「スライドを読み上げる」は、なぜ楽に見えるのか
社内の報告会でも、研修でも、画面いっぱいの文章を話し手が読み上げていく場面はよく見かけます。話し手にとって、この方法には利点がそろっています。言い忘れがない。順番を間違えない。資料を配ればそのまま記録として残る。
聞き手にとっても、一見すると親切です。耳で聞き逃しても、目で追えば確かめられる。文字と声の両方で受け取れば、片方だけより確実に伝わるはずだ、と考えるのは自然です。
ところが、この「両方で受け取れば確実」という前提は、研究では必ずしも支持されていません。同じ言葉を、同じ時間に、文字と声で同時に出すという組み合わせは、条件によっては理解を下げる側に働きます。
なお、ここで紹介する研究の多くは、学習教材(画面上のアニメーションや技術訓練の教材)を使った実験です。会議やプレゼンの場面で同じことが起きるかは直接確かめられておらず、以下はその知見をプレゼンに移して考えた推論として読んでください。
同じ情報を目と耳から同時に入れるとどうなるか
Mayer 氏と Moreno 氏は、マルチメディア学習の理論を次の3つの前提で整理しています。
- 人は、絵や図を処理する経路と、言葉を処理する経路を別々に持っている
- それぞれの経路が一度に処理できる量には限りがある
- 意味のある学習には、絵と言葉を結びつけるような能動的な処理が必要である
そのうえで両氏は、学習者がしようとする処理が、使える処理能力を上回ってしまう状態を「認知的な過負荷」と呼び、過負荷が起きる典型的な場面と、それぞれの負荷を減らす方法を研究結果とともにまとめました。結論は、認知負荷は、教材の設計で中心に置くべき考慮点であるというものです。
この枠組みで読み上げを見直すと、問題の形が見えてきます。スクリーン上の文章は目から入り、読み上げる声は耳から入ります。経路が2つあるなら負荷は分散しそうに思えます。しかし目は、文章を読むことと、図やグラフを見ることを同時にはできません。そのうえ聞き手は、読んでいる文字と聞こえている声が同じ内容かを照らし合わせることになります。声と文字が同じ内容を運ぶと、処理の量は増えるのに、得られる情報は増えないということが起こりえます。
理解を下げる3つの経路
研究で観察されてきた現象を、プレゼンの場面に引き寄せて整理すると、読み上げが理解を下げる経路は次の3つに分けられます。
- 二重処理 — 同じ言葉を、文字と声で二度処理させる
- 注意の分割 — 図と説明文が離れていて、目が行き来する
- 情報の過多 — 足した材料が、本題の処理に使う余力を奪う
3つは別々に起きることもあれば、1枚のスライドで同時に起きることもあります。
二重処理 — 文字と音声が同じ経路を取り合う
Mayer 氏らは、大学生に雷の発生の仕組みを説明するアニメーションを見せ、同時にナレーションで説明を聞かせる実験を4つ行いました。このうち2つの実験では、ナレーションに加えて画面上に文字を出す条件を設けています。文字はナレーションを要約したもの、またはナレーションと同じ文言でした。
結果は、画面に文字を足した学生のほうが、文字のない学生よりも、内容の記憶でも応用問題でも成績が低かったというものです。著者らはこれを、画面の文字が目の経路に負荷をかけ、学生の目がアニメーションと文字の2か所に割かれたためだと説明しています。
Kalyuga 氏らは、技術系の見習い工25人を対象に3つの実験を行い、同じ現象を別の角度から確かめました。図の説明を文字と音声で同時に出す条件と、時間をずらして出す条件を比べると、学習時間が限られている場合には、時間をずらしたほうが、主観的な負担の評価でもテストの成績でも上回りました。さらに図のない技術文書でも、同じ文章を文字と音声で同時に出すと、音声だけの場合より学習の効率が有意に低くなっています。
著者らは、同じ内容の文字と音声を同時に照らし合わせながら処理させると、作業記憶に過大な負荷がかかると説明しています。会議室に置き換えると、画面の文章を声より先に読み終えて声が追いつくのを待つ、あるいは声を聞き流して先を読み進める、という聞き手の姿が思い浮かびます。これは研究で観察されたものではありませんが、声と文字の二つを照らし合わせる処理が加わっている点では同じ構図です。
注意の分割 — 図と説明が離れているとき
2つ目の経路は、読み上げそのものではなく、スライドの作り方から生じます。
Chandler 氏と Sweller 氏は、電気工学と生物学の教材を使った6つの実験で、互いを参照し合う図と説明文を離して置いた教材と、説明を図の中に組み込んだ教材を比べました。3か月にわたる企業内訓練の実験では、一体化した教材のほうが一貫して成果が高かったと報告されています。図と文章を頭の中でつなぎ合わせる作業が、理解に先立って大きな負荷になるためです。
ただし、同じ研究は条件も示しています。図と文章を結びつけなくても理解できる内容では、一体化した教材は離した教材より優れてはいませんでした。つまり問題になるのは、片方だけでは意味が通らず、聞き手が自分で両者をつなぐ必要がある場合です。
プレゼンに移すと、左半分にグラフ、右半分にその説明文を並べたスライドがこれに当たります。話し手が右の文章を読み上げている間、聞き手は文章とグラフの間で目を往復させます。そこへ声が重なると、先の二重処理も同時に起きます。
情報の過多 — 足した材料が理解を減らすとき
3つ目の経路は、良かれと思って足した材料です。
先に挙げた Mayer 氏らの実験では、ナレーションに興味を引くが本題と関係の薄い話を加えた条件や、本題と関係の薄い映像を途中や冒頭に挟んだ条件でも、応用問題の成績が下がりました。著者らは、足した材料が学習者の頭の中で誤った枠組みを呼び起こし、本題の整理を妨げたと考えています。
Chandler 氏と Sweller 氏の実験でも、図への解説のように一見役に立ちそうでも本質的でない説明を加えると、一体化した形で示しても悪影響が出うることが示されました。
スライドでは、この経路は補足の積み重ねとして現れます。念のための注記、背景の説明、関連する数字、印象に残そうとした写真。1つ1つは意味があっても、1枚に重なると、聞き手は本題を探す作業から始めなければなりません。
では、スライドに何を書くのか
