自分の専門を、専門外の人に3分で説明してください。そう言われて、すぐに話し始められる人は多くありません。長く取り組んできた仕事ほど、どこを削ればよいのかが分からなくなるからです。

この難しさを、正面から訓練の題材にしている大会があります。オーストラリアのクイーンズランド大学(UQ)が始めた Three Minute Thesis、略して 3MT です。本記事では、大会の公式情報と、3MT の発表を分析した言語学の研究3本を紹介します。

先にお断りしておくと、紹介する研究は、いずれも発表の中身を分析した記述的な研究です。どの話し方が入賞につながるかを確かめた研究ではありません。また、社内研修への応用は、本稿の推論です。

8万語の論文を、3分で語る

3MT の公式サイトは、大会の趣旨を一つの対比で示しています。8万語の博士論文をそのまま発表すれば9時間かかる。持ち時間は3分です。

9時間分の内容を3分に収めるには、要約するだけでは足りません。何を残し、何を捨てるかを決め、専門外の聞き手が理解できる言葉に置き換える必要があります。大会が鍛えているのは、話す技術そのものより、自分の仕事の核心を選び出す力だといえます。

社内で専門職が説明する場面も、構図は同じです。何年分もの仕事を、会議の数分で伝えなければなりません。

3MTとは — 始まりと世界への広がり

UQ の説明によると、3MT は博士課程の学生の研究を紹介する大会で、学生が専門外の聞き手に合った言葉で、研究を3分で説明する力を育てることを目的にしています。

着想のきっかけは、クイーンズランド州が深刻な干ばつに見舞われていた時期でした。節水のためにシャワーの時間を計るよう呼びかけられ、多くの家庭の浴室に3分の砂時計が付けられていました。当時の大学院研究科長だったアラン・ローソン氏が、これを大会の着想に結びつけたとされています。

第1回は2008年に UQ で開かれ、研究学位課程の学生160人が参加しました。その後、オーストラリアとニュージーランドの大学に広がり、2010年には国をまたぐ大会が始まりました。現在では、85か国以上、900を超える大学で開かれていると UQ は説明しています。

ルール — 3分・スライド1枚・小道具なし

UQ が公開している出場者向けガイドには、スライドについて次の規則が示されています。

  • 静止したスライドを1枚だけ使える
  • 画面の切り替えやアニメーションなど、動きのある演出は使えない
  • スライドは話し始めから表示しておく
  • 音声や動画などの電子メディアは使えない

同じガイドは、衣装や小道具の使用も規則に反するとしています。持ち時間は3分です。

規則が絞られているため、発表者は演出に頼れません。ガイドは、スライドは話を補うものであり、文字や複雑な図は、聞き手が話を聞く代わりにスライドを読んでしまう原因になると助言しています。伝える力のほとんどを、話の組み立てと言葉選びに注ぐしかない設計です。

3分の発表に共通する組み立て

3分の説明を支える3つの要所 — 聞き手の身近な場面から話を始める導入(ORIENTATION)、この研究で何を明らかにするのかを言う目的(PURPOSE)、分かると何が変わるのかを聞き手に返す意義(IMPLICATION)を示す図
図|3分の説明を支える3つの要所

3分の発表は、どう組み立てられているのか。Hu 氏と Liu 氏は2018年、4つの分野の博士課程の学生による 3MT の発表142本を分析しました。

二人は発表の中に8つの修辞的な「動き」を見いだしました。どの発表にも欠かせない6つと、任意の2つです。

  • 必須の6つ — 導入、根拠、目的、方法、意義、締め
  • 任意の2つ — 理論の枠組み、結果

さらに、枠組み・方法・結果の3つを使うかどうかは、分野によって統計的に有意な差がありました。二人はこの違いを、分野ごとに知識の成り立ちが異なることで説明しています。

注意したいのは、この分析が入賞した発表に限ったものではないことです。8つの動きは、3MT という発表の形式に共通する組み立てであって、勝つための型ではありません。

図は、この必須の動きのうち、専門外の聞き手に向けた説明で特に外せないと本稿が考える3つを取り出したものです。研究の分類そのものではありません。方法の説明に時間を使いがちな専門職ほど、導入と意義に時間を割いているかを確かめる価値があります。

専門外の聞き手を話に引き込む言葉

Zou 氏と Hyland 氏は2021年、社会科学の研究者による学術ブログ65本と 3MT の発表65本を比べ、専門外の読み手や聞き手とどう関係をつくっているかを分析しました。

その結果、3MT の発表のほうが、聞き手を話に巻き込む表現を全体として多く使っていました。特に多かったのは次の3つです。

  • 聞き手に直接言及する — 「皆さんも」と聞き手を話の中に入れる
  • 考える方向を示す — 「想像してみてください」と聞き手の思考を導く
  • 問いかける — 聞き手に質問を投げる

一方、ブログでは、読み手と共有している知識を強調したり、括弧書きで補足したりする表現が目立ちました。二人はこの違いを、時間の制約があり、対面で競う話し言葉の場という条件で説明しています。

短い時間で専門外の聞き手に届けるとき、話し手は聞き手を観客として扱うのではなく、話の中に招き入れている。社内の説明に置き換えるなら、「当社の売上管理では」と始めるより、「皆さんが毎月見ている売上の数字は」と始めるほうが、聞き手は自分の話として聞き始めます。

