質問しないことは、同意ではない

説明が終わり、「ご質問はありますか」と司会が尋ねる。誰も手を挙げない。「では、この方針で」と会議が閉じる。日本の会議では見慣れた流れです。

この沈黙を、日本の参加者の多くは配慮として選んでいます。理解できたから聞かない。細かい点は後で個別に確認すればよい。時間を延ばしたくない。いずれも会議を円滑に進めようとする判断です。

ところが、同じ沈黙を国際的な場で見ると、読まれ方が変わります。質問がないことは、合意の証拠としては受け取られません。読まれるのは、資料を読んでいない、理解していない、あるいは関心がない、のいずれかです。実行段階になって反対や修正要求が出てくると、「あのとき何も言わなかったのに」という不信につながります。

この記事が扱うのは、会議の場で質問するという参加者個人の行動と、それを取り巻く規範です。問いをどう立てるかという思考法はスタンフォード流「問いを立てる力」で、発言しやすい場を組織としてどうつくるかはグローバル企業が重視する心理的安全性で扱っています。本稿はその中間、会議に出ている一人が明日から変えられる部分に絞ります。

なぜ日本の会議では質問が出にくいのか

質問が出ない理由を、参加者の消極性で説明するのは正確ではありません。多くの場合、質問を控えることには本人なりの合理性があります。実務で聞かれる理由は、おおむね3つに集約されます。

一つ目は、質問が異議として受け取られる懸念です。提案者が時間をかけて準備した案に問いを向けることが、水を差す行為に見えるのではないかという心配です。二つ目は、自分の理解不足を露呈する懸念です。「そんなことも分からないのか」と思われるくらいなら、後で調べればよいと考えます。三つ目は、時間への遠慮です。全員が着席している場で、自分だけのために時間を使うことへの躊躇です。

こうした自己検閲は、明文化されたルールから生じるわけではありません。デタート氏とエドモンドソン氏は、職場で発言を控える人が「上司に異を唱えてはいけない」「上位者の前で否定的なことを言えば関係が壊れる」といった、誰にも教わっていない暗黙の前提を共有していることを報告しています。禁止されているから黙るのではなく、禁止されていると思い込んでいるから黙るという構図です。

この思い込みは、実際の組織の反応より厳しめに働きます。会議での沈黙は、その場では何も起きていないように見えて、後工程にコストを移しているだけということが起こります。

質問が果たす3つの機能

会議での質問は、分からないことを埋める行為だけではありません。実務では次の3つの機能を持ちます。

  1. 確認 — 参加者のあいだにある前提のずれを、決定の前に見つける
  2. 検証 — 決定が成り立たない条件を洗い出し、実行前に穴を埋める
  3. 貢献 — 議論に加わっているという事実を、場に示す
質問が果たす3つの機能 — 確認は前提のずれを見つける、検証は決定の穴を埋める、貢献は参加を示す、という3点を示す図
図|質問が果たす3つの機能

日本の会議で意識されにくいのは、3つ目です。質問は情報を得るための行為だと捉えられているため、すでに理解できている人には質問する理由がないことになります。国際的な場では、この3つ目が最も重く扱われます。

確認 — 前提のずれを早く見つける

会議で最も費用対効果が高い質問は、高度な指摘ではなく、前提の確認です。

「この『来期』は、4月からという理解でよいですか」「対象は既存顧客だけですか、新規も含みますか」。こうした問いは、聞く本人にとっては初歩的に感じられます。しかし、同じ言葉を全員が同じ意味で使っている保証はどこにもありません。ずれたまま決定すると、発見は実行段階まで遅れます。

前提のずれは、時間が経つほど修正費用が上がります。会議中なら一言で済んだ確認が、作業開始後には手戻りになり、対外的な発表後には訂正になります。確認の質問は、最も安い段階で誤りを見つける手段です。

聞きにくいときは、自分の理解を先に言葉にしてから確かめる形が使えます。「私は、この施策の対象を管理職層だと理解しました。この理解で合っていますか」。分からないと言うのではなく解釈を提示して照合する形にすると、質問というより確認作業として受け取られます。

検証 — 決定の穴を埋める

二つ目の機能は、決まりかけている案の弱い部分を、実行前に見つけることです。

検証の質問は、反対とは異なります。反対は「その案には賛成できません」と立場を示すものですが、検証は「その案が成り立つ条件は何ですか」と条件を確かめるものです。前者は対立を生みますが、後者は案を強くします。

実務で使える切り口は限られています。次の3つを覚えておくと、大半の議題に当てられます。

  • 前提 — この案は、何が起きることを前提にしているか。「想定している受注数はどのくらいですか」
  • 失敗条件 — どうなったら、この案は成立しないか。「人員が確保できなかった場合はどうしますか」
  • 担当と期限 — 誰が、いつまでに動くのか。「一次の判断は誰が行いますか」

3つ目は地味ですが、実行段階での停滞を最も防ぎます。会議で方針が決まったのに動き出さない案件の多くは、内容に問題があるのではなく、担当と期限が決まっていません。決定の場で誰も聞かなかったために、全員が誰かが動くと思ったまま散会しています。

貢献 — 質問は参加の証明である

三つ目の機能は、日本の会議で最も見落とされます。質問は、議論に加わっているという事実そのものを場に示します。

この点は、集団の成果とも結びついています。ウーリー氏らは、複数人のグループに多様な課題を解かせる実験を行い、グループの成績を説明する共通の因子があること、そしてその因子が、発言が特定の人に偏らず分散していることと関連していたことを報告しています。誰が話したかではなく、話す機会が偏っていないかが成果と結びついていたという結果です。全員が黙って一人だけが話す会議は、この条件から最も遠い形になります。

