伝わらない原因は、単語力ではない
海外拠点との会議で、準備した内容をひととおり話し終えたあとに「それで、結論は何ですか」と聞き返された経験はないでしょうか。単語は間違っていない。文法も大きく崩れていない。それでも相手は要点を受け取っていません。
こうしたとき、多くの人は「もっと英語を勉強しなければ」と考えます。しかし語彙を増やしても、この状況はあまり変わりません。問題は、単語の選び方ではなく、話をどう並べたかにあるからです。
日本語で仕事をしてきた人は、日本語の並べ方を身体で覚えています。背景から入り、関係者への配慮を挟み、最後に結論を置く。この順序は日本語の会議では自然で、むしろ丁寧だと受け取られます。ところが同じ順序のまま英語の単語に置き換えると、聞き手は「話がどこへ向かうのか分からないまま待たされる」状態になります。
なお、表情や間といった非言語の使い方は英語が苦手でも伝わる非言語の力で、日本語の場面での話の長さと構造は話が長い人ほど、なぜ伝わらないのかで扱っています。この記事が扱うのは、その中間にある言語そのものの組み立て方です。
日本語と英語で違うのは、文法だけではない
言語の違いというと、語順や時制のような文法の話だと思われがちです。しかし、実務で効いてくるのは、もう一段大きな単位の違いです。
文章や話をどう展開するかという型が、言語文化によって異なるという指摘は古くからあります。カプラン氏は1966年の論文で、母語の異なる学習者が英語で書いた文章の展開パターンを比較し、書き手が持ち込む思考の型が文章の運び方に表れると論じました。この考え方は対照修辞学と呼ばれ、その後の研究で修正を受けながら受け継がれています。
注意したいのは、「日本人はこう話す」と型にはめる議論ではないという点です。久保田氏による日本人大学生の作文研究では、母語の展開型がそのまま英語の作文へ持ち込まれるという単純な図式は成り立たず、個人差や教育経験の影響が大きいことが報告されています。文化で決まるのではなく、その人が身につけた型が出る、ということです。
思考の様式そのものにも差があることは、心理学の側からも検討されています。ニスベット氏らは、文脈や関係に注意を向けやすい傾向と、対象を切り出して分析する傾向とを比較する研究群を整理しました。これは優劣の話ではありませんが、同じ内容でも、どこから話し始めるのが自然に感じるかは、育った環境によって違うということを示しています。
つまり、伝わらないときに疑うべきは語彙よりも先に、話の運び方です。そしてこちらは、英語力とは別に、独立して直すことができます。
つまずく3つの構造
日本語で考えた話を英語で話すとき、実務でつまずきやすい箇所は、おおむね3つに集約されます。
- 結論の位置 — 最後に置くため、聞き手が判断を待たされる
- 主語 — 誰がやるのかが文から抜け、責任の所在が見えない
- 前置き — 背景説明が長く、本題に入る前に集中が切れる
| 構造 | 日本語のままだと | 英語で求められる形 |
|---|---|---|
| 結論の位置 | 背景を積み上げた末に置く | 先に置き、あとで支える |
| 主語 | 言わなくても通じる | 誰がやるのかを必ず言う |
| 前置き | 配慮として長く取る | 必要な分だけ、後に回す |
この3つは、どれも語彙力とは無関係です。中学校で習う単語だけでも直せます。
結論の位置 — 最後に置くと、聞き手が待てない
日本語の会議では、結論を最後に置く話し方が広く使われています。経緯を共有し、検討した内容を並べ、その延長として結論を示す。聞き手も同じ順序を予期しているため、最後まで聞く姿勢で待ってくれます。
英語の会議では、この待ち方が共有されていません。冒頭で結論が示されないと、聞き手は「いま聞いている情報が、何を支えるためのものなのか」を判断できないまま蓄積することになります。
読解や聴解の研究では、人は文の意味を順に取り込みながら、頭の中で全体の意味の骨組みを組み立てていくと説明されます。キンチュ氏とファン・ダイク氏のモデルは、その過程で一度に保持できる情報量に限りがあることを扱っています。結論という骨組みが先にないと、聞き手は入ってくる情報を仮置きし続けることになり、負荷が高くなります。
対処は単純です。最初の一文で、結論と、その話で相手に何を求めているかを言い切る。「三つ提案があります。結論から言うと、B案を推します」と置いてから、経緯に戻ればよいのです。
もう一つ、日本語の会議で見落とされやすい点があります。結論を先に置くと、断定的で強すぎるのではないか、という懸念です。しかし先に置くのは判断の内容であって、その確度ではありません。「現時点の判断としてはB案です。ただし来月の数字次第で見直します」と続ければ、断定にはなりません。結論を先に出すことと、余地を残すことは両立します。
主語 — 誰がやるのかを省かない
日本語では、主語を言わなくても文が成立します。「では、来週までに確認します」と言えば、その場の全員が誰の仕事かを共有できます。
英語では、この省略ができません。文の骨格に主語が必要だからです。ここで多くの人が使うのが、“It will be checked” のような形です。文法的には正しいのですが、聞き手には誰が担当するのかが伝わりません。
国際的な会議では、担当者が特定されない発言は、合意として扱われないことがあります。決まったつもりで会議を終えても、次の週に誰も動いていない、ということが起こります。
直し方は、主語を人か組織にすることです。「私が確認します」「私のチームが来週金曜までに出します」と、人と期限をセットで言う。これは英語の問題ではなく、日本語の会議でも同じ効果があります。
前置き — 背景説明から入らない
三つ目は前置きです。日本語では、いきなり本題に入ると唐突に見えるため、経緯や関係者への配慮を先に置く習慣があります。
英語の会議でこれをやると、前置きのほうが本題として受け取られます。聞き手は最初に出てきた話題を主題だと解釈するため、数分の背景説明のあとに本題が来ると、話が急に切り替わったように感じられます。
前置きを消す必要はありません。位置を変えるだけで足ります。本題を先に言い、背景は「なぜそう判断したか」を説明する材料として後ろに置く。質問が出たときにだけ詳しく話す、という運び方もできます。
