選択肢を増やすほど親切、とは限らない

営業の提案でも、社内の企画会議でも、「A案からE案まで用意しました」という資料はよく見かけます。出す側には理由があります。相手の好みが分からないので幅を持たせたい。一つに絞って外すのが怖い。案が多いほど、よく考えた提案に見える。

ところが受け取る側に回ると、5つの案を前にして「では持ち帰って検討します」と答えたくなることがあります。どれも悪くないが、どれが自分に合うのかを比べるのが重い。比べきれないまま決めると、後で「別の案のほうがよかったのでは」と気になる。

この感覚は、消費者行動の研究で選択肢過多(choice overload)と呼ばれてきた現象と重なります。ただし、この研究の歴史は「選択肢は少ないほどよい」という単純な話では終わっていません。以下では、最初に注目を集めた実験、それに対する反証、そして両者を整理した研究の順に見ていきます。

選びきれなくなる現象が観察された実験

Iyengar 氏と Lepper 氏は、野外と実験室で3つの研究を行いました。高級食料品店での試食販売のジャム、実験室でのチョコレート、そして大学の授業での任意の小論文課題です。

いずれの研究でも、選択肢を6つに限った条件と、24個または30個に広げた条件が比べられました。結果は、選択肢が6つのほうが、ジャムやチョコレートを実際に買う人、任意の課題に取り組む学生が多かったというものです。さらに、選択肢が限られていた参加者のほうが、選んだものへの満足度が高く、小論文の出来も良かったと報告されています。

著者らは、この結果を「選択肢は多いほど意欲を高める」という通念への反証として位置づけました。自分で選べることは人の意欲を高めるが、その選択肢の数が多すぎると、かえって意欲を下げることがある、という問題提起です。

ここで注意したいのは、比べられたのが「6つ」と「24〜30個」だという点です。この研究は6つが最適だと示したものではなく、大きく広げた品ぞろえが、小さな品ぞろえより不利に働く場面があることを示したものです。

提案の選択肢を設計する3つの視点 — 過多は多すぎると決めきれなくなることがある、条件は起きるかどうかが4つの条件で変わる、既定値はまず3案に絞り必要なら増やす、の3段構成を示す図
図|提案の選択肢を設計する3つの視点

ただし「常に減らせばよい」ではない

この実験は広く引用され、「選択肢は絞るべきだ」という助言の根拠として使われてきました。しかし後述する Scheibehenne 氏らのメタ分析がまとめているように、その後の研究では、選択肢過多が起きなかった研究や、選択肢が多いほうがかえって選びやすく満足も高かったという研究が報告されています。

つまり、選択肢過多は「起きることがある」現象であって、「必ず起きる」法則ではありません。ここを取り違えると、相手が十分な材料を求めている場面でも、提案をむやみに削ることになります。

2つのメタ分析が示した、食い違う結論

結果が割れている研究群を統合したのが、2つのメタ分析です。

Scheibehenne 氏らは、公刊・未公刊を合わせた50の実験、63の条件(参加者5,036人)を統合しました。その結果、選択肢過多の平均的な効果の大きさは、ほぼゼロでした。ただし研究ごとのばらつきは大きく、過多が起きるための前提になりそうな条件はいくつか見つかったものの、「これがそろえば確実に起きる」という条件は特定できなかったと報告しています。

これに対して Chernev 氏らは、先行研究から99の観測(参加者7,202人)を集め、別の角度から分析しました。後述する4つの条件を考慮に入れると、品ぞろえの大きさが選択肢過多を引き起こす効果は、全体としても有意だったとし、先のメタ分析とは逆の結論になったことを明記しています。

2つを並べると、読み方が見えてきます。条件を区別せずに平均すると効果は打ち消し合って見えにくくなり、条件を区別すると、起きやすい場面がはっきりする。「選択肢は少ないほどよい」も「選択肢過多は迷信だ」も、どちらも言い過ぎで、問うべきは「どの条件で起きるか」です。

選択肢過多が起きやすい4つの条件

Chernev 氏らが特定したのは、次の4つです。いずれも、その度合いが高いほど選択肢過多が起きやすくなると報告されています。

  • 選択肢の複雑さ — 各案の違いが分かりにくい、比べる項目が多い
  • 決定の難しさ — 限られた時間で決める、比べ方の手がかりが少ない
  • 好みの不確かさ — 相手自身が、何を重視したいのかをまだ決めていない
  • 手間を減らしたい目標 — 最良の案を探すより、早く・楽に決めたいと思っている

同じ研究では、選択肢過多の表れ方として、選んだものへの満足や自信の低下、後悔、決定の先送り、選び直したくなる気持ちの4つが、ほぼ同等の指標として扱えることも示されています。

提案の場に移すと、この4条件はかなり当てはまりやすいと考えられます。ここからは研究結果ではなく推論ですが、法人向けの提案は項目が多く、決裁までの時間は限られ、相手は自社の課題をまだ言葉にしきれていないことが少なくありません。「持ち帰って検討します」は、決定の先送りという形の選択肢過多である可能性があります。

実務での既定値 — まず3案に絞る理由

では何案がよいのか。研究は最適な数を示していません。そのうえで、実務の既定値として「まず3案」を勧めます。これは研究結果ではなく、上の4条件から逆算した運用上の目安です。

1案だけでは、相手は「受けるか断るか」の二択になり、比べて選ぶ余地がありません。4案以上になると、各案の違いを説明する時間が増え、選択肢の複雑さと決定の難しさが上がります。3案であれば、違いを一文ずつで言い切れる数に収まり、比べる軸も一つか二つで済みます。

