数字は、正しく言えば正しく伝わるわけではない
経営会議で「この施策で事故のリスクが3割下がります」と報告したとします。数字は正確で、資料にも根拠があります。それでも、聞いた役員の頭の中では「事故がずいぶん減る」という印象だけが残り、実際に何件減るのかは誰も思い浮かべていない、ということが起こります。
数字を扱う人は、正確な値を言えば役目を果たしたと考えがちです。しかし、聞き手が受け取るのは値そのものではなく、その値から組み立てたイメージです。同じ値でも、示し方によって組み立てられるイメージは変わります。
数字を記憶に残す工夫は、プレゼンの数字を印象に残す方法の記事で扱いました。本稿の関心はその手前、数字を誤解されずに受け取ってもらうにはどう示せばよいかにあります。
割合で言われた数字が頭に入らない理由
割合や確率は、もともと「何かを分母にして割った結果」です。聞き手は、言われた割合から分母と分子を頭の中で組み立て直さなければなりません。数字が一つなら何とかなりますが、二つ以上の割合を組み合わせる場面になると、急に難しくなります。
例として、架空の解約予測の話を考えます。顧客のうち解約するのは2%。予測モデルは、解約する顧客の90%に警告を出します。ただし、解約しない顧客にも5%の割合で警告が出ます。では、警告が出た顧客が実際に解約する見込みはどのくらいでしょうか。
割合のまま考えると、三つの数字を掛け合わせて割り直す必要があり、暗算ではまず出てきません。「90%」という目立つ数字に引きずられる人もいるでしょう。
同じ情報を、人数で言い直してみます。顧客1,000社のうち、解約するのは20社。そのうち18社に警告が出ます。解約しない980社のうち、約49社にも警告が出ます。警告が出た約67社のうち、本当に解約するのは18社。つまり4社に1社ほどです。
このように、全体の数から順に分けていく示し方を「自然頻度」と呼びます。McDowell 氏と Jacobs 氏は、この形式を扱った35本の論文、226の成績データを統合したメタ分析で、条件付き確率で示すよりも、自然頻度で示したほうが正しく推論できる人が多いことを確認しています。
誤解を減らす3つの言い換え
研究で推奨されている示し方を、話し言葉で使える形に整理すると、次の三つになります。
- 頻度 — 割合を「何人中何人」に置き換える
- 絶対値 — 「何割減った」ではなく「何件から何件へ」と言う
- 基準 — 何を分母にした、何と比べた数字かを言う
頻度 — 「◯人中◯人」に置き換える
一つ目は、割合を人数や件数に置き換えることです。Hoffrage 氏らは、専門家を含む多くの人が統計情報をうまく理解・統合できないこと、そしてその困難は、確率ではなく自然頻度で情報を示すと大きく減ることを報告し、医療・法律・教育への応用を論じています。
医療の情報提示を比べた研究を集めた Akl 氏らのシステマティックレビューでも、医療者と一般の人のどちらでも、自然頻度のほうが確率より理解されたという結果が出ています。
話すときのコツは、分母を聞き手が思い浮かべやすい大きさにすることです。「0.3%」なら「1,000人に3人」、「12%」なら「100人に12人」、あるいは「だいたい8人に1人」。そして、二つ以上の割合を組み合わせる話では、先ほどの解約予測のように全体の数を一つ決めて、そこから順に分けていくと、聞き手は計算せずに結論までたどり着けます。
二つの頻度を比べるときは、分母をそろえることも欠かせません。「A案は8人に1人、B案は12人に1人」と言われても、どちらがどれだけ少ないのかはすぐには分かりません。「100人あたりA案は約12人、B案は約8人」と同じ分母で言えば、差が一目で伝わります。
絶対値 — 「◯割減」ではなく「何件から何件へ」
二つ目は、変化を割合ではなく実数で言うことです。「3割減った」は相対的な変化で、もとの数が分からなければ大きさを判断できません。年間10件の事故が7件になったのか、1万件のうち10件が7件になったのかで、意味はまったく違います。
Akl 氏らのレビューは、この点について示唆に富む結果を報告しています。相対的な減少で示しても、絶対的な減少で示した場合と理解度はほとんど変わらないのに、効果がより大きく感じられ、説得力も高く評価されたのです。著者らは、相対的な示し方は誤解を招きうると指摘しています。
Gigerenzer 氏らも、乳がん検診で「死亡リスクが25%下がる」という表現が、実際には「1,000人のうち亡くなる人が1人減る」ことを意味する例を挙げています。「25%」と「1,000人に1人」では、同じ事実でも受け取る印象が大きく違います。
話すときは、「事故が3割減りました。年間10件から7件です」のように、相対値を言うなら必ず実数を添えるのが基本です。
基準 — 何と比べた数字かを言う
三つ目は、その数字が何を分母にし、何と比べたものかを言うことです。Gigerenzer 氏らは、がん検診で生存率が上がっても、それが寿命の延びを意味するわけではないことを、多くの人が知らないと指摘し、生存率ではなく死亡率で示すことを勧めています。
生存率は、病気と診断された人を分母にした数字です。一方、死亡率は対象の集団全体を分母にします。分母が違えば、同じ「率」でも答えている問いが違うのです。
ビジネスの数字でも、同じ構造はよく見られます。「受講者の90%が満足」は、受講者全員の90%なのか、アンケートに答えた人の90%なのか。「ミスが半減した」は、何もしなかった部署でも同じ時期に減っていなかったか。分母を明らかにすることの大切さは先の記事でも触れましたが、ここでは比べる相手まで含めて、数字の前に一言で示すことを勧めます。
期間も基準の一部です。「年間10件」なのか「導入後3か月で10件」なのかで、同じ件数でも重みが変わります。「昨年度、全国の店舗で、受講した社員のうち」のように、いつ・どこで・誰を数えたかを数字の前に置くと、聞き手は数字を正しい枠に入れて受け取れます。
専門家でも読み違える示し方
