民間企業63社で、経営陣328人と中間管理職645人に2回の調査を行いました。
分析の結果、CEO の謙虚さは、部下に権限を委ねて力を引き出す振る舞いと関係していました。その振る舞いは経営チームのまとまりと関係し、さらに中間管理職が「権限を任されている」と感じる職場の雰囲気につながっていました。そして中間管理職のその受け止めは、仕事への熱意、組織への愛着、職務の成績と関係していました。
経営者一人の振る舞いが、直接の部下である経営陣を越えて、その先の管理職の受け止めにまで関係していたことになります。Ou 氏らは、周りの人の受け止め方から職場の情報を読み取るという理論を土台に、謙虚な CEO は経営陣と中間管理職の両方の層で共有される「任されている」という受け止めを通じて、その人たちとつながっていると解釈しています。
この研究では、CEO 51人への聞き取りも行われ、経営者にとって謙虚さが何を意味するのか、謙虚さの高い経営者と低い経営者で何が違うのかについて、数字だけでは見えない手がかりを補っています。
ただし、対象は中国の民間企業で、調査によって関係を見たものです。日本の組織で同じ結果が出るかは確かめられていません。ここから先、日本の職場に当てはめて述べる部分は、本稿の推論です。
謙虚さと自己卑下は違う
謙虚さを、自分を低く見せることと取り違えないようにしたいところです。スピーチの冒頭で「未熟者ですが」と自分の能力を値引きする話し方が信頼を下げることは、「すみません」から始めるスピーチが損をする理由で扱いました。
本稿の文脈で言えば、違いは次のように整理できます。
| 観点 | 謙虚さ | 自己卑下 |
|---|---|---|
| 何を認めるか | 分からない点と、他者の貢献 | 自分の能力の低さ |
| その後の行動 | 調べる・聞く・任せる | 何もしない |
| 部下が受け取ること | 分からないことを言ってよい | この人に任せて大丈夫か |
謙虚な経営者は、自分を小さく見せているのではありません。分からない点を特定し、誰から学べるかを示しているのです。
会議で「分からない」を言う言葉の例
ここからは研究の外の、実務上の提案です。「分からない」は、そこで止めると頼りなく聞こえます。分からない点と、次に何をするかを一緒に言うのが基本です。
- 「その数字は把握していません。〇〇さん、現場ではどう見えていますか」
- 「正直、私には判断がつきません。来週の会議までに、営業と経理の両方から話を聞いて決めます」
- 「先月の私の見立ては外れていました。何を見落としていたか、一緒に確かめたい」
三つ目のように、自分の判断の誤りを認める言葉は特に重く響きます。経営者が先に言えば、部下も自分の見込み違いを報告しやすくなるでしょう。
反対に、避けたい言い方もあります。
- 「私には分からないから、任せる」 — 丸投げに聞こえ、判断の責任まで手放したと受け取られやすい
- 「分からないけれど、たぶん大丈夫」 — 根拠のない見通しは、外れたときに信頼を大きく損なう
- 「そんなことは現場で考えてほしい」 — 自分が分からないことを、部下の責任に置き換えている
どれも分からないことは認めていますが、次に何をするかが抜けています。
1on1でも同じです。部下の相談に即答できないとき、「それは私も分からない。あなたはどう考えていますか」と返せば、部下が考えを話す場になります。部下のほうが「分からない」と言ったときの受け止め方は、部下が話しやすくなる上司の反応で扱いました。
部下の貢献を、名指しで認める
謙虚さのもう一つの柱は、他者の強みと貢献を認めることです。成果が出たとき、経営者がまとめて「皆さんのおかげです」と言うのは丁寧ですが、誰の何が効いたのかが伝わりません。
- 「今回の受注は、〇〇さんが三か月前に先方の課題を聞き出していたことが決め手でした」
- 「この改善案は△△さんの提案です。私は最初、必要ないと思っていました」
二つ目の例は、貢献を認めることと、自分の見立てが外れていたことを認めることを、一度に行っています。誰が、何をしたかを具体的に言うことで、部下は自分の仕事が見られていると受け取ります。
反対に、部下の働きを経営者自身の判断の成果としてだけ語ると、部下は次の提案をためらうようになるかもしれません。認める場は、全体の会議でも、本人への短い一言でも構いません。
部下から学ぶ姿を見せる
三つ目の振る舞いは、学ぶ姿勢です。これも研究の外の、実務上の提案です。経営者が「学んでいる」と口で言うだけでは、部下には伝わりにくいものです。誰から何を学び、それで何を変えたかが見えたとき、学ぶ姿勢は初めて伝わります。
- 部下に意見を求めたら、採ったか採らなかったかを、理由とともに本人へ返す
- 「〇〇さんに教わったのですが」と、部下から得た知識を会議で出どころ付きで紹介する
- 自分の苦手な分野を挙げ、その分野に詳しい若手に定期的に話を聞く時間を取る
一つ目は特に大切です。意見を出しても何の返事もなければ、部下は次から意見を出さなくなるでしょう。採らなかった場合も、「今回は見送ります。理由は〇〇です。この点は次の計画で使わせてください」と返せば、意見を出したこと自体は無駄になりません。
謙虚さが裏目に出る場面
Owens 氏と Hekman 氏の聞き取り研究は、謙虚な振る舞いの効果を左右する条件も、モデルの一部に含めています。謙虚であればいつでも良い結果になる、という単純な話ではないということです。
本稿の考えとして、実務で気をつけたい場面を挙げます。
- 決めるべきときに決めない — 「分からない」を理由に判断を先送りし続けると、部下は責任を押し付けられたと感じかねない
- 危機の場面で迷いだけを見せる — 迷いを口にするなら、いつまでに何を決めるかを必ず添える
- 言葉と行動が合わない — 「意見がほしい」と言いながら、出た意見を採らない理由も説明しなければ、謙虚さは形だけになる
謙虚さは、判断の責任を手放すことではありません。判断の材料を集めるために、自分の限界を開くことです。
まとめ
研究では、謙虚なリーダーは成長の仕方を部下に示し、部下は自分の未熟さや迷いを職場で抱いてよいと感じるようになるとされました。リーダーの謙虚さは部下の定着や仕事への熱意と、CEO の謙虚さは中間管理職の熱意や成績と関係していました。いずれも因果を確かめたものではなく、後者は中国企業の調査です。
「分からない」と言うときは、次にすることを添える。貢献は名指しで認める。この二つが、明日の会議から始められる一歩です。
参考文献・出典
- Owens, B. P., & Hekman, D. R. (2012). Modeling how to grow: An inductive examination of humble leader behaviors, contingencies, and outcomes. Academy of Management Journal, 55(4), 787-818. https://doi.org/10.5465/amj.2010.0441
- Owens, B. P., Johnson, M. D., & Mitchell, T. R. (2013). Expressed humility in organizations: Implications for performance, teams, and leadership. Organization Science, 24(5), 1517-1538. https://doi.org/10.1287/orsc.1120.0795
- Ou, A. Y., Tsui, A. S., Kinicki, A. J., Waldman, D. A., Xiao, Z., & Song, L. J. (2014). Humble chief executive officers’ connections to top management team integration and middle managers’ responses. Administrative Science Quarterly, 59(1), 34-72. https://doi.org/10.1177/0001839213520131