英語の会議で、言いたいことは決まっていたのに、口を開く前に誰かが話し始めた。そういう場面が何度か続くと、「自分は反応が遅い」「日本人は間を長く取るから不利だ」と考えたくなります。

けれども、会話の間を実際に測った研究は、少し違う姿を示しています。言語による違いはあります。ただしその違いは、多くの人が思っているよりずっと小さく、そして小さいのに聞き手には気づかれる、という性質を持っています。

間が聞き手の注意を引く働きは人はなぜ「間」がある話に引き込まれるのかで、気まずくならない間の取り方は沈黙が気まずくならない間の取り方で扱いました。本記事が扱うのは、話し手が交代するときの間です。

国際会議で発言を取り損ねる理由

発言を取り損ねる場面を細かく見ると、原因は二つに分かれます。

一つは、相手の話が終わってから返答を考え始めていることです。終わりを確認してから準備すると、その時点で出遅れます。

もう一つは、自分では短いつもりの間が、相手には「発言しない」という合図に見えていることです。自分では一呼吸のつもりでも、周囲はその間を空いた席と受け取り、別の人が入ります。

どちらも、語学力とは別の問題です。母語の会議でも同じことは起きます。違うのは、国際会議では参加者ごとに「どのくらい空いたら遅いか」の感覚が少しずつずれている点です。このずれを知らないまま「自分は遅い」と結論づけると、対策を誤ります。

会話の順番交代には共通の仕組みがある

会話では、一人が話し、終わると別の人が話します。当たり前に見えるこの交代は、驚くほど速く行われています。

Levinson 氏と Torreira 氏は、話者交代に関する研究を広く整理し、交代時の間はおよそ0.2秒と短いのに対し、発話を準備するには0.6秒以上かかることを示しました。計算が合いません。そこから導かれるのは、聞き手は相手の話の終わりを予測し、聞きながら返答を準備しているという結論です。

つまり、滑らかな交代は、相手の話が終わってから反応した結果ではありません。終わる少し前から準備が始まっているから、0.2秒で返せるのです。

この点は、あとで述べる入り方の工夫の土台になります。発言を取れるかどうかは、相手が話している最中に何をしているかで決まります。

10言語の比較が示したこと

では、この速さは言語によって違うのでしょうか。文化人類学の報告には、長い沈黙が普通の文化や、重なって話すのが普通の文化があると書かれてきました。

Stivers 氏らは、この主張を数値で確かめました。対象は、伝統的な共同体で話される言語から英語・日本語・韓国語などの主要言語まで、系統の異なる10言語です。日常の会話の記録から、「はい」か「いいえ」で答える質問とその返答を取り出し、質問が終わってから返答が始まるまでの時間を測りました。

結果は、どの言語でも同じ傾向を示しました。話が重なるのを避け、間を最小にするという傾向です。最も多かったのは0〜0.2秒の間で、全体の平均は約0.21秒でした。

言語ごとの平均には違いがありました。ただしその幅は、全言語の平均から前後およそ0.25秒の範囲に収まっていました。論文はこの差を、英語の一音節を発音するくらいの長さだと説明しています。

共通していたこと、違っていたこと

この研究から読み取れることは、三つに整理できます。

  1. 共通の仕組み — 間を短くしようとする傾向と、何が返答を遅らせるかは、どの言語でも同じだった
  2. 言語差 — 平均の間には違いがあり、その差は小さいが、何を遅いと感じるかの基準がずれる
  3. 入り方 — 差が小さいからこそ、準備のしかたと合図の出し方で埋められる
話者交代の間を理解する3つの視点 — 共通の仕組み・言語差・入り方を順に示す図
図|話者交代の間を理解する3つの視点

共通していたのは、返答を遅らせる要因です。10言語すべてで、質問に答えない返答(「分からない」など)は答える返答より遅く、否定する返答は肯定する返答より遅く出ていました。うなずきなど目に見える反応は、声だけの反応より早く出ていました。

違っていたのは、その言語の話し手が「間に合っている」と受け取る長さです。研究者が会話のリズムを踏まえて返答を「遅い」「間に合っている」に分けたところ、デンマーク語とラオ語では約0.2秒の返答が間に合っている側に入り、日本語では約0.04秒でした。多くの言語で遅れと受け取られる0.2秒の間が、別の言語では普通の長さになっていたのです。

日本語の会話は、何が違うと報告されたか

日本語の結果は、よく語られるイメージと逆でした。日本語の話し手は長く間を置いてから答えると言われてきましたが、この研究では10言語のなかで平均が最も短く、約0.01秒でした。最も長かったのはデンマーク語の約0.47秒です。

イタリア語についても、話が重なるのに寛容だとする報告がありましたが、平均は約0.31秒で、全体の平均よりやや長い側にありました。言語の系統が近いかどうかも、間の長さを予測しませんでした。

ここから言えるのは、「日本語は特別に間が長い」とも「特別に短い」とも言い切れないということです。この研究が扱ったのは日常会話の、はい・いいえで答える質問に限られます。会議での発言や、上下関係のある場での返答を測ったものではありません。

大切なのは、日本語の数字そのものより、言語ごとに「遅い」の基準がずれているという点です。

「考えている間」が別の合図に読まれるとき

間の長さが問題になるのは、間が意味を持つからです。

Roberts 氏と Francis 氏は、依頼に対して「はい」と答える会話を用意し、返答までの沈黙を0.2秒から1.2秒まで0.1秒刻みで変えて、380人に聞かせました。返答の言葉は同じでも、沈黙が約0.6秒になると「快く引き受けている」という評価が下がり始め、0.7秒と0.8秒のあいだには統計的に意味のある差が出ました。

