会議が始まって、初めて反対意見が出る。資料は十分に作り、説明の練習もした。それでも議論は振り出しに戻り、結論は次回へ持ち越しになる。
日本の組織なら、ここで「根回しが足りなかった」と言われます。ところが相手が海外拠点や外国籍のメンバーになると、その根回しという手段自体が使えません。事前に個別に話を通すこと自体が、透明性を欠いた動きとして警戒されることもあります。
この記事では、根回しが実際に果たしていた機能を分解し、記録に残る形で、誰に対しても同じように行う手順へ組み替えます。会議が始まってからの進行については多国籍チームの会議をまとめる進行術で扱いました。本記事はその手前、会議が始まる前の話です。
会議で初めて反対されるのは、準備不足ではない
会議で議論が止まるとき、多くの場合、足りなかったのは資料でも説明でもありません。その場に集まる前に、参加者の頭の中がそろっていなかったことが原因です。
何を決める会議なのかの理解が、人によって違う。ある参加者は情報共有だと思って来ており、別の参加者は承認の場だと思っている。この状態で議論を始めると、最初の30分は「今日は何を決めるのか」の確認に消えます。
反対意見も同じです。反対の理由は会議の当日に生まれたわけではなく、たいていは以前から存在していました。ただ、それを言う場が会議しかなかったため、全員の前で初めて表に出ただけです。
会議研究の総説をまとめた Mroz 氏らは、会議の科学が扱う対象を会議の前・会議中・会議の後に起きる活動として整理しています。会議の成否を当日の進行だけで考えるのは、三分の一しか見ていないことになります。
根回しは、何をしていた仕組みなのか
根回しは、日本の組織文化の象徴のように語られます。しかし機能として見ると、やっていたことは意外に具体的です。
- 論点を先に配る — 何を決める場なのかを、関係者に個別に伝えておく
- 反対の理由を先に聞く — 会議の前に懸念を拾い、修正できるものは修正しておく
- 決め方を先に握る — 誰の合意があれば進められるのかを、事前に確認しておく
問題は手段のほうです。個別・非公式・記録なしという形は、その場にいなかった人から見ると「知らないところで決まっていた」という経験になります。決定の手続きの公平さを重く見る相手ほど、この形は逆効果になります。
Newman 氏と Nollen 氏は、ある多国籍企業の欧州・アジアの事業単位を調べ、その国の文化と管理のやり方が合っているほど、その事業単位の財務業績が高かったと報告しています。決め方に唯一の正解があるのではなく、通用する形が環境によって違うということです。根回しを海外へそのまま輸出できない理由も、根回しが劣っているからではなく、形が環境に合っていないからだと考えたほうが実務的です。
事前合意をつくる3つの要素
根回しが担っていた機能を、記録に残る形へ置き換えます。必要なのは次の3つです。
- 論点の共有 — 何を決める会議かを、全員が同じ言葉で理解している
- 懸念の先取り — 反対や不安の理由を、会議の前に聞きに行く
- 決め方の合意 — 誰がどう決めるのかを、会議の前に決めておく
論点の共有 — 何を決める会議かを先に一致させる
最初にそろえるのは、議題ではなく問いです。「新製品の件」は議題ですが、問いではありません。「新製品の発売時期を、第2四半期と第3四半期のどちらにするか」まで書いて、はじめて参加者は考えて来られます。
Leach 氏らは、958名と292名を対象にした2つの調査で会議の設計要素と参加者の評価の関係を調べ、アジェンダを使っていることが、会議は有効だったという評価をよく予測したと報告しています。参加者の関与の度合いがその関係を仲立ちしており、人数が多い会議ほど関与は下がっていました。
実務に移すと、招集の時点で次の4つを書くことになります。
- 決めること(問いの形で1文)
- 決めないこと(今回は扱わない範囲)
- 判断に使う材料(数字・制約・前提)
- 会議の終わりに残っているべき状態
「決めないこと」を明記するのは、議論が広がりすぎるのを防ぐためです。範囲外の論点は、その場で切り捨てるのではなく、別の機会へ送ると書いておきます。
懸念の先取り — 反対の理由を事前に聞きに行く
3つの要素のうち、もっとも効果が大きく、もっとも省略されるのがここです。