大切なのは、3という数字を守ることではありません。相手が比べられる範囲に収まっているかを点検する出発点として、3を置くということです。

資料を作り終えたら、提出前に次の3点を確かめます。

  • 各案の違いを、一文で言えるか。言えない案は、別の案と統合できないか
  • 比べる軸(費用、期間、範囲など)が、3つ以内に収まっているか
  • 相手が、その場で決めずに持ち帰ったとしても、社内で説明できる形になっているか

3案の作り方 — 推奨・比較・下限

3案を「松竹梅」のように価格だけで並べると、違いは分かりやすくても、相手の課題とのつながりが見えません。役割の違う3案にするのが実務上の工夫です。

  • 推奨案 — 聞き取った課題に対して、提案する側が最もよいと考える案
  • 比較案 — 推奨案と重視する点が異なる案。たとえば導入の速さを優先する、範囲を広げる
  • 下限案 — 予算や時間が厳しい場合でも最低限これだけは、という案

たとえば管理職研修の提案なら、推奨案は「聞き取った課題である面談の質に絞った半日研修を2回」、比較案は「対象を全管理職に広げた1日研修」、下限案は「まず課長層だけに90分の講義」といった形になります。3案は価格の高低ではなく、深さを取るか、広さを取るか、まず試すかという違いで並びます。

こう作ると、各案の違いが「何を重視するか」の違いとして説明できます。相手は3つを細部まで比べる必要がなく、自分がどれを重視するかを決めれば案が決まります。これは、好みの不確かさを相手の頭の中で整理しやすくする工夫でもあります。

依頼の場面で相手に選べる形を示すことの意味は、依頼の言い方で扱っています。本稿で加えたいのは、選択肢の個数と中身の設計です。

「おすすめはどれか」を言うかどうか

3案を並べたあと、「どれがおすすめですか」と聞かれることがあります。ここで「お客様次第です」と返すと、相手は判断の手がかりを失います。

おすすめの提示そのものの効果を、今回挙げた研究は検証していません。ただ、4条件のうち決定の難しさと好みの不確かさに照らすと、推奨案とその理由を先に言うことは、相手が比べる手間を減らす一つの方法だと考えられます。

言い方は、理由と条件をセットにします。「御社の今の課題が導入の早さであれば、B案を勧めます。範囲を優先されるならA案です」。推奨を押しつけるのではなく、どの条件ならどれかを示すことで、相手は自分の条件に照らして選べます。結論と理由を先に置く説明の組み立ては、専門家の説明が信頼される条件でも扱っています。

選択肢を増やしてよい場面

選択肢を増やしてよい、むしろ増やしたほうがよい場面もあります。

Chernev 氏は2003年の研究で、選ぶ人が「理想の条件」をすでに明確に持っているかどうかに注目しました。4つの実験の結果、理想がはっきりしている人にとっては、大きな品ぞろえがかえって選択を容易にし、選んだものへの好みも強くなったと報告しています。一方、小さな品ぞろえでは、理想がはっきりしていることが逆に働き、好みが弱くなりました。

提案に移すと、次のように読めます。

  • 相手が仕様や条件を具体的に決めている場合は、条件に合う案を広く見せたほうが選びやすい
  • 相手が専門家で、比較の軸を自分で持っている場合は、絞り込みすぎないほうがよい
  • 相手がまだ課題を整理している段階なら、3案に絞り、推奨と理由を添える

つまり、何案を出すかは、相手が自分の好みをどこまで言葉にできているかで変わります。提案の前に聞き取りをするのは、課題を知るためだけでなく、何案を出すかを決めるためでもあります。

聞き取りでは、たとえば「今回、いちばん譲れない条件は何ですか」「逆に、ここは柔軟でよいという点はありますか」と尋ねます。すぐに具体的な答えが返ってくる相手は条件が固まっており、答えに迷う相手はまだ整理の途中だと判断できます。前者には幅を持たせた案を、後者には絞った3案と推奨を用意する、という使い分けです。

まとめ

選択肢を増やすことは親切に見えますが、選択肢過多の研究は、多すぎる選択肢が選ぶこと自体を先送りさせ、満足を下げる場面があることを示してきました。ただし、その効果は研究によって割れており、2つのメタ分析の結論も食い違っています。確かなのは、選択肢の複雑さ、決定の難しさ、好みの不確かさ、手間を減らしたい目標がそろうほど、過多が起きやすくなるということです。

提案の場では、まず3案を既定値にし、推奨案とその理由を添える。相手の条件がはっきりしているなら、案を増やす。選択肢の数は、相手がどこまで比べられるかに合わせて決めるものです。

参考文献・出典

  • Chernev, A. (2003). When more is less and less is more: The role of ideal point availability and assortment in consumer choice. Journal of Consumer Research, 30(2), 170-183. https://doi.org/10.1086/376808
  • Chernev, A., Böckenholt, U., & Goodman, J. (2015). Choice overload: A conceptual review and meta-analysis. Journal of Consumer Psychology, 25(2), 333-358. https://doi.org/10.1016/j.jcps.2014.08.002
  • Iyengar, S. S., & Lepper, M. R. (2000). When choice is demotivating: Can one desire too much of a good thing? Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995-1006. https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.6.995
  • Scheibehenne, B., Greifeneder, R., & Todd, P. M. (2010). Can there ever be too many options? A meta-analytic review of choice overload. Journal of Consumer Research, 37(3), 409-425. https://doi.org/10.1086/651235