難しい言葉を使えば、内容に重みが出て、話し手が有能に見える。そう感じている人は少なくありません。けれども、この感覚を確かめた研究の結果は逆でした。必要以上に難しい言葉は、書き手の知性の評価を下げていたのです。

一方、米国では、公衆に向けた内容を平易な言葉で書くことが法律で求められています。本記事では、この公的な基準と、難しい言葉の効果を確かめた心理学の実験、契約書を平易に書き直した実験を取り上げます。

紹介する研究は、いずれも文章を読む実験です。会議や説明会での話し言葉への適用は、そこからの推論であることを先にお断りしておきます。

専門用語とカタカナ語で固めた説明

社内の説明では、専門用語とカタカナ語が重なりがちです。「KPI をアラインさせ、オペレーションのボトルネックを解消する」。話し手には意味が通っていても、聞き手の頭の中では一語ずつ意味を探す作業が続きます。

聞き手が意味を探しているあいだ、話は先へ進みます。結果として、聞き手に残るのは「何か大事なことを言っていた」という印象だけになります。難しい言葉の問題は、意味が伝わらないことに加えて、伝わらなかったことに話し手が気づきにくい点にあります。聞き手はたいてい、分からないとは言わずにうなずくからです。

米国では「平易な言葉」が法律で求められている

米国には、平易な言葉を法律上の要件とする仕組みがあります。米国一般調達局(GSA)が運営する Digital.gov の平易な言葉のガイドは、2010年の Plain Writing Act(平易な文書法)によって、公衆に向けた内容をその読み手に合わせて書くことが求められるようになったと説明しています。

同じガイドは、平易な言葉を「明確で理解しやすい内容」と位置づけ、公衆が自分の義務や受けられる給付を理解するうえで欠かせないものだとしています。さらに、平易な言葉はより効率的で効果的であるだけでなく、法律でもあると述べています。

つまり米国では、分かりやすく書くことは文章の好みや心がけではなく、公衆に向けて書く側が果たすべき責任として扱われているのです。

平易な言葉とは、読み手が理解して使える言葉

平易な言葉というと、「易しい言葉に言い換えること」と受け取られがちです。けれども Digital.gov のガイドが重視しているのは、語の難しさそのものより、特定の読み手が理解できるかどうかです。ガイドは、内容をつくり、見せ方を設計し、読み手が理解できるかを試す方法までを扱っています。

ここで大切なのは、基準が書き手の側ではなく読み手の側に置かれていることです。同じ専門用語でも、専門家どうしの会議なら平易であり、新入社員向けの説明なら難解になります。平易さは、誰に向けて話すのかを決めてから、初めて判断できるものです。

たとえば「キャッシュフロー」は、経理部の会議ならそのまま使えます。全社員向けの説明会なら、「手元に残るお金の出入り」と一度言い添えるほうが届きます。役員会で「EBITDA」を説明する必要はなくても、新卒の研修では説明が要ります。言葉を選ぶ前に、聞き手の顔ぶれを確かめることが出発点になります。

難しい言葉で書くと、書き手の評価は下がった

難しい言葉は本当に人を賢く見せるのか。この問いを実験で確かめたのが Oppenheimer 氏の2006年の研究です。

Oppenheimer 氏はまず、大学生の多数が、賢い印象を与えるために、わざと語彙を難しくしたことがあると認めていることを示しました。そのうえで、文章の複雑さを変えた複数の実験を行い、読み手が書き手の知性をどう評価するかを調べました。

結果は、文章が複雑になるほど、書き手の知性の評価は下がるというものでした。この関係は、元の文章の出来が良くても悪くても、読み手が事前に出来をどう予想していても変わりませんでした。

Oppenheimer 氏は、この効果が処理流暢性、つまり読みやすさの感覚を通じて生じていたと報告しています。別の実験では、語ではなく書体を読みにくくしただけでも、書き手の知性は低く評価されました。読みにくさそのものが、書き手への評価に移っていたのです。最後の実験では、読みにくさにはっきりした別の原因があると分かる条件を設けました。このとき読み手は読みやすさの感覚に頼るのを控え、影響を受けまいとして、かえって逆の方向に評価が偏りました。読みやすさの感覚は、本人が気づかないところで働いているからこそ評価に混ざる、ということです。

読みやすさの感覚が判断に混ざる仕組みは、わかりやすい話ほど、正しいと感じてしまう理由で詳しく扱いました。

契約書を平易に書き直すと、理解は上がった

平易に書き直すことで、読み手の理解は実際に上がるのか。Masson 氏と Waldron 氏は1994年、一般的な契約書を専門家でない読み手がどこまで理解できるかを調べました。

二人は契約書を3段階で書き直しました。

  • 第1段階 — 古めかしい語や重複した語を削るか置き換える
  • 第2段階 — 語と文の構造を簡単にする
  • 第3段階 — 法律用語を定義するか、より簡単な語に置き換える

内容を言い換えさせる課題と、質問に答える課題で理解を測ったところ、語と文の構造を簡単にすると、理解ははっきりと上がりました。ただし、理解の水準そのものは、書き直した後でもまだ非常に低いままでした。この点は後の節で取り上げます。

組織の中で難しい言葉が選ばれる理由

ここからは研究の外の話です。組織の中で難しい言葉が選ばれやすいのは、いくつかの事情が重なるためだと考えられます。

  • 専門性を示したい — Oppenheimer 氏の調査で大学生が認めていたのと同じ動機です
  • 社内の言葉が当たり前になっている — 毎日使う略語やカタカナ語は、外の人には通じないことを忘れやすくなります
  • 言い切りを避けたい — 抽象的な言葉は、何をするのかを曖昧なままにしておけます