「数字に強い人なら割合のままで分かるはずだ」と考えたくなりますが、研究はそうなっていません。Gigerenzer 氏らは、統計の数字を読み違える状態が、患者だけでなく、記者や医師にも広く見られることを示しました。Akl 氏らのレビューでも、医療者と一般の人のあいだで、示し方による違いの出方に差は見られませんでした。
さらに Gigerenzer 氏らは、この読み違いの多くが、聞き手の能力ではなく情報の示し方が透明でないことから生まれると論じています。そうした示し方は、伝える側が理解していないために意図せず生まれることもあれば、説得や操作のために意図的に選ばれることもある、と指摘しています。
これは、役員会や取締役会に向けた報告にも示唆があります。聞き手が経験豊富な経営者であっても、示し方が不透明なら、読み違える余地は残ります。「この人たちなら分かるだろう」と判断せず、示し方の側で誤解の余地を減らすほうが確実です。
経営報告・IR・研修での使い分け
ここまでの研究は、主に医療統計と、確率の推論課題を対象にしたものです。ビジネスの数字にそのまま当てはまると実証されているわけではありません。ただ、割合を組み立て直す負担や、相対値が大きく見える構造は、扱う数字が変わっても共通していると考えられます。以下は、その考え方を場面に当てはめた提案です。
- 経営報告 — 「失敗する確率は5%」より「20回に1回は失敗する」。リスクを頻度で言うと、許容できるかどうかを判断しやすくなります
- IR・説明会 — 「前年比2倍」と言うなら「3億円から6億円」と実数を添える。もとの規模が小さい成長率ほど、実数がないと過大に受け取られます
- 研修・社内説明 — 検査やチェックの精度を説明するときは、先ほどの解約予測のように「1,000件のうち」から順に分けて話す
資料がある場面では、絵も使えます。McDowell 氏と Jacobs 氏のメタ分析では、視覚的な補助が、自然頻度と条件付き確率のどちらの形式でも成績を上げていました。100個の点のうち何個に色を付けるといった単純な図は、話し言葉の言い換えを支える手段になります。
準備の段階では、報告の中心になる数字を一つずつ取り出し、「割合」「何人中何人」「何件から何件へ」の三つの形で書き出してみることを勧めます。書き出すと、分母が決まっていない数字や、比べる相手があいまいな数字がすぐに見つかります。そのうえで、聞き手が判断に使う形を一つ選び、残りは資料の注記に回します。
言い換えが不誠実になる線引き
言い換えは、数字を分かりやすくする技術であると同時に、印象を動かす技術でもあります。Akl 氏らのレビューが示したとおり、相対的な示し方は理解度を変えずに説得力だけを高めることがあります。つまり、示し方を選ぶこと自体が、聞き手の判断に影響を与えているのです。
そこで、言い換えが不誠実にならないための目安を置いておきます。
- 都合で形式を切り替えない — 良い結果は相対値、悪い結果は実数、という使い分けをしない
- 相対値と実数を並べる — どちらか一方だけにしない
- 分母をそろえる — 比べる数字は、同じ分母の頻度で言う
- 丸めすぎない — 「約8人に1人」と言うなら、元の割合も資料に残す
基準は、聞き手が自分で判断できる材料をそろえているかどうかです。数字を大きく見せるためではなく、誤解の余地を小さくするために言い換える、という順序を守れば、言い換えは信頼を損なうものではなくなります。
まとめ
数字は、正確に言っても、聞き手の頭の中で正しく組み立てられるとは限りません。研究からは、確率より自然頻度のほうが理解されやすいこと、相対値は理解を変えずに効果を大きく見せること、そして専門家でも示し方によって読み違えることが見えてきます。
誤解を減らす中心は、頻度・絶対値・基準の三つです。数字は「正確に言う」だけでなく、「聞き手が組み立て直さずに済む形で渡す」ところまでが、伝える側の仕事だと考えると、報告の質は一段上がります。
参考文献・出典
- Akl, E. A., Oxman, A. D., Herrin, J., Vist, G. E., Terrenato, I., Sperati, F., Costiniuk, C., Blank, D., & Schünemann, H. (2011). Using alternative statistical formats for presenting risks and risk reductions. Cochrane Database of Systematic Reviews, (3), CD006776. https://doi.org/10.1002/14651858.CD006776.pub2
- Gigerenzer, G., Gaissmaier, W., Kurz-Milcke, E., Schwartz, L. M., & Woloshin, S. (2007). Helping doctors and patients make sense of health statistics. Psychological Science in the Public Interest, 8(2), 53-96. https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2008.00033.x
- Hoffrage, U., Lindsey, S., Hertwig, R., & Gigerenzer, G. (2000). Communicating statistical information. Science, 290(5500), 2261-2262. https://doi.org/10.1126/science.290.5500.2261
- McDowell, M., & Jacobs, P. (2017). Meta-analysis of the effect of natural frequencies on Bayesian reasoning. Psychological Bulletin, 143(12), 1273-1312. https://doi.org/10.1037/bul0000126