主張とは、強く言い切ることではない

会議で自分の考えを述べたのに、議論が前に進まない。強く反対されたわけでもないのに、「検討しておきます」で終わってしまう。こうした場面で足りていないのは、多くの場合、意見の強さではありません。

海外の学校や大学で最初に教えられるのは、力強く言い切る技術ではありません。自分の主張を、他人が検討できる形に組み立てる技術です。検討できる形とは、何を言いたいのかが一文で分かり、なぜそう言えるのかが示され、どこが弱いのかも自分から開示されている状態を指します。

この記事が扱うのは、話す・書くときのアウトプットの骨格です。情報を判断する側の思考法は世界の大学が教えるクリティカルシンキングで、相手と応酬する場での反論の作法はオックスフォード式ディベートに学ぶ対話力で扱っています。本稿は一人で話すときに、話の骨格をどう組むかに絞ります。

なぜ海外の教育は型から教えるのか

英語圏の教育で議論の型が重視されるようになった背景には、論理学者トゥールミン氏が1958年の著作で示した枠組みがあります。主張、その裏づけとなるデータ、両者をつなぐ根拠づけ、そして主張が成り立たない条件を示す反駁。これらを分けて扱うという考え方は、その後の作文教育や議論教育に広く取り入れられました。

型を先に教えるのは、内容を軽んじているからではありません。型がないと、内容の良し悪しを検討できないからです。何が主張で何が事実か区別のつかない発言は、賛成も反対もしにくく、そのまま流れていきます。

議論の型を教えることが思考そのものを変えるのか。この点を長期に追った研究があります。クーン氏とクロウェル氏は、中学生に議論を交わす形式の授業を継続的に行い、通常の学級討議を行った比較群よりも、論述の質が高まったことを報告しています。型は話し方の作法にとどまらず、考えの深さに関わるという結果です。

主張を支える3要素

実務で使う形に落とすと、押さえるべきは次の3つです。

  1. 主張 — 何を言いたいのかを一文で言い切る
  2. 根拠 — なぜそう言えるのかを、意見ではなく事実で示す
  3. 反証 — 自分の主張が成り立たない条件や反対意見を、自分から出す
主張を支える3要素 — 主張は一文で言い切る、根拠は意見と事実を分ける、反証は反対意見を自分から出す、という3点を示す図
図|主張を支える3要素

日本の会議で省略されやすいのは、3つ目です。反対意見は相手が出すもので、自分から持ち出すのは自分の案を弱めることだと考えられがちだからです。ところが国際的な場では、この3つ目こそが話し手の準備量を示す部分として受け取られます。

主張 — 一文で言い切れる形にする

主張は、一文で言い切れるかどうかで判定できます。「価格改定について検討したいと思います」は主張ではありません。議題の宣言です。「価格を10月から8%引き上げるべきです」であれば主張になります。

判定の目安は単純で、その一文に対して「賛成」か「反対」と答えられるかです。答えられなければ、まだ主張の形になっていません。

主張になっていない例主張の形
採用について課題があると感じています中途採用の一次面接を、来月から現場に移すべきです
このシステムは色々と問題があります現行システムは来期で終了し、更新を見送るべきです
若手の育成を強化したいと思います若手研修の予算を今年度の2倍にすべきです

言い切ることをためらう気持ちには理由があります。断定すれば責任が生じるからです。しかし聞き手の側から見ると、断定していない意見は判断の対象になりません。言い切ることは、検討してもらうための入口にあたります。

主張が固まらないうちは、無理に一文にしなくても構いません。その場合は「まだ主張の段階ではなく、論点の共有です」と明示すれば足ります。曖昧な一文を主張のように置くことだけを避けます。

根拠 — 意見と事実を分ける

次に、主張を支える根拠を置きます。ここで最も多いつまずきは、根拠のつもりで別の意見を重ねてしまうことです。

「この施策は効果があると思います。現場も必要だと言っています」。後半は事実に見えますが、確認できるのは「誰かがそう言った」という点だけで、施策の効果とは別の話です。根拠として機能するのは、聞き手が独立に確かめられる情報です。数値、実績、期間、比較対象。これらが揃うと、聞き手は自分で検討できるようになります。