自分の前置きが長いかどうかは、話し始めの一分を録音すれば判断できます。一分たっても本題の名詞が出てこなければ、前置きが長すぎます。この確認は、英語で話す前に日本語の会議で試すほうが分かりやすく、直したときの効果もそのまま英語に持ち越せます。
「察してもらう」前提を外す
3つの構造の背後には、共通する前提があります。言わなかったことを相手が補ってくれる、という期待です。
ホール氏は、意味の多くが文脈に埋め込まれる伝え方と、言葉そのものに載せる伝え方とを対比して論じました。前者では、明示しないことが配慮になります。後者では、明示しないことは「まだ決まっていない」か「言うほどのことではない」と解釈されます。
実務で問題になるのは、この差が誤解として現れる点です。日本語の会議で「難しいですね」と言えば、多くの場合は否定として通じます。同じ内容を英語で “It is difficult” と言うと、困難だが実行はする、と受け取られることがあります。反対しているつもりが、条件付きの合意として記録されてしまう。
必要なのは、日本的な配慮をやめることではありません。配慮を、言葉にして渡すことです。「今回は見送りたい。理由は二つあります」と言い切ったうえで、相手の提案の良い部分を具体的に認める。そのほうが、曖昧な否定より丁寧に受け取られます。
日本語で考えてから訳す、という限界
多くの人は、頭の中で日本語の文をつくり、それを英語に置き換えて話しています。この方法には限界があります。訳した時点で単語は英語になりますが、並べ方は日本語のままだからです。
翻訳の精度を上げても、この部分は直りません。むしろ機械翻訳の質が上がったことで、訳は正確なのに伝わらない、という状態が増えています。
変えるべきなのは、訳す前の段階です。話し始める前に、日本語で構いませんので、次の順序でメモを取ります。
- 結論は何か(一文)
- 誰が、いつまでに、何をするのか
- なぜそう判断したのか(多くて二つ)
この順に並べたメモを英語にすれば、英語力が変わらなくても、届き方は変わります。
英語が得意でなくても、構造は変えられる
ここまで挙げた3点は、どれも高度な英語を必要としません。結論を先に置くのに難しい構文は要らず、主語を人にするのはむしろ簡単な英語です。前置きを後ろに回すのは、話す順番を入れ替えるだけです。
実際、国際的な会議で聞き取りやすいのは、必ずしも最も流暢な人ではありません。短い文で、誰が何をするのかを明確にし、結論から話す人です。文が短いほど、非母語話者にとっても追いやすくなります。
裏を返せば、英語力を高めても構造を変えなければ、伝わらない状態は続きます。語学と構造は、別々に鍛える必要があるということです。
明日からできる言い換え練習
構造を変える練習は、英語で行う必要はありません。日本語で組み立て直してから訳す、という手順で十分です。
- 直近の会議で自分が話した内容を、日本語で書き出す
- 結論にあたる一文に印を付ける
- その一文を、いちばん前に移す
- すべての文に主語を書き足す(省略されていたものを補う)
- 背景説明のうち、結論を支えていない部分を削る
- 残ったメモを、短い英文に置き換える
4番目の「主語を書き足す」が、最も効果の分かりやすい工程です。書き足そうとして誰が主語なのか自分でも決められない文があれば、その部分はまだ決まっていません。英語にする前に、日本語の段階で決めるべきことが残っている、という合図になります。
週に一度、10分でも続けると、話す前に順序を組み替える癖がつきます。練習の設計そのものについては世界のスピーチ教育は何を「練習」させるのかで扱っています。
まとめ
英語で話しても伝わらないとき、原因が語彙や発音にあるとは限りません。多くの場合、日本語で組み立てた話の順序を、そのまま英語の音に置き換えていることが原因です。
見直す点は、結論の位置、主語、前置きの三つです。いずれも中学校で習う英語の範囲で直せますし、日本語の会議でも同じように効きます。英語力の向上を待つ必要はありません。次の会議の前に、日本語のメモを結論から並べ替えるところから始められます。
参考文献・出典
本記事で触れた研究・一次情報は以下のとおりです。
- Kaplan, R. B. (1966). Cultural thought patterns in inter-cultural education. Language Learning, 16(1-2), 1-20. https://doi.org/10.1111/j.1467-1770.1966.tb00804.x
- Kubota, R. (1998). An investigation of L1-L2 transfer in writing among Japanese university students: Implications for contrastive rhetoric. Journal of Second Language Writing, 7(1), 69-100. https://doi.org/10.1016/S1060-3743(98)90006-6
- Nisbett, R. E., Peng, K., Choi, I., & Norenzayan, A. (2001). Culture and systems of thought: Holistic versus analytic cognition. Psychological Review, 108(2), 291-310. https://doi.org/10.1037/0033-295X.108.2.291
- Kintsch, W., & van Dijk, T. A. (1978). Toward a model of text comprehension and production. Psychological Review, 85(5), 363-394. https://doi.org/10.1037/0033-295X.85.5.363
- Hall, E. T. (1976). Beyond Culture. Anchor Press/Doubleday.(書籍・DOI なし)