3つの経路から逆算すると、スライドの役割は「話す内容の全文」ではなく、声では伝えにくいものを見せることになります。
- 図・グラフ・構造 — 数値の推移や全体の関係は、声だけでは伝えにくい。画面の主役はこちらに置く
- キーワード — 話の区切りごとに、いま何の話をしているかを示す短い言葉を置く
- 説明は図の中へ — グラフの説明は別の枠に文章で並べず、該当する線や棒のそばに短く添える
- 1枚に1つの主張 — 補足は口頭か手元資料へ回し、画面には本題に必要なものだけを残す
話し手の側から見ると、全文が画面にないと話せないのであれば、それは発表の準備の問題です。画面に置くキーワードは、聞き手のための見出しであると同時に、話し手の記憶の手がかりにもなります。
見せる情報を絞ることは、話の中身を減らすことではありません。聞き手の注意がどこに向いているかという観点からの整理は、脳はマルチタスクが苦手なのかでも扱っています。本稿で加えたいのは、話し手の声とスライドの文字が、同じ内容を運んでいないかという点検です。
手元資料とスクリーンを分ける
スライドに文章を書き込みたくなる理由の一つは、同じファイルを配布資料としても使いたいからです。発表で映すものと、後で読んでもらうものを1つで兼ねようとすると、画面は文章で埋まり、読み上げが起きやすくなります。
分けてしまうのが実務上の解決です。
- スクリーン — 図とキーワード中心。発表の場で、声と一緒に見るためのもの
- 手元資料 — 文章で書いた説明、数値の詳細、出典。後から一人で読むためのもの
手元資料をいつ渡すかも考えどころです。発表の最中に文章の資料を読める状態にすると、聞き手は資料を読みながら話を聞くことになり、形を変えた二重処理が起きます。詳しい文章の資料は発表の後に渡す、途中で見てほしいページがあるならその時点で「資料の3ページをご覧ください」と、見る場所と時間を指定します。
読み上げても崩れない例外はあるか
ここまでの話を「スライドに文字を書いてはいけない」と読むのは行き過ぎです。研究は、文字と声を重ねることが役に立つ条件も示しています。
Adesope 氏と Nesbit 氏は、話し言葉と書き言葉の組み合わせを扱った57の研究をメタ分析で統合しました。参加者の多くは大学生以上です。全体としては、文字と声を同時に出す形は、文字だけの形と差がなく、声だけの形よりは学習成果が上回っていました。
その利点が現れたのは、事前の知識が少ない学習者、進む速さを学習者が調整できない教材、そして絵や図を含まない教材でした。さらに、ナレーションをそのまま文字にするより、ナレーションから要となる言葉を抜き出して示す形のほうが学習成果が良く、文字と声を重ねる利点の多くはこの形で説明できたと報告されています。
プレゼンに移すと、次のように読めます。
- 専門用語が多く、聞き手がその分野に慣れていない場合は、耳だけに頼らせず、要となる言葉を画面に出すほうがよい
- 発表は聞き手が速さを選べない形式なので、聞き取りにくい固有名詞や数値は文字で補う意味がある
- ただし画面に図があるときは、全文を重ねるほど図を見る余裕が削られる
つまり問題は文字があることではなく、図と一緒に、話す全文を重ねることです。実務上の例外として、法的な文言や定義のように一語の正確さが求められる箇所は、全文を示して読み上げる理由があります。その場合も、図と同じ画面に並べず、その文言だけを示す1枚にするのが安全です。
まとめ
スライドの文字を読み上げる方法は、話し手にも聞き手にも丁寧に見えますが、学習教材の研究では、話す言葉と同じ文字を画面に重ねると理解が下がる場面が繰り返し観察されてきました。その経路は、二重処理、注意の分割、情報の過多の三つです。
一方で、要となる言葉を示すことは、慣れていない聞き手の助けになりえます。スライドには図とキーワードを置き、説明は声で、詳しい文章は手元資料で。画面と声と資料に、それぞれ別の仕事を割り当てることが、読み上げに頼らない発表の出発点です。
参考文献・出典
- Adesope, O. O., & Nesbit, J. C. (2012). Verbal redundancy in multimedia learning environments: A meta-analysis. Journal of Educational Psychology, 104(1), 250-263. https://doi.org/10.1037/a0026147
- Chandler, P., & Sweller, J. (1991). Cognitive load theory and the format of instruction. Cognition and Instruction, 8(4), 293-332. https://doi.org/10.1207/s1532690xci0804_2
- Kalyuga, S., Chandler, P., & Sweller, J. (2004). When redundant on-screen text in multimedia technical instruction can interfere with learning. Human Factors, 46(3), 567-581. https://doi.org/10.1518/hfes.46.3.567.50405
- Mayer, R. E., Heiser, J., & Lonn, S. (2001). Cognitive constraints on multimedia learning: When presenting more material results in less understanding. Journal of Educational Psychology, 93(1), 187-198. https://doi.org/10.1037/0022-0663.93.1.187
- Mayer, R. E., & Moreno, R. (2003). Nine ways to reduce cognitive load in multimedia learning. Educational Psychologist, 38(1), 43-52. https://doi.org/10.1207/S15326985EP3801_6