根拠を添えることの効果は、説得研究でも長く扱われてきました。レイナード氏は、証拠を用いたメッセージの説得効果に関する半世紀分の研究を整理し、証拠を伴うメッセージが受け手の態度に影響することは繰り返し確認されてきたと述べています。

実務では、次の3点を分けて示すと根拠が立ちます。

  • 数値 — いつ、どの範囲で、どれだけか。「大幅に増えた」ではなく「3か月で18%増えた」
  • 出所 — 誰が測ったのか。自社の実績か、外部の調査か、担当者の実感か
  • 範囲 — その数値がどこまで当てはまるのか。全社か、1部門か、特定の顧客層か

3つ目を添えると、根拠はかえって強くなります。「この結果は東京の3拠点でのみ確認しています」と述べたほうが、無条件に一般化するより信頼されます。

反証 — 反対意見を自分で先に出す

3つ目が、日本の会議でほとんど省略される要素です。自分の主張に対する反対意見や、主張が成り立たない条件を、自分から述べます。

「この案には、初期コストが想定の1.5倍になる可能性があります」「反対の立場からは、現行の体制で十分だという見方もあります」。こうした一文を、聞き手から指摘される前に自分で置きます。

反証を先に出しておくと、後から反論を受けたときに態度が揺らぎにくくなることが知られています。バナス氏とレインズ氏は、あらかじめ弱い形の反論に触れておくことで後の説得に抵抗しやすくなるという「接種理論」の研究を統合し、この効果が全体として確認できると報告しています。先に触れておくことが、後の揺らぎを減らすという考え方です。

ただし、反証は出せばよいというものではありません。重要なのは出し方です。次の節で扱います。

反証を先に出すと弱く見えるのか

自分から弱点を出せば、その分だけ説得力が落ちるのではないか。この疑問には、比較的はっきりした答えがあります。

オキーフ氏は、片面だけを述べるメッセージと、反対意見にも触れる両面のメッセージを比較した多数の研究を統合しました。結果は、単純に「両面が良い」ではありませんでした。反対意見に触れ、それに対する応答まで示した場合は、片面だけのメッセージより説得的である一方、反対意見に触れるだけで応答しない場合は、片面だけのものより説得力が落ちるという傾向です。

つまり分かれ目は、触れるかどうかではなく、触れたあとに応答があるかどうかです。

出し方聞き手に残るもの
反対意見に触れない都合の悪い面を見ていないのではという疑い
触れるだけで応答しない自分でも自信がないという印象
触れて応答する検討済みであるという信頼

応答といっても、反論を封じる必要はありません。「初期コストは1.5倍になり得ますが、2年目以降の運用費で回収できる見込みです」「現行体制で十分という見方はありますが、来期の受注増を前提にすると人員が足りません」。この程度で足ります。

会議・提案での使い方

3要素を、実際の発言の順序に落とします。基本形は主張から始めます。

まず主張を一文で述べる。次に根拠を2つか3つ、数値と出所を添えて示す。そのうえで想定される反対意見を1つ挙げ、それへの応答を述べる。最後に、相手に何を判断してほしいのかを明示する。この4段で、2分から3分の発言になります。

実際の発言に当てはめると、次のようになります。「新人研修の期間を2週間から4週間に延ばすべきです」と主張を置く。続いて「昨年度の新人12名のうち5名が、配属後3か月の面談で基礎業務の手順を確認できていないと回答しました。これは人事部の面談記録で確認できます」と根拠を示す。そのうえで「現場からは、繁忙期に4週間も人手が抜けるのは厳しいという意見が出ると思います。そこで後半2週間は配属先での実務を含む形にして、完全に抜ける期間は従来どおり2週間に留める案を用意しました」と反証と応答を置く。最後に「この形で進めてよいか、今日ご判断いただきたいです」と締める。

