人は集まったのに、次につながらない

セミナーや事業説明会を開き、席は埋まった。終了後のアンケートも悪くない。それなのに、翌月になっても商談の数が変わらない。この落差は、多くの会社が一度は経験します。

原因を当日に探すと、たいてい進行や登壇者の話し方に行き着きます。しかし当日にできることには限りがあります。その場に誰が座っているかは、開催より前に決まっているからです。来場者の顔ぶれ、その人たちが何を期待して申し込んだか、終わったあとに何をすればいいと思っているか。これらはすべて、企画の段階で決まります。当日は、その設計をなぞる時間です。

イベントの投資対効果を測った研究もあります。Gopalakrishna 氏らは、分析機器メーカー1社が出展した1つの展示会について、増分の売上と利益を追跡し、その展示会が正の経済的リターンを生んだこと、製品の認知と関心の醸成にも効果があったことを報告しました。1社・1展示会という限定的な条件での測定ですが、条件を整えれば集客イベントの成果は測れるという点は、企画を考えるうえでの出発点になります。測れるということは、設計できるということです。

「何を話すか」より先に決めることがある

企画会議は、たいてい「何を話すか」から始まります。テーマを決め、登壇者を探し、時間割を組む。この順序は自然に見えますが、成果から見ると一段飛ばしています。

Gopalakrishna 氏と Lilien 氏は、展示会の成果を1つの数字で測るのではなく、集客(attraction)・接触(contact)・転換(conversion)という3つの段階に分けて捉えるモデルを提示しました。1991年の大規模展示会に出展した85社のデータを用いた分析では、事前告知、ブースの広さ、注意を引く工夫、競合の状況、要員の人数と訓練といった変数が、それぞれの段階に対して異なる効き方をしていました。

この研究は展示会の出展を扱ったもので、自社開催のセミナーをそのまま説明するものではありません。ただし、示された構図は転用できます。成果は一つの塊ではなく、段階に分かれている。そして段階ごとに効く手が違う以上、「当日をうまくやる」という単一の努力では、途中の段階で落ちた人を取り戻せません。

段階に分けて考えると、企画の段階で決めるべきことがはっきりします。誰に届けば集客が成立するのか、来た人と何が起きれば接触と呼べるのか、どうなれば転換したと言えるのか。この3つです。

成果につながる企画の3要素 — 対象は来てほしい人を一種類に絞る、約束は持ち帰るものを一文で示す、出口は終了後の行動を先に決める、の3段構成を示す図
図|集客イベントの企画で先に決める3要素

成果につながる企画の3要素

実務に落とすと、企画の段階で決めておくべきことは次の3つに集約されます。

  1. 対象 — 来てほしい人を一種類に絞る
  2. 約束 — 参加者が持ち帰るものを一文で示す
  3. 出口 — 終了後にとってほしい行動を先に決める

この3つが決まっていれば、テーマも登壇者も告知文も、そこから逆算して決められます。逆に3つが曖昧なまま日程だけが先に決まると、企画は「集められそうな人に、話せそうな内容を、とりあえず話す」形に落ちていきます。

対象 — 来てほしい人を一種類に絞る

最初に決めるのは対象です。ここで多くの企画がつまずきます。席を埋めたいという気持ちが働くと、対象はどうしても広がるからです。経営者も、現場の担当者も、同業者も、学生も歓迎します、という告知になります。

しかし対象を広げると、告知文は抽象的になります。誰にでも当てはまる言葉は、誰の課題にも刺さりません。結果として、集まるのは「なんとなく関心がある人」に偏ります。

絞り方は、属性ではなく状況で考えると精度が上がります。「製造業の部長職」ではなく、「来期の予算編成でこの課題に手をつけると決めている人」。その状況にいる人が読んだときだけ、自分のことだと分かる言葉で書けるかどうかが基準です。

対象を一種類に絞ると、当日の会場に同じ問題意識の人が並びます。これは質疑の質を変えます。誰かの質問が、隣の人にとっても自分の質問になるからです。逆に対象が混ざっていると、ある人には初歩的すぎ、別の人には専門的すぎる話が同時に発生し、どちらの満足度も下がります。

約束 — 持ち帰るものを一文で示す

次に決めるのは、参加者が何を持ち帰るかです。これは「テーマ」とは違います。テーマは扱う領域を示すだけで、参加者にとっての利得を語っていません。

約束は一文で書きます。「終わったときに、自社で来月から試せる手順が3つ分かっている状態にする」。この形まで具体化できると、企画側にも二つの効果があります。ひとつは、告知文をこの一文から書き起こせること。もうひとつは、当日の内容がこの一文からずれていないかを判定できることです。

約束を書くときに避けたいのは、実際には提供しないものを書いてしまうことです。集客のために大きく約束すると、当日は期待とのずれが生まれます。参加者はその場では礼儀正しく振る舞いますが、次の行動には移りません。約束は、必ず果たせる範囲で書き、その範囲を確実に超える。これが次につながる最短の道です。

出口 — 終了後の行動を企画段階で決めておく

3つ目が出口です。イベントが終わった直後に、参加者にとってほしい行動を一つだけ決めておきます。個別相談の申し込みなのか、資料請求なのか、次回の実務ワークショップへの参加なのか。

出口を決めておく理由は、当日の設計がそこから逆算されるからです。個別相談を出口にするなら、相談したくなる材料を本編で渡しておく必要があります。何も渡さないまま最後に案内だけを置いても、行動は起きません。