Kendrick 氏と Torreira 氏は、電話の会話から受諾と断りの返答195件を調べました。多くの場合、受諾と断りのタイミングに差はありませんでした。ただし0.7秒以上の間があいたときは、断りの割合が受諾よりはっきり多くなっていました。

長い間がいつも断りを意味するわけではありません。それでも聞き手は、予定より長い間を「何か問題がある」という手がかりとして読む傾向があります。自分は考えているだけでも、相手はためらいや反対を読み取るかもしれない。このずれが、国際会議では言語ごとの基準の違いと重なります。

通訳が入る場で起きるずれ

逐次通訳が入る会議では、この仕組みがさらに崩れます。ここからは研究で確かめられた話ではなく、上の仕組みから考えられることです。

通訳を介すると、話の終わりを予測して返答を準備する、という交代の土台が使えません。相手の話の終わりが、訳が終わるまで分からないからです。返答までの時間は必然的に長くなり、その長さには話し手の迷いも同意も反映されていません。

そのため、通訳が入る場では間の長さから相手の気持ちを読まないと決めておくのが安全です。返答が遅いことを乗り気でない印として受け取らず、内容で判断します。進行役は、訳が終わってから考える時間を取ってよいと、最初に全員へ伝えておきます。同じ言語どうしの速いやりとりが続いたときも、訳を待つ参加者が話の外に置かれていないかを確かめます。

発言を取るための具体的な入り方

ここからは実務上の工夫です。研究が直接確かめた手順ではありませんが、上に見た仕組みに沿っています。

  • 聞きながら最初の一文を決める — 相手が話しているあいだに、自分が最初に言う一文だけを頭の中で用意しておきます。交代が速いのは、聞きながら準備しているからでした
  • 話の終わりを予告する言葉を拾う — 「最後に」「要するに」「どう思いますか」などは、話が終わりに近づいた合図です。この言葉が聞こえたら、入る準備を始めます
  • 声より先に体で示す — 研究でも、目に見える反応は声だけの反応より早く出ていました。軽く身を乗り出す、うなずく、手元のペンを置くといった動作で、話す意思を先に伝えます
  • 短い入口の言葉を持つ — 「一点だけ」「その点について」のような短い言葉で先に席を取り、そのあとで本題に入ります。最初の一語が遅れると、席は別の人に移ります
  • 取り損ねたら、戻る言葉を使う — 話題が先へ進んでしまったら、「少し前の点に戻ってもよいですか」と断ってから話します。入れなかった瞬間にあきらめず、次の区切りで取り返せば、発言の機会は失われません

完璧な英文が組み上がるのを待つと、その待ち時間が間になります。席を取るための一言と、中身を伝える一文は、分けて考えてかまいません。

進行役が間を扱う方法

進行役にとって、間はもう一つの意味を持ちます。

Templeton 氏らは、友人どうしと初対面どうしの二人組に会話してもらい、どれだけつながりを感じたかを尋ねました。どちらの組でも、返答が速い会話ほどつながりが強く感じられ、その差は0.25秒未満という、意識では調整できない時間の幅で生じていました。会話を外から聞いた人も、返答が速い会話ほど二人がつながっていると判断しました。

この結果を会議に当てはめると、注意すべき点が見えます。速いやりとりが続くと、場は盛り上がっているように見えます。しかしその速さについていけなかった参加者がいても、進行役からは見えにくい。

進行の方法そのものは多国籍チームの会議をまとめる進行術で扱いました。本記事の範囲で進行役にできることは、次の三つです。

  • 問いを投げたあとは、自分の感覚より長く待つ
  • 速い返答が続いたら、一度止めて「ほかの見方はありますか」と間を作り直す
  • 返答の速さを、賛成や熱意の強さとして扱わない

まとめ

会話の順番交代は、どの言語でも間を短くする方向で動いています。言語による差はありますが、その幅は平均の前後およそ0.25秒で、一音節ほどの長さです。

差が小さいのに問題になるのは、何を遅いと感じるかの基準が言語ごとにずれ、長めの間が「ためらい」や「断り」の手がかりとして読まれるからです。

発言を取り損ねる原因は、語学力より準備の時点にあることが多いものです。聞きながら最初の一文を決め、体で先に合図を出す。進行役は、速いやりとりを熱意と取り違えず、意図して間を作ります。

参考文献・出典

  • Stivers, T., Enfield, N. J., Brown, P., Englert, C., Hayashi, M., Heinemann, T., Hoymann, G., Rossano, F., de Ruiter, J. P., Yoon, K.-E., & Levinson, S. C. (2009). Universals and cultural variation in turn-taking in conversation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(26), 10587-10592. https://doi.org/10.1073/pnas.0903616106
  • Levinson, S. C., & Torreira, F. (2015). Timing in turn-taking and its implications for processing models of language. Frontiers in Psychology, 6, 731. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.00731
  • Roberts, F., & Francis, A. L. (2013). Identifying a temporal threshold of tolerance for silent gaps after requests. The Journal of the Acoustical Society of America, 133(6), EL471-EL477. https://doi.org/10.1121/1.4802900
  • Kendrick, K. H., & Torreira, F. (2015). The timing and construction of preference: A quantitative study. Discourse Processes, 52(4), 255-289. https://doi.org/10.1080/0163853x.2014.955997
  • Templeton, E. M., Chang, L. J., Reynolds, E. A., Cone LeBeaumont, M. D., & Wheatley, T. (2022). Fast response times signal social connection in conversation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 119(4), e2116915119. https://doi.org/10.1073/pnas.2116915119