中身は同じなのに、反応が違った

社内で同じ提案を二度説明したことのある方なら、経験があるかもしれません。一度目は担当者が説明し、賛同は集まらなかった。二度目に役員が同じ資料で説明したら、その場で話が進んだ。資料は同じで、論点の順番もほぼ同じです。

この差を「話し方の違い」で片づけてしまうと、次に何を直せばいいのかがわかりません。実際には、聞き手は内容を評価する前に、その内容をどれだけ真に受けるかを話し手から決めているからです。

説得の研究では、この現象は「送り手の信頼性(source credibility)」という名前で1950年代から扱われてきました。経営者や管理職がいちばん日常的に直面している問題でもあります。

聞き手は、話を聞く前に話し手を評価している

古典的な実験があります。Hovland 氏と Weiss 氏は、まったく同じ文章を用意し、それを「信頼できる出典によるもの」として提示した場合と、「信頼できない出典によるもの」として提示した場合で、読んだ人の意見がどう変わるかを比べました。

結果は、読んだ直後の時点で差が出ました。信頼できないとされた出典の文章は、中身が同じであるにもかかわらず割り引いて受け取られていたのです。聞き手は文章を読む前にすでに「この情報源はどの程度真に受けるべきか」を決めており、その判断が内容の受け止め方に影響していました。

この差は、聞き手が不誠実だから起きるのではありません。人は自分で検証できない情報を大量に受け取っており、そのすべてを一から吟味することはできません。誰の言葉かという手がかりは、その中で使われている現実的な判断材料です。

印象が立ち上がる速さそのものについては、第一印象が0.1秒で決まる脳の仕組みで扱っています。この記事で扱うのは、その評価がそのあとに続く話の中身の受け取られ方まで変えてしまうという部分です。

受け取られ方を決める3つの要素

では、聞き手は話し手の何を見て「どれだけ真に受けるか」を決めているのでしょうか。Pornpitakpan 氏は、送り手の信頼性が説得に与える影響を50年分の実証研究からまとめています。そこでは、信頼性の高い送り手が低い送り手より説得力を持つという結果が全体として得られる一方、条件によっては信頼性の高さが不利に働く場合もあることが示されています。

実務で扱いやすい形に整理すると、聞き手が見ているのは次の3つです。

  1. 専門性 — その人が本当に知っていると思えるか
  2. 利害 — その人が得をしないと思えるか
  3. 近さ — 自分と同じ側にいると思えるか
同じ話の受け取られ方を決める3つの要素 — 専門性(本当に知っていると思えるか)、利害(その人が得をしないと思えるか)、近さ(自分と同じ側にいると思えるか)を並べた図
図|受け取られ方を決める3つの要素

この3つは独立ではなく、互いに補い合います。1つが弱くても他の2つが強ければ話は届きますし、3つとも弱ければ、内容がどれだけ正しくても検討の土台に乗りません。

専門性 — その人が本当に知っていると思えるか

専門性は肩書きのことではありません。聞き手が判断材料にしているのは、その話題について実際に手を動かした痕跡があるかです。

会議の場では、次のような差として現れます。

  • 数字の出どころを言えるか — 「調べたところ15%です」と「うちの3拠点で3か月とったら15%でした」は、同じ数字でも重みが違う
  • 例外を知っているか — うまくいかなかった条件を自分から挙げられる人は、その領域を触った人だと受け取られる
  • わからない範囲を言えるか — 「そこは未確認です」と線を引ける人のほうが、確認済みの部分の信頼が上がる

逆効果になりやすいのが、専門用語の量で専門性を示そうとすることです。聞き手が理解できない言葉が増えるほど、内容の検討はできなくなり、判断は話し手の印象だけに寄ります。

利害 — その人が得をしないと思えるか

聞き手は、話し手がその主張で何を得るのかを見ています。得をする立場の人が自分に有利な主張をしているとき、内容は割り引かれます。Hovland 氏らの実験で「信頼できない出典」とされた文章が割り引かれたのも、この線上にあります。

実務でこの要素を扱う方法は、立場を隠すことではなく、先に自分の立場を明かしてしまうことです。

  • 「この提案が通れば、私の部署の予算は増えます。そのうえで申し上げると」
  • 「私は導入を推している側なので、反対の材料も並べます」

不利な材料を自分から出すのは損に見えますが、聞き手からすると判断材料が揃います。都合のいいことだけを言う人より、扱いやすい相手になります。

とくに経営層が全社に向けて話す場面では、この点が効きます。良い見通しだけが繰り返されると、内容の正しさとは別のところで割り引かれていきます。一言目の設計については信頼される人の「一言目」は何が違うのかも参考になります。

近さ — 自分と同じ側にいると思えるか

3つ目は、話し手が自分たちの側の人だと感じられるかどうかです。

Mackie 氏らは、同じ主張を「自分と同じ集団の人の意見」として示す場合と「別の集団の人の意見」として示す場合を比べました。すると、同じ集団の人の意見として示されたときには、論拠が強い主張には説得され、論拠が弱い主張には説得されないという反応が見られました。一方、別の集団の人の意見として示されたときには、論拠が強くても弱くても同じように説得されず、内容を検討した形跡も乏しかったのです。