この構成の利点は、聞き手が途中で口を挟まなくて済むことです。反対意見が話し手から出ているため、聞き手は反論を組み立てる代わりに、応答の妥当性だけを検討すればよくなります。

提案資料でも同じ骨格が使えます。表紙の次のページに主張を一文で置き、続くページで根拠、その次に「想定される懸念」の見出しで反証と応答を置く。懸念の節を末尾の付録に回さず、本論の中に置くことが要点です。質疑応答の時間になってから初めて弱点が出てくると、隠していた印象になります。

反対意見を扱うときは、その意見を持つ人を批判しないことが前提になります。この線引きについてはオックスフォード式ディベートに学ぶ対話力で詳しく扱っています。

型が崩れるときの兆候

会議中に自分の発言を点検する手がかりを挙げます。次の兆候が出ていたら、3要素のどれかが抜けています。

  • 話し終えたあと、相手が「つまり何をすればいいですか」と聞き返す — 主張が一文になっていない
  • 「なるほど、そういう考え方もありますね」で終わる — 根拠が意見の重ね塗りになっている
  • 質疑で想定外の指摘が出て答えに詰まる — 反証を自分で洗い出していない
  • 資料の分量が増える一方で結論が見つからない — 主張を決める前に材料を集めている

最後の兆候は特に多く見られます。材料が揃えば主張が決まるという順序で進めると、いつまでも主張が立ちません。先に仮の主張を置き、それに反証を当てながら修正していくほうが、結果として早く固まります。

型を身につける練習法

型は、知識として覚えても定着しません。短時間でも繰り返す形にしたほうが身につきます。

一つ目は、会議前の3行メモです。主張、根拠、想定される反対意見と応答を、それぞれ1行で書いてから会議に入ります。所要は2分程度で、発言の順序がそのまま決まります。

二つ目は、反証だけを書き出す練習です。自分の提案に対して、立場の違う人が言いそうな反対意見を3つ書きます。慣れないうちは思い浮かびにくいので、コスト、期間、既存業務への影響という3つの観点から探すと出やすくなります。

三つ目は、他人の発言を3要素に分解して聞く練習です。会議で誰かが話しているあいだ、どれが主張でどれが根拠かをメモに分けます。分解して聞けるようになると、自分が話すときの構成も自然に整います。

まとめ

主張とは強く言い切ることではなく、他人が検討できる形に組み立てることです。骨格になるのは、主張、根拠、反証の三つです。

省略されやすいのは反証ですが、反対意見に触れたうえで応答まで示す形は、触れない場合よりも信頼されます。逆に、触れるだけで応答しないと自信のなさとして受け取られます。次の会議の前に、主張・根拠・反証を1行ずつ書き出すところから始められます。

参考文献・出典

本記事で触れた研究・一次情報は以下のとおりです。

  • Toulmin, S. E. (1958). The Uses of Argument. Cambridge University Press.(書籍・DOI なし)
  • Kuhn, D., & Crowell, A. (2011). Dialogic argumentation as a vehicle for developing young adolescents’ thinking. Psychological Science, 22(4), 545-552. https://doi.org/10.1177/0956797611402512
  • Reinard, J. C. (1988). The empirical study of the persuasive effects of evidence: The status after fifty years of research. Human Communication Research, 15(1), 3-59. https://doi.org/10.1111/j.1468-2958.1988.tb00170.x
  • Banas, J. A., & Rains, S. A. (2010). A meta-analysis of research on inoculation theory. Communication Monographs, 77(3), 281-311. https://doi.org/10.1080/03637751003758193
  • O’Keefe, D. J. (1999). How to handle opposing arguments in persuasive messages: A meta-analytic review of the effects of one-sided and two-sided messages. Annals of the International Communication Association, 22(1), 209-249. https://doi.org/10.1080/23808985.1999.11678963