Lind 氏らの実験では、179名の参加者が目標設定の手続きを経験しました。意見を述べる機会を目標が決まる前に与えられた群、決まった後に与えられた群、まったく与えられなかった群を比べたところ、前の2つはいずれも「手続きが公正だった」という評価が高く、決まる前に意見を述べられた群がもっとも高い評価でした。判断に関係する情報を与えられることも、公正さの評価を上げていました。
この実験は学生を対象にした目標設定の課題であり、実際の会議を扱ったものではありません。それでも実務への示唆は明確です。同じ意見でも、決まる前に聞かれたか、決まった後に聞かれたかで、受け取られ方が変わるということです。
会議の前に聞きに行くとき、問い方は次の形にします。
- 「この案で、いちばん困るのはどこですか」
- 「この案が失敗するとしたら、原因は何だと思いますか」
- 「決めるために、あと何の情報が必要ですか」
賛成かどうかを聞かないのが要点です。賛否を聞くと相手は立場を表明することになり、会議の前に態度が固まります。困る点を聞けば、修正できる情報が手に入ります。
反対意見そのものの受け止め方は、反対意見を受け止める話し方で別に扱っています。
決め方の合意 — 誰がどう決めるかを会議前に決める
日本の会議では、決め方が明示されないまま進むことがよくあります。全員が黙っていれば合意、反対が出れば持ち帰り、という暗黙の運用です。この運用は、明示的な決定ルールを期待する相手には機能しません。
会議の前に確認しておくのは3点です。
- 誰が決めるのか — 最終決定者は1人か、合議か
- 何をもって決まったとするのか — 全員一致か、多数か、決定者の判断か
- 決まらなかったらどうするのか — 期限までに決まらない場合の扱い
3点目を先に決めておくと、議論が長引いたときに「では次回」へ逃げずに済みます。決めるのは「いつまでに、誰が引き取るか」であって、結論そのものではありません。
「事前に話しておく」が不公平に見える場合
事前に話すこと自体は問題ではありません。問題になるのは、話す相手を選んでいるように見えるときです。
避けるべきなのは、影響力の大きい人にだけ先に話し、他の人は会議で初めて聞く、という形です。これは実質的に会議の前に結論が決まっており、会議が儀式になっていることを意味します。
代わりに、次の形にします。
- 論点を書いた同じ文書を、参加者全員に同時に送る
- 個別に話を聞くなら、全員に同じ機会を用意する(1人5分でも構いません)
- 個別に聞いて出てきた論点は、会議の場で発言者名ではなく論点として共有する
3つ目は、匿名にして隠すという意味ではありません。会議の場で「事前に複数の方から、納期の前提を確認したいという指摘がありました」と切り出せば、事前のやりとりは秘密ではなく公開された準備になります。
記録に残る前提で、事前に話す
根回しと事前合意を分けるのは、記録の有無です。事前のやりとりは、その場で消えてよいものと、残すべきものに分かれます。
残すのは、論点・懸念・決め方の3つだけで十分です。誰が何を言ったかの逐語は要りません。会議の招集メールに、次のような1段落を足すだけで形になります。
「事前に伺った懸念は次の3点です。初期費用の回収期間、既存顧客への影響、運用体制の人員。当日はこの3点への回答から始めます」
これを送ると、会議の冒頭が「説明」ではなく「回答」から始まります。参加者は自分の懸念が届いていることを確認したうえで議論に入れます。
会議の場での発言の組み立て方そのものは、「説明」を「合意」に変える会議発言で扱っています。
時差・拠点をまたぐときの進め方
拠点が分かれていると、事前に個別に話す時間を取ること自体が難しくなります。ここは非同期の手段に置き換えます。
- 論点を書いた文書にコメント欄を付け、期限を切って書き込んでもらう
- 会議の24時間前に、集まったコメントを論点ごとに整理して再送する
- 時差の大きい拠点には、会議への出席ではなく事前の文書での意見表明を正式な参加の形として認める
3つ目は、公平さの観点で重要です。深夜に出席した人だけが意見を言えるという状態は、実質的に発言機会の不平等です。文書で出た意見を会議中に読み上げる担当を決めておくと、不在の拠点の論点が落ちません。
Allen 氏らは、252名の社会人への調査で、会議が始まる直前のやりとり、とくに雑談が、会議は有効だったという参加者の評価と関係していたことを報告しています。関係は外向性が低い参加者ほど強く出ていました。ただしこの調査は同じ時点の相関を見たもので、雑談が会議の成果を引き起こすかどうかまでは確かめられていません。オンライン会議で定刻ちょうどに入室する運用は、この時間を構造的に失わせている可能性があります。開始5分前に接続を開けておく、という程度の工夫は試す価値があります。
