「目を見て話しなさい」で困る人がいる
新人研修や面接対策で、「相手の目を見て話しましょう」と教わった人は多いはずです。目をそらす人は自信がなさそうに見える、という説明が添えられることもあります。
ところが、この助言をまじめに守ろうとすると困ることが出てきます。相手の目を見続けていると、話す内容が頭から抜ける。相手のほうが先に目をそらし、気まずくなる。会議で一人を見つめていたら、他の参加者が置いていかれたように感じる。
困る理由は、助言に「量」と「配分」が書かれていないことにあります。見るか見ないかの二択ではなく、どのくらいの長さで、誰に、どの場面で視線を向けるか。この記事では、視線の研究からその手がかりを集めていきます。
視線が相手に与える働きは一つではない
まず、視線が何をしているのかを確認します。Kleinke 氏は視線とアイコンタクトの研究を幅広く整理し、視線には情報を得る、やりとりを調整する、親密さを表す、相手に影響を及ぼすといった、複数の働きがあるとまとめました。
ここで大事なのは、同じ「相手を見る」という行動が、場面によって別の意味を持つことです。話を聞きながら見るのは相手の反応を読むためであり、話し終えて見るのは「次はあなたの番です」という合図になります。親しい相手との見つめ合いは好意を表しますが、交渉や叱責の場での凝視は、相手を押さえつける力として働きます。
脳の側から見ても、目が合うことは特別な出来事です。Senju 氏と Johnson 氏は、目が合ったと知覚すると、その最中や直後の認知処理が変わる現象を「アイコンタクト効果」として整理しました。成人の脳画像研究では、目が合うことが社会的な情報を処理する脳の領域の働きを変えること、乳児期から目が合った顔に注意が向きやすいことが報告されています。
つまり視線は、話し手が思っている以上に強い信号です。だからこそ「多ければ多いほどよい」ものではありません。
見つめ合いと距離の釣り合い
視線の量を考えるうえで古典的な研究が、Argyle 氏と Dean 氏による1965年の実験です。二人は、アイコンタクトが相手の反応を確かめる手段であると同時に、親しくなりたい気持ちとも結びついていると考えました。
そのうえで、身体の距離・アイコンタクト・その他の親密さの表現には、近づきたい力と離れたい力のあいだで決まる釣り合いの水準があり、どれか一つが崩れると、ほかで埋め合わせが起きると仮説を立てました。
実験では、片方が実験協力者で、もう一方の参加者をずっと見つめ続けます。その条件で二人を座らせる距離を変えると、距離が近いほど、参加者のアイコンタクトは減り、一回ごとの視線も短くなったのです。また別の実験では、相手が目を閉じていると、参加者はより近くに立ちました。
この結果は、実務にそのまま置き換えられます。机をはさまずに隣に座る、小さな会議室で向かい合うなど、距離が近い場面では、遠い場面と同じ量の視線は「多すぎる」と感じられやすい。視線の適量は固定値ではなく、距離や関係との組み合わせで決まると考えたほうが実態に合います。
視線が多すぎるときに起きること
では、見すぎるとどうなるのか。Argyle 氏と Dean 氏の実験で起きたのは、見られている側が視線を外し、目を合わせる時間を短くする反応でした。釣り合いが崩れた分を、相手が自分の側で調整したわけです。
心地よい見つめ合いの長さそのものを測った研究もあります。Binetti 氏らは、ロンドンの科学博物館の来館者498名(56の国籍)に、俳優がこちらを見つめる動画を見せ、その長さが心地よい長さより「短すぎる」か「長すぎる」かを判断してもらいました。分析対象となった参加者の平均は約3.3秒でした。性別や性格特性による違いは見られず、俳優の顔を「威圧的」と評価した人ほど好む長さが短い傾向がありました。
この数字は、動画の俳優と一方的に目を合わせる条件で、会話はありません。著者らも、やりとりのある対面の場面を十分にはとらえていない可能性を認めています。ですから「3秒見たら外す」というルールとして使うより、見つめ合いは数秒単位で区切られるのが普通で、途切れずに続く視線は不自然に感じられやすいという目安として受け取るのが妥当です。
視線が少なすぎるときに起きること
反対に、視線が少なすぎる場合に失われるのは、主に二つの働きです。
一つは情報です。Argyle 氏と Dean 氏が出発点に置いたとおり、アイコンタクトの大事な役割は相手の反応を確かめることです。資料やスライドばかり見ていると、うなずきが止まった、首をかしげた、といった小さな反応を拾えません。説明の速さや順番を調整する手がかりを、自分から捨てていることになります。
もう一つは調整です。視線は、話し終えたことや、相手に話してほしいことを伝える合図になります。視線が合わないまま話し終えると、聞き手は質問してよいのか、まだ続くのかを判断しにくくなります。
ここで、「目をそらす人は自信がない」「嘘をついている」といった断定には距離を置いておきます。視線が少ない理由は、考えをまとめている、緊張している、文化的にそのほうが礼儀にかなうなど、さまざまです。本記事が言えるのは、視線が少ないと反応を読む力と、やりとりを回す力が落ちる、という点までです。
1対1と、1対多で変わる配分
1対1の場面では、量の調整が中心になります。相手が話しているときは比較的よく見て反応を受け取り、自分が考えながら話すときは視線を外してもかまいません。区切りや問いかけの直前に視線を戻すと、話の受け渡しが滑らかになります。距離が近い席では、見る量を少し減らすくらいでちょうどよいことがあります。
1対多の場面、つまり会議やプレゼンでは、量よりも配分が問題になります。よくあるのは、うなずいてくれる一人や、決裁者だけを見続けてしまうことです。見られている人は圧を感じ、見られていない人は自分に向けた話ではないと感じます。
そこで、一文か一つの意味のまとまりを一人に向け、次の文では別の人へ移す、というやり方が使えます。会場が広ければ、左・中央・右、前方・後方といった区画に分け、区画ごとに一人を選んで話しかけます。全員を均等に見る必要はありませんが、誰も一度も見られないまま終わる区画をつくらないことが目安になります。