出口は一つに絞ります。複数を並べると、参加者は選択を保留します。案内の場所も決めておきます。終了間際の駆け込みではなく、本編の中で一度触れ、終わりにもう一度置く。次の一歩をどう言葉にするかは、「結局何が言いたいの」と言わせない話の閉じ方で詳しく扱っています。

登壇者の選び方と、話してもらう範囲

対象・約束・出口が決まってから、登壇者を決めます。順序が逆になると、著名な人が空いていたからその人に合わせてテーマを組む、という企画になります。

登壇者に依頼するときは、テーマ名だけを伝えないようにします。伝えるべきは、対象がどういう状況の人か、約束した一文は何か、そして話してほしくない領域はどこか、の3点です。範囲を伝えないまま任せると、登壇者は自分が最も語り慣れた話をします。それは質の高い話ですが、その日の約束と重なるとはかぎりません。

自社の社員が登壇する場合も同じです。むしろ社内のほうが、事前のすり合わせが省略されがちです。持ち時間、触れる範囲、触れない範囲を書面で渡すところまでを企画に含めます。

進行が企画を殺す場合

企画が整っていても、当日の進行がそれを崩すことがあります。多いのは、進行役が場を明るく保つことに集中し、内容の筋を追わない場合です。登壇者の話が約束から逸れても軌道を戻さず、質疑が本題から離れても引き戻さない。場は和やかに終わりますが、約束は果たされていません。

これを避けるには、進行役にも企画の3要素を共有します。進行役が対象と約束と出口を把握していれば、逸れた話を戻す判断ができます。進行役が何にどこまで責任を持つ役割なのかはモデレーターの役割は、どこからどこまでかで、場の目的によって求められる職能がどう変わるかはビジネスMCは、イベント司会と何が違うのかで扱っています。社内の担当者が自分で進行を担う場合の実務は社内イベントの司会を任されたらにまとめています。

質疑と交流の時間をどこに置くか

質疑と交流の配置は、出口によって変わります。目的から逆算して決めます。

出口質疑と交流の置き方
個別相談につなげたい本編後に短い質疑、そのあと個別に話せる時間を確保する
次回の参加につなげたい質疑を長めに取り、扱いきれない論点を次回の予告に使う
導入検討を進めたい質疑より、同じ課題を持つ参加者どうしが話す時間を優先する

共通するのは、質疑を最後の余り時間にしないことです。時間が押したときに真っ先に削られるのが質疑ですが、参加者が自分の状況を言葉にする唯一の機会でもあります。ここで出た言葉は、そのまま次の接触の材料になります。登壇者が話しやすい状態をどうつくるかは登壇者が「話しやすい」と感じる進行で扱っています。

開催後2週間の設計

企画に含めるべき最後の部分が、終わったあとです。ここは最も抜けやすく、最も成果を左右します。

Sabnis 氏らは、マーケティング部門が生み出したリードのうち約7割が営業担当者に追跡されないまま残る現象を扱い、4社461名の営業担当者のデータから、追跡行動がリードの事前選別プロセスの質や管理側の追跡体制、リードの量、担当者の経験と実績によって変わることを示しました。名刺やアンケートを集めること自体は、次の接触を保証しません。

Smith 氏らは、リード生成・アポイント転換・受注という3段階のモデルを用い、問い合わせから営業が接触するまでの時間差や、営業側の処理能力を超えるリード量が、下流の成果を損ないうることを示しました。住宅リフォーム小売業との共同研究であり、業種は異なりますが、示された関係は集客イベントにも重なります。集めた数より、誰がいつ追うかを先に決めておくことのほうが効きます。

具体的には、企画書の段階で次を決めておきます。

  • 当日の反応をどう記録するか(相談希望・検討中・情報収集中の区別)
  • 誰が、何日以内に、どの区分に連絡するか
  • 連絡時に渡す資料を、開催前に用意しておく
  • 2週間経っても反応がない相手をどう扱うか

区分を分けるのは、全員に同じ連絡をすると、検討が進んでいる相手への対応が遅れるからです。個別の商談で関係をつくる進め方は営業の「雑談」を成果につなげる設計で扱っています。

まとめ

見込み顧客を集めるイベントの成果は、当日の出来映えより企画の精度で決まります。決めるべきは対象・約束・出口の3つで、登壇者も告知文も進行も、この3つからの逆算で決まります。

企画会議で最初に置く問いは、何を話すかではありません。この会が終わった2週間後に、何が起きていてほしいのか。その答えを先に書いてから、当日の中身を組み立てます。順序を変えるだけで、同じ予算と同じ登壇者でも残るものが変わります。

参考文献・出典

本記事で触れた研究・一次情報は以下のとおりです。

  • Gopalakrishna, S., Lilien, G. L., Williams, J. D., & Sequeira, I. K. (1995). Do trade shows pay off? Journal of Marketing, 59(3), 75–83. https://doi.org/10.1177/002224299505900307
  • Gopalakrishna, S., & Lilien, G. L. (1995). A three-stage model of industrial trade show performance. Marketing Science, 14(1), 22–42. https://doi.org/10.1287/mksc.14.1.22
  • Sabnis, G., Chatterjee, S. C., Grewal, R., & Lilien, G. L. (2013). The sales lead black hole: On sales reps’ follow-up of marketing leads. Journal of Marketing, 77(1), 52–67. https://doi.org/10.1509/jm.10.0047
  • Smith, T. M., Gopalakrishna, S., & Chatterjee, R. (2006). A three-stage model of integrated marketing communications at the marketing-sales interface. Journal of Marketing Research, 43(4), 564–579. https://doi.org/10.1509/jmkr.43.4.564