著者らは、集団の近さによる態度変化の背後には、送り手の手がかりだけでなくメッセージの処理量そのものの増加があると述べています。

これは実務的に重要な含意を持ちます。近さは「中身を良く見てもらえる効果」ではなく、中身を見てもらえるかどうかを決めているということです。遠いと思われた話し手は、良い論拠を持っていてもその論拠を検討してもらえません。逆に、近いと思われた話し手が弱い論拠を出せば、近いからこそ弱さが見抜かれます。近さは論拠の代わりにはなりません。

時間が経つと、誰が言ったかは薄れていく

もう一つ、実務に効く現象があります。Hovland 氏らの実験では、読んだ直後にあった出典による差が、時間が経つと縮んでいきました。内容と出典の結びつきが弱まり、最初の割り引きが薄れていったのです。

この現象は後に「スリーパー効果」と呼ばれ、Kumkale 氏と Albarracín 氏が多数の研究をまとめて検討しています。それによると、信頼性を下げる手がかりを受け取った人が時間とともにより説得されるようになるのは、メッセージの論拠とその手がかりが最初に強い影響を与えていた場合でした。また、この増加は、聞き手にメッセージを考えるだけの能力や動機があり、かつ信頼性を下げる手がかりをメッセージのあとに受け取った場合に、より大きくなっていました。

つまり、話し手の属性による差は永続するものではありません。ただし、これを「時間が解決する」と読むのは危険です。薄れるのは話し手の記憶であって、内容の記憶ではないからです。中身が弱ければ、薄れたあとに残るものがありません。

経営者が言うべきこと、現場が言うべきこと

3つの要素は、話し手によって強い部分が違います。同じ内容でも、誰が話すのが合理的かは変わります。

伝えたいこと向く話し手効く要素
方針の変更・優先順位の転換経営層利害(決定した当事者が説明する)
数字・実装の見通し担当者専門性(手を動かした人の具体)
現場での使い勝手・不便現場の担当近さ(同じ立場からの言葉)
不都合な事実・失敗の報告決定した側利害(損をする側が言うと通る)

とくに4つ目が実務では省かれがちです。悪い知らせを担当者に説明させると、聞き手は「決めた人が出てこない」という点を先に読み取ります。決定を下した側が自分で説明すると、利害の要素が働き、同じ内容が違う重さで届きます。

投資家という特定の聞き手が経営者の何を見ているかは世界の投資家が経営者を見る視点で扱っています。

肩書きに頼ると、何が起きるか

話し手の属性が効くとわかると、「では強い立場の人に言ってもらえばいい」と考えたくなります。ここに落とし穴があります。

Chaiken 氏の実験では、聞き手がその話題を自分に関わることだと感じているかどうかで、効くものが変わりました。あとでその話題について議論すると伝えられた聞き手は、論拠の数が多いほど意見を変え、話し手への好ましさには影響されませんでした。一方、別の話題を議論すると伝えられた聞き手は、話し手が好ましいときにより意見を変え、論拠の数には影響されませんでした。さらにこの研究では、内容によってもたらされた意見の変化のほうが、送り手によってもたらされた変化より持続しやすいことも示されています。

実務に引き直すと、次のようになります。

  • 聞き手が自分ごととして聞いている場面では、話し手の属性は思ったほど効かない。中身が問われる
  • 自分ごとになっていない場面では、話し手の属性が効く。ただしその効果は残りにくい

肩書きの強い人に話してもらうと、その場は通ります。しかし、通ったのが内容ではなく立場であれば、翌週には元に戻ります。声の高さと権威の印象の関係については「低い声=信頼」は本当かでも扱っていますが、属性に頼る設計は同じ限界を持ちます。

誰に話してもらうかの決め方

実際の場面では、次の順で決めると整理しやすくなります。

  1. 聞き手が誰かを先に決める — 同じ内容でも、経営会議と現場説明会では近い話し手が違う
  2. その聞き手が3つのうち何を重く見るかを考える — 数字の妥当性を疑っているなら専門性、押し付けを警戒しているなら利害、他人事だと思われているなら近さ
  3. 足りない要素を、話し手を替えずに補えないか考える — 専門性なら実測データを添える、利害なら立場を先に明かす、近さなら現場の言葉を引用する
  4. それでも足りなければ、話す人を分ける — 方針は経営層、根拠は担当者、というように区切る
  5. その場で通す必要があるのか、残す必要があるのかを確認する — 残したいなら、属性ではなく中身で通す設計にする

5つ目が判断の分かれ目です。属性で通した合意は、その場では速く、あとに残りにくい。中身で通した合意は、その場では時間がかかり、あとに残ります。どちらを選ぶかは場面によりますが、無自覚に前者を選び続けると、決まったはずのことが何度も蒸し返される状態になります。

まとめ

同じ内容が違う受け取られ方をするのは、聞き手が内容を評価する前に話し手を評価しているからです。見られているのは、専門性・利害・近さの3つでした。

そして、その差は時間とともに薄れます。薄れたあとに残るのは中身だけです。誰が言うかは、聞いてもらえるかどうかを決める。何を言うかは、残るかどうかを決める。この2つを分けて設計することが、話し手を選ぶときの出発点になります。

参考文献・出典

本記事で触れた研究の一次情報は以下のとおりです。