三つ目は見落とされがちです。「業務の最適化を推進する」は、「来月から承認の段階を一つ減らす」と言うより責任が軽く聞こえます。平易な言葉にすると、何をするのかを言い切らなければならなくなるのです。

組織の言葉は、上に立つ人の話し方に引きずられます。経営層が抽象的な言葉で方針を語れば、部下の報告も同じ言葉で返ってきます。平易な言葉を組織に広げたいなら、まず経営層の説明から変えるのが近道です。

話し言葉に置き換える3つの手順

平易な言葉で伝える3つの手順 — 誰が読み何に使うのかを決める読み手(READER)、ふだんの語と短い文に置き換える言葉(WORDS)、読み手に説明してもらい理解を確かめる確かめる(TEST)を示す図
図|平易な言葉で伝える3つの手順

研究と公的な基準を、経営層の説明に持ち込むなら、図の3つの手順で考えると扱いやすくなります。これは研究の手順そのものではなく、本稿が実務向けに整理したものです。

  1. 読み手を決める — 誰が聞き、聞いたあと何をするのかを先に書き出す
  2. 言葉を置き換える — カタカナ語や漢語を、ふだんの語と短い文に直す。「シナジーを最大化する」なら「二つの部署の顧客名簿を一つにまとめる」のように、具体的な行動に落とす
  3. 確かめる — 聞き手に要点を自分の言葉で言い直してもらう

置き換えの例を挙げます。

置き換える前置き換えた後
シナジーを最大化する二つの部署の顧客名簿を一つにまとめる
ガバナンスを高度化する100万円を超える支出は、役員二人の承認を必要にする
オペレーションを最適化する受注から出荷までの日数を5日から3日にする
ステークホルダーとの対話を強化する取引先10社を、四半期ごとに訪問する

右の列は、どれも誰が、何を、どこまでするのかが書かれています。置き換えの作業は、言葉を易しくする作業であると同時に、決めていなかったことを決める作業でもあります。

3番目は、Masson 氏と Waldron 氏が理解を測るのに使った「言い換え」の課題を、職場に置き換えたものです。うなずきではなく、言い直せるかどうかで理解を確かめることがポイントです。

言い換えてはいけない専門語

平易な言葉は、専門語をすべて消すことではありません。Masson 氏と Waldron 氏の実験で、書き直した後も理解の水準が低かった理由として、二人は誤答の分析から、専門家でない読み手は、言葉の問題とは別に、複雑な法律の概念そのものを理解しにくいことを挙げています。その概念が、読み手の予備知識や思い込みと食い違う場合もありました。

言葉を易しくしても、概念の難しさは残ります。そのため、法務・財務・技術など、正確さが求められる場面の専門語は、無理に言い換えると意味が変わってしまうことがあります。こうした語は残したうえで、一度だけ定義し、聞き手の判断にどう関わるのかを添えるほうが確実です。専門語を相手の判断につなげる方法は、士業・専門家のための信頼される説明で扱いました。

社内文書と説明会での点検

社内文書や説明会の原稿は、次の点で点検できます。

  • カタカナ語に下線を引く — 一つずつ、ふだんの語で言えないかを考える
  • 一文を短くする — 一つの文に一つのことだけを書く
  • 動詞で言い切る — 「推進」「強化」で止めず、誰が何をするのかを書く
  • 残した専門語を数える — 残すと決めた語には、最初に出てくる箇所で定義を付ける
  • 部署の外の人に読んでもらう — 要点を言い直してもらい、ずれた箇所を直す

話し言葉では、平易さがいっそう重要になると考えられます。文章なら読み手は分からない語で立ち止まり、読み返すことができます。説明会の聞き手は、話し手の速さに合わせて聞くしかありません。ここで紹介した研究は文章の実験ですが、読み返せない分、話し言葉のほうが難しい言葉の負担は大きいと見るのが自然でしょう。

説明会では、話したあとに質問を待つだけでなく、聞き手に要点を一言で言ってもらう時間を取ると、伝わっていない箇所が見えてきます。

まとめ

難しい言葉は話し手を賢く見せるどころか、評価を下げることがあります。Oppenheimer 氏の実験では、文章が複雑になるほど書き手の知性は低く評価され、その背景には読みやすさの感覚がありました。Masson 氏と Waldron 氏の実験では、語と文を簡単にすると理解が上がる一方、概念の難しさは残りました。

米国では平易な言葉が法律の要件になっています。経営層の説明でも、読み手を決め、言葉を置き換え、伝わったかを確かめる。必要な専門語は残して定義を添える。この手順が、平易で信頼される説明への近道になります。

参考文献・出典

  • Oppenheimer, D. M. (2006). Consequences of erudite vernacular utilized irrespective of necessity: Problems with using long words needlessly. Applied Cognitive Psychology, 20(2), 139-156. https://doi.org/10.1002/acp.1178
  • Masson, M. E. J., & Waldron, M. A. (1994). Comprehension of legal contracts by non-experts: Effectiveness of plain language redrafting. Applied Cognitive Psychology, 8(1), 67-85. https://doi.org/10.1002/acp.2350080107
  • Digital.gov. (n.d.). Plain language guide series. U.S. General Services Administration. https://digital.gov/guides/plain-language