この動画は、Paidy(ペイディ)副社長・橋本知周さんが、楽天・DeNA・PayPalと渡り歩きながら、いくつもの新しい市場をゼロから立ち上げてきた道のりを語る回です。 軸になるのは、そもそも需要があるのかを証明するという、新規事業で最も難しい出発点です。 見ると、まだ形のないものを事業に変えていく思考が、具体的に伝わってきます。

「需要はあるのか」から始める——ゼロから市場を創る難しさ

新しい事業には、二つの種類があると橋本さんは言います。 すでに市場規模が見えていて、確かな事情があるから動くもの。そして、何もないところから始めるもの。 この二つは、難しさがまるで違います。

電子書籍は、いまでこそ誰もが知っています。 けれど橋本さんが手がけた当時、日本ではデジタル端末で本を読む習慣が、まったく根づいていませんでした。

理由は、日本の出版・印刷業界が非常に充実していたからです。 本は紙で読むもの——その文化が根強く、本を読む機会そのものも豊富にありました。

だからこそ、電子書籍に需要があるのかどうかも分からない。 「本当に需要はあるのか」を確かめるところから始めなければならない。それが、新しい事業をつくるうえで非常に大変な点だったと振り返ります。

その中で、橋本さんが「やりきった」と胸を張るのが、電子書籍データ仕様の策定に関わったことです。 当時、出版社が持っていたのは印刷用のデータだけで、そのままでは電子書籍として読めませんでした。

電子書籍用に変換する必要があるのに、その仕様が日本ではまだ定まっていない。 橋本さんは出版社側に立ち上がったデジタル出版の評価委員会に加わり、末端の売り場としてどんな仕様なら販売できるかという視点から意見を重ねました。 こうして作られた仕様が、いまも日本の電子書籍で受け継がれている。それが大きな達成感につながったと語ります。

人脈が広げた視界と、マンガボックスという挑戦

電子書籍事業を進める中で、橋本さんは楽天の先輩たちから、ある助言を受けていました。 三木谷さんの近くで働けば、人生が変わる——。

実際に、その通りでした。 三木谷さんと講談社を訪ねれば、そのまま社長と話をする。会う人、会う人が、みな第一線の人物です。 自ずと引き上げられていく感覚があったといいます。

多くの人と出会う中で、橋本さんは考え始めます。 電子書籍の枠を超えて、この人たちと一緒に何か新しいビジネスができないか。 けれど楽天の中では実現しにくく、その思いがDeNAへの移籍につながりました。

当時のDeNAでは、ソーシャルゲームが大きく伸びていました。 とりわけ売れていたのが、ワンピースのような人気IPを使ったゲームです。そうした作品の元をたどると、多くは出版社に行き着きます。

出版社やアニメ制作委員会と組み、グローバルなIPも使いながら日本でゲームを作っていく。 新しい市場を一緒に生み出すその仕事に、橋本さんは強い面白みを感じたと語ります。

DeNA時代には、いまの仕事にも生きるもう一つの経験がありました。マンガボックスというサービスの立ち上げです。 それまでの、世の中にある書籍を電子化する事業や、既存のIPを使うゲームとは、毛色がまるで違いました。

まず、いまでは当たり前になった「無料で読める」仕組みを取り入れ、続きが読みたければ購入するモデルにしました。 さらに作家に依頼してオリジナル作品を作り、自社で出版する。誰かが作ったものを二次利用するのではなく、最初の生産から自分たちで手がける——この一貫したものづくりの経験が、大きなプラスになったと振り返ります。

「違う切り口」で見る癖と、決済インフラへ

次々と新しいものを生み出す姿勢は、狙って身につけたものではないと橋本さんは言います。 原点は、アメリカの大学で学んだ「何かからビジネスを考える」という発想でした。

それ以来、既存のビジネスを違う視点や切り口で捉え直せば、新しいものが生まれるのではないか、と日々考えるようになったといいます。 たとえば、電子書籍を無料で読めるようにしたらどうなるか。そうした問いの積み重ねが、自ずと新規事業につながっていきました。

この姿勢を、野中さんは、すでにあるものから新しいものを生み出すスティーブ・ジョブズになぞらえます。 橋本さん自身は照れながらも、その視点の面白さがよく伝わるやり取りです。

そして次に選んだのが、グローバル企業のPayPalでした。 橋本さんは、EC業界に居続けたいという思いを、ずっと持っていました。

ECを、商品を作る人・売る場所・支払う場所・配送する場所と分けて見たとき、これまで自分は商品を作り、売る場所を経験してきた。 次は、その先にあるインフラを深く知りたい。とりわけお金を払う場所=決済に、強い興味がありました。

人はどんな行動パターンでお金を払い、どんな支払い方法を選ぶのか。そのインフラを理解したい。 そう考えたとき、当時のPayPalはIDだけで決済でき、クレジットカード番号の入力すらいらないという、独自の仕組みを持っていました。 こうしたユニークなインフラを手がける会社は、橋本さんの中でPayPal以外に思い浮かばなかったといいます。楽天・DeNAと市場を創ってきた人が、なぜ決済へ向かったのか。その必然が、静かに腑に落ちる一本です。

市場が生まれる瞬間を、本人の言葉で

何もないところに、どう需要を見つけ、標準を作っていくのか。ゼロから市場を立ち上げる思考の流れは、映像で聴くとより立体的に伝わります。

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※本記事は、2026年7月7日公開時点の動画内容をもとに構成しています。
※社名・肩書き・当時の事業環境は、収録時点の本人の語りに基づく表現です。
※本記事は、特定の投資・起業・働き方を推奨するものではありません。