質問すると評価が下がるのではないか、という懸念も、研究の結果とは逆を向いています。ブルックス氏らは、助言を求める行為が相手からの能力評価を下げるどころか、むしろ有能だという印象を高めることを一連の実験で示しました。ホアン氏らは、会話のなかで質問を多くする人ほど相手から好意的に評価され、とくに相手の答えを受けて重ねる追加の質問がその効果を持つことを報告しています。

いずれも会議室そのものを対象とした研究ではありませんが、方向は一致しています。聞くことで評価が下がるという前提は、少なくとも一般的な傾向としては支持されていません。黙っていることのほうが印象の面で安全だとは言えません。

「いい質問」の作り方

質問の質は、才能ではなく準備で決まります。会議前に資料を読みながら疑問を1つか2つ書き出しておくだけで、その場で無理に考える必要がなくなります。

自分で問いを立てる作業には、理解を深める効果もあります。ローゼンシャイン氏らは、学習者自身に教材への質問を作らせる指導法の効果を検証した多数の研究を整理し、この訓練が読解の成績向上と結びついていたと報告しています。質問づくりは、答えを得るためだけの作業ではなく、内容を自分の側から捉え直す作業でもあります。

探す場所は決まっています。数字の根拠が示されていない箇所、「検討中」「調整中」と書かれた箇所、自分の担当領域に影響が及ぶ箇所。この3つのどれかに、たいてい聞くべきことが残っています。

避けたいのは、答えが「はい」で終わる質問と、その場で答えようがない質問です。「問題ないですか」は前者、「5年後の市場はどうなりますか」は後者にあたります。答えが具体的に返ってくる粒度まで、問いを絞り込むことが要点です。

質問しにくい場を進行側が変える

参加者側の努力だけでは限界があります。進行を担う側にできることも大きく、しかも手数は多くありません。

最も効くのは、質問の時間を最後にまとめないことです。「最後に質問を」という形にすると、質問は会議を延長する行為になります。説明を区切って「ここまでで確認しておきたい点はありますか」と挟むと、質問は進行の一部になります。

次に、最初の一人を用意しておくことです。沈黙が続いた場では、誰も最初に手を挙げたがりません。事前に一人へ「この点を聞いてほしい」と頼んでおくだけで、二人目以降が出やすくなります。

三つ目は、質問への反応です。出た質問に対して「いい指摘ですね」と返すか、「それは後で」と流すかで、次の質問が出るかどうかが決まります。とくに上位者の反応は場全体に伝わります。多国籍のチームでの進行については多国籍チームの会議をまとめる進行術でも扱っています。

攻撃と受け取られない聞き方

質問が対立に見えるかどうかは、内容より形で決まります。同じ論点でも、次のように置き換えるだけで受け取られ方が変わります。

攻撃に見える形検討に見える形
なぜコストを出していないのですかコストの見込みは、どの範囲まで出ていますか
その前提はおかしくないですかこの前提が変わった場合、結論は変わりますか
誰が責任を持つのですか一次判断は、どの部署が担う想定ですか

共通しているのは、人ではなく案に向け、不足を責めるのではなく現在地を尋ねている点です。「なぜ〜していないのか」という形は、事実を聞いているようで、相手の判断を問う形になっています。

もう一つ有効なのは、質問の意図を先に添えることです。「実行段階で止まらないように確認したいのですが」と一言置くと、問いの目的が共有されます。目的が見えない質問ほど、探りや批判として受け取られやすくなります。

明日から使える質問の型

会議前にメモの隅へ書き写しておける形にまとめます。

  • 前提の照合 — 「私は〜と理解しました。この理解で合っていますか」
  • 範囲の確認 — 「対象は〜まで、という理解でよいですか」
  • 根拠の確認 — 「その数字は、どの期間の実績ですか」
  • 条件の確認 — 「〜が成立しなかった場合は、どう進めますか」
  • 実行の確認 — 「次に動くのは誰で、期限はいつですか」

5つのうち、どの会議でも使えるのは最後の1つです。議題に詳しくなくても聞けて、決定が実行に移る確率に直接効きます。質問が苦手だという自覚があるなら、ここから始めるのが確実です。

まとめ

会議で質問しないことは、日本では配慮として選ばれますが、国際的な場では同意の証拠にはなりません。質問には、前提のずれを見つける確認、決定の穴を埋める検証、議論への参加を示す貢献という3つの機能があります。

聞くと評価が下がるという前提は、助言を求める行為や質問の多さを扱った研究の結果とは逆を向いています。難しい問いを用意する必要はありません。次の会議で「次に動くのは誰で、期限はいつですか」と一度尋ねるところから始められます。

参考文献・出典

本記事で触れた研究・一次情報は以下のとおりです。

  • Detert, J. R., & Edmondson, A. C. (2011). Implicit voice theories: Taken-for-granted rules of self-censorship at work. Academy of Management Journal, 54(3), 461-488. https://doi.org/10.5465/amj.2011.61967925
  • Woolley, A. W., Chabris, C. F., Pentland, A., Hashmi, N., & Malone, T. W. (2010). Evidence for a collective intelligence factor in the performance of human groups. Science, 330(6004), 686-688. https://doi.org/10.1126/science.1193147
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  • Huang, K., Yeomans, M., Brooks, A. W., Minson, J., & Gino, F. (2017). It doesn’t hurt to ask: Question-asking increases liking. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 430-452. https://doi.org/10.1037/pspi0000097
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