オンラインではどこを見るのか
オンライン会議では、対面とは違う板挟みが生まれます。相手から目が合って見えるのはカメラを見たときですが、カメラを見ている間は相手の表情が見えません。画面の相手を見れば反応は読めますが、相手からは視線が少し下にずれて映ります。
先ほどの働きで整理すると、カメラを見ることは「合図を送る」ための視線で、画面を見ることは「情報を得る」ための視線です。オンラインでは、この二つを同時にはこなせません。そのため、冒頭のあいさつ、結論、問いかけなど、相手に向けて言い切る場面ではカメラを、相手が話している間や反応を確かめたい場面では画面を見る、と役割で使い分けるのが現実的です。
カメラ目線の具体的な練習や、資料共有中の目線の戻し方は、オンライン会議の話し方の記事で詳しく扱っています。
文化と個人差をどう扱うか
視線の好ましい量は文化によって違う、とよく言われます。Akechi 氏らは、フィンランドと日本の参加者に、実在の人物と目が合う場面と、視線をそらされる場面を経験してもらい、反応を比べました。
心拍の変化、見る時間、主観的な気持ちの高ぶりといった反応では、目が合うことの効果は両国で共通して見られました。一方で、相手の顔の評価には違いがあり、日本の参加者は目が合っている顔を、より怒っている、近づきにくい、不快だと評価しました。著者らは、文化差は生理的な反応そのものではなく、表し方の決まりや文化的な規範から生じると考察しています。
この結果は、「日本人は目を合わせるのが苦手だ」という話とは違います。目が合うことへの反応は共通していて、それをどう受け止め、どう振る舞うかに違いがある、ということです。また Binetti 氏らの研究では、心地よい長さは人によってばらつきがあり、その違いは性格特性ではなく、相手を見たときの瞳孔の広がり方と関係していました。
実務では、文化や国籍から相手の好みを決めつけるのではなく、目の前の相手の反応を見て調整するほうが確実です。相手がたびたび目をそらすなら少し減らし、相手がよく見てくるなら合わせる。それ自体が、視線の「情報を得る」働きを使うことになります。
実務での目安と練習法
ここまでの内容を、日々の場面で使える目安にまとめます。
- 途切れなく見続けない — 見つめ合いは数秒単位で区切り、考えるときは外してよい
- 合図の場面では戻す — 結論、問いかけ、話を渡す直前に視線を相手へ戻す
- 距離が近いほど控えめに — 近い席では、遠い席と同じ量を見ない
- 1対多では区画で配る — 一文ごとに相手を移し、誰も見られない区画をつくらない
- 相手の反応に合わせる — 相手が目をそらす頻度を見て、量を調整する
練習には、録画が役立ちます。3分程度の説明を録画し、自分の視線が「手元・資料」「聞き手」「宙」のどこにあったかを10秒ごとに書き出します。多くの人は、資料を見ている時間と、一人だけを見ている時間が思ったより長いことに気づきます。
次に、聞き手役を3人置いて同じ説明をし、終わったあとに「自分に向けて話されたと感じた場面はあったか」「見られすぎて落ち着かなかった場面はあったか」を聞きます。視線の量は自分では測りにくいので、受け取った側の感覚で確かめるのが近道です。
まとめ
「目を見て話す」という助言は、方向としては正しくても、量と配分が抜けています。視線には、情報を得る、やりとりを調整する、親密さを表す、影響を及ぼすといった複数の働きがあり、目が合うことは脳にとっても強い信号です。
研究からは、見つめ合いには距離との釣り合いがあること、心地よい見つめ合いは数秒単位で区切られること、そして好みには個人差があることが見えてきます。視線は「たくさん見る」ものではなく、相手と場面に合わせて「配る」ものと考えると、助言が実際に使えるものになります。
参考文献・出典
- Akechi, H., Senju, A., Uibo, H., Kikuchi, Y., Hasegawa, T., & Hietanen, J. K. (2013). Attention to eye contact in the West and East: Autonomic responses and evaluative ratings. PLoS ONE, 8(3), e59312. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0059312
- Argyle, M., & Dean, J. (1965). Eye-contact, distance and affiliation. Sociometry, 28(3), 289-304. https://doi.org/10.2307/2786027
- Binetti, N., Harrison, C., Coutrot, A., Johnston, A., & Mareschal, I. (2016). Pupil dilation as an index of preferred mutual gaze duration. Royal Society Open Science, 3(7), 160086. https://doi.org/10.1098/rsos.160086
- Kleinke, C. L. (1986). Gaze and eye contact: A research review. Psychological Bulletin, 100(1), 78-100. https://doi.org/10.1037/0033-2909.100.1.78
- Senju, A., & Johnson, M. H. (2009). The eye contact effect: Mechanisms and development. Trends in Cognitive Sciences, 13(3), 127-134. https://doi.org/10.1016/j.tics.2008.11.009