聞き手の知識に合わせる工夫

Carter-Thomas 氏と Rowley-Jolivet 氏は2020年、理系と人文系の 3MT 発表30本を分析し、研究を専門外の聞き手向けに組み替える工夫を2つに分けて整理しました。

  1. 聞き手の知識に合わせる工夫 — 話の構成と、内容を理解できるようにする説明の仕方
  2. 聞き手の関心を引く工夫 — 個人的な経験を交える、語りかける、印象に残る題名、写真、冗談

二人は、3MT の発表にはとても安定した特徴の組み合わせがあり、独自の構成や言葉づかいを持つ一つの形式になっていると結論づけています。

ここで大切なのは、関心を引く工夫と知識に合わせる工夫が、別々の作業として扱われていることです。冗談や写真だけでは、内容は伝わりません。専門語の言い換えだけでは、聞き手は聞く気になりません。専門語を一般向けに下ろす方法はノーベル賞受賞者の講演に学ぶ構成で、難しい言葉が評価を下げる実験は難しい言葉を使うと、かえって賢く見えない理由で扱いました。

大学院が「短く話す訓練」を重視する理由

UQ は、3MT に参加する意義を3つ挙げています。

  • 学生の力を伸ばす — 学術、発表、研究を伝える力が育ち、専門外の聞き手に合った言葉で説明できるようになる
  • 大学の研究文化をつくる — 学生が集まって互いの研究を知る機会になり、学部や研究所が発表の訓練を提供する場になる
  • 外との関係を広げる — 学内の勝者は国内外の大会に進み、交流の機会を得る

二つ目は見落とされがちです。3MT は個人の競技であると同時に、隣の研究室が何をしているかを知る場にもなっています。専門が細かく分かれた組織ほど、互いの仕事を短く説明し合う場の価値は大きくなります。

短い話を作る一般的な手順はTED Talkに学ぶ、短く強く伝える技術で扱いました。3MT の特徴は、それを大学院教育の訓練の仕組みとして毎年続けている点にあります。

専門職が自分の仕事を3分で説明する研修

ここからは研究の外の話です。3MT の形式は、企業の研修にも持ち込めると考えられます。たとえば次のような設計です。

  • 対象 — 研究開発、技術、法務、財務など、専門を持つ社員
  • 課題 — 自分の担当業務を、他部署の社員に向けて3分で説明する
  • 条件 — スライドは静止画1枚、動画や演出は使わない
  • 聞き手 — 説明する人とは別の部署の社員

条件を大会に合わせるのは、演出に頼れない状態をつくるためです。1枚のスライドしか使えなければ、話の組み立てを考えるしかありません。

聞き手を別部署にすることも欠かせません。同じ部署の同僚は、説明が足りなくても補って理解してしまいます。専門外の聞き手の前で話して初めて、どこで話が通じなくなるかが分かります。

自己紹介や提案を30秒で伝えるエレベーターピッチの作り方が「相手に次の行動を促す」短い話だとすれば、3MT 型の研修は自分の仕事の意味を理解してもらう短い話を鍛えるものです。

練習の進め方

UQ の出場者向けガイドには、原稿づくりと練習についての助言があります。研修に持ち込みやすいものを取り出すと、次のとおりです。

  1. 聞き手を決める — 専門用語と学術的な言い回しを避け、別分野の親しい友人に説明するつもりで書く
  2. 物語として組み立てる — 始まり・中盤・終わりを持たせ、冒頭で注意を引き、最後に研究の大切さを言い直す
  3. 持ち帰ってほしいことを決める — 何をしているのか、なぜ大切か、何を目指すのかを聞き手に残す
  4. 声に出して読む — 友人や家族に聞いてもらい、何の研究で、なぜ大切かが伝わったかを尋ねる
  5. 録音して聞き返す — 間を取る箇所、速すぎる箇所を確かめる

研修では、4番目を聞き手に要点を言い直してもらう形にすると、伝わったかどうかがはっきりします。うなずきや拍手ではなく、言い直せたかどうかで判断するのがポイントです。

発表後の振り返りには、Hu 氏と Liu 氏が見いだした必須の6つの動きを点検表として使えます。聞き手に、導入・根拠・目的・方法・意義・締めのそれぞれが話の中にあったかを印を付けてもらうのです。専門職の説明では、方法に印が付き、導入と意義が空欄のまま残ることがよくあります。空欄になった動きが、次の練習で書き足す箇所です。ただし、これは研究の手法ではなく、本稿が研修向けに転用した使い方です。

まとめ

3MT は、8万語の博士論文を専門外の聞き手に3分で説明する大会で、UQ から85か国以上・900を超える大学に広がりました。静止したスライド1枚、小道具なしという規則が、話の組み立てと言葉選びに力を注がせます。

発表を分析した研究からは、導入から締めまでの共通する組み立て、聞き手を話に巻き込む表現、知識に合わせる工夫と関心を引く工夫の両立が見えてきます。専門職が自分の仕事を別部署の人に3分で語る研修は、この形式を職場に持ち込む一つの方法です。

参考文献・出典