会議前48時間の段取り
ここまでを、時間軸に並べます。1時間の意思決定会議を想定した目安です。
| 時点 | やること |
|---|---|
| 48時間前 | 論点文書を全員に同時送付(決めること・決めないこと・判断材料・終了時の状態) |
| 36〜24時間前 | 個別または非同期で懸念を聞く。賛否ではなく「困る点」を聞く |
| 24時間前 | 集まった懸念を3点程度に整理し、決め方とあわせて再送する |
| 当日 | 冒頭5分で懸念への回答。残りの時間を判断に使う |
| 直後 | 決まったこと・決まらなかったこと・次の担当と期限を送る |
48時間という数字そのものに根拠があるわけではありません。相手が読んで考え、返す時間を確保できるかどうかが基準です。時差の大きい拠点が入るなら、72時間前に前倒しします。
この段取りの効果は、会議が短くなることではなく、会議の中身が説明から判断へ変わることにあります。
まとめ
根回しが通じない相手との会議は、事前の働きかけをやめることでは解決しません。やめるべきなのは、個別・非公式・記録なしという形のほうです。
会議の前に整えるのは、論点の共有、懸念の先取り、決め方の合意の3つ。同じ文書を全員に同時に送り、全員に同じ機会で懸念を聞き、聞いた内容を会議の場で公開する。これだけで、事前の準備は「裏の調整」ではなく「公開された段取り」になります。
決まる前に意見を聞かれたかどうかが、その手続きの受け取られ方を変えます。会議の成否の多くは、始まる前に決まっています。
参考文献・出典
- Allen, J. A., Lehmann-Willenbrock, N., & Landowski, N. (2014). Linking pre-meeting communication to meeting effectiveness. Journal of Managerial Psychology, 29(8), 1064-1081. https://doi.org/10.1108/JMP-09-2012-0265
- Leach, D. J., Rogelberg, S. G., Warr, P. B., & Burnfield, J. L. (2009). Perceived meeting effectiveness: The role of design characteristics. Journal of Business and Psychology, 24(1), 65-76. https://doi.org/10.1007/s10869-009-9092-6
- Lind, E. A., Kanfer, R., & Earley, P. C. (1990). Voice, control, and procedural justice: Instrumental and noninstrumental concerns in fairness judgments. Journal of Personality and Social Psychology, 59(5), 952-959. https://doi.org/10.1037/0022-3514.59.5.952
- Mroz, J. E., Allen, J. A., Verhoeven, D. C., & Shuffler, M. L. (2018). Do we really need another meeting? The science of workplace meetings. Current Directions in Psychological Science, 27(6), 484-491. https://doi.org/10.1177/0963721418776307
- Newman, K. L., & Nollen, S. D. (1996). Culture and congruence: The fit between management practices and national culture. Journal of International Business Studies, 27(4), 753-779. https://doi.org/10.1057/palgrave.jibs.8490152