「話しすぎた」「退屈させた」と反省する帰り道
取引先との初めての打ち合わせを終え、駅へ向かう道で会話を思い返す。あの冗談は滑っていた。質問の順番がまずかった。自分の話が長すぎた。こうした反省が次々に浮かび、「次はもう会ってもらえないかもしれない」とまで考えてしまう。
反省そのものは悪いことではありません。改善点を見つけることは、次の会話を良くする材料になります。問題は、その反省が相手の実際の評価とずれている場合です。相手が楽しんでいたのに、自分だけが「失敗した」と思い込んでいれば、次の連絡をためらい、せっかくの関係を自分から細らせてしまいます。
雑談の始め方や話題の選び方は、雑談を設計する方法の記事で扱いました。本稿の関心はその後、会話を終えたあと、人は相手からの評価をどのくらい正しく見積もれているのかにあります。
好意のギャップ — 相手の好意を低く見積もる
Boothby 氏らは、初対面の二人に会話をしてもらい、終わったあとにそれぞれへ「相手をどのくらい好きになったか」と「相手は自分をどのくらい好きになったと思うか」を尋ねました。
結果は一貫していました。人は、会話の相手が自分をどのくらい好きになり、会話をどのくらい楽しんだかを、系統的に低く見積もっていたのです。研究者たちはこのずれを「好意のギャップ(liking gap)」と名づけました。
このずれは、実験室で知り合った学生どうしだけでなく、大学1年生の寮の同室者や、英国で自己啓発のワークショップに参加した一般の人どうしでも観察されました。学生に限った現象ではありません。
また、最初の実験では、内気な人ほどギャップが大きいという傾向も報告されています。一方で、自尊心の高さなどは、ギャップの大きさと関係していませんでした。
初対面だけでなく、数か月続いた
「短い会話だから相手の気持ちが分からないだけで、長く話せば正確になるのでは」と考えたくなります。しかし、研究はそうなっていません。
会話の長さを参加者に任せた実験では、会話は2分から45分までばらつきましたが、どの長さでも好意のギャップは見られました。相手が会話を楽しんだ度合いについても、同じように低く見積もっていました。
さらに、寮の同室者を1年間追った調査では、関係が深まっていく途中でも、ギャップは数か月にわたって続いていました。ただし、最後の時点ではギャップは消えています。研究者たちは、十分に知り合ったためか、翌年も同室にするかを話し合う中で好意が伝わったためではないか、と推測しています。
つまり、時間をかければ自然に解消するとは限らず、好意が言葉で伝わる機会があるかどうかが関わっている可能性があります。
なぜ低く見積もるのか
まず確かめられたのは、「相手が好意を表に出していないから分からない」わけではない、という点です。録画した会話を、仮説を知らない第三者が見て評価したところ、第三者は会話の当事者が実際にどのくらい相手を好きになったかを予測できました。好意の手がかりは、会話の中に表れていたのです。
それなのに、当事者の見積もりは、その手がかりと対応していませんでした。別の実験では、会話のあとに浮かんだ考えを書き出してもらうと、自分の話しぶりについての考えは、相手の話しぶりについての考えより否定的で、その否定的な考えがギャップと関係していました。相手が示していた手がかりよりも、自分の頭の中の反省のほうに注意が向いていたと考えられます。
研究者たちは、考えられる理由として次の三つを挙げています。
- 改善のために失敗を思い出す — 話し手は次に生かそうとして、話の運びや言い回しの粗を探す。聞き手には、相手の話を改善する動機がない
- 自分にだけ「理想の出来」が見えている — 前回はもっとうまく話せた、あの話を入れ忘れた、と比べられるのは本人だけ。聞き手はむしろ、初対面の会話にそれほど高い期待を持っていない
- 緊張が表に出ていると思い込む — 頭の中では言葉に詰まっていても、相手が見ているのは表に出た振る舞いのほう
いずれも、話し手の側にしか見えない情報で自分を採点しているという点で共通しています。
知らない人と話すのを避ける理由と、実際
会話のあとの見積もりだけでなく、会話の前の予測にも同じ方向のずれがあります。
Epley 氏と Schroeder 氏は、通勤電車やバスの乗客に、近くの見知らぬ人に話しかけるよう指示しました。話しかけた人は、黙っていた人より肯定的な経験を報告しました。ところが、別の参加者に予想を尋ねると、正反対、つまり一人で過ごすほうが快適だと予想していました。この誤った予想の一因は、相手がつながりに関心を持っている度合いを低く見積もることだと報告されています。そして、その見積もりが話しかけること自体を妨げるため、実際の会話がどうなるかを学ぶ機会も失われていました。
待合室での実験では、話しかけられた側の人も、話しかけるよう指示された側と同じくらい肯定的な経験を報告しています。話しかけられた側にとっても、会話は悪い経験ではなかったことになります。
Sandstrom 氏と Boothby 氏は、7つの研究(計2,304人)を統合し、会話の前に抱く不安と会話後の実際の経験を比べました。調べたのは、会話を楽しめない、相手に好かれない、うまく話せないといった不安です。その結果、会話前の不安は、実際の経験よりも大きかったと報告しています。
ただし、これは不安に根拠がまったくないという意味ではありません。示されたのは、平均すると予想より会話はうまくいくということです。
反省会の材料を変える
ここまでの研究から言えるのは、反省をやめることではなく、反省に使う材料を変えることです。自分の頭の中の採点だけでなく、相手が会話の中で示した反応を材料に加えます。整理すると、次の三つになります。
- 見積もりのずれを知る — 会話のあとの「失敗した」という感覚は、相手の評価より厳しい方向にずれやすいと前提に置く
- 相手の手がかりを拾う — 相手が質問してきたか、話を広げたか、笑ったか、次の話題を自分から出したかを思い出す
- 次の一言で確かめる — 推測で終わらせず、お礼や次の連絡の中で相手の受け止めを確かめる
二つ目の手がかりは、第三者が録画から好意を読み取れたという結果に対応しています。反省会の最初に、相手が示した反応を三つ書き出すだけでも、自分の言い間違いばかりを数える振り返りから抜け出しやすくなります。
商談後・懇親会後のフォローに生かす
好意のギャップが実務で最も損をするのは、フォローの連絡をためらう場面です。「あまり手応えがなかったから」と連絡を控えると、相手が会話を楽しんでいた場合でも、関係はそこで止まります。
以下は、研究の結果を営業や懇親の場面に当てはめた提案です。
- 翌日までに一言を送る — 手応えの感覚で送るかどうかを決めない
- 会話の中身に触れる — 「◯◯のお話が印象に残りました」と、相手が話したことを一つ挙げる
- 次の約束を小さく置く — 資料の送付や短い情報交換など、相手が受けやすい次の一歩にする
例えば、「昨日は◯◯の件で詳しく教えていただき、ありがとうございました。お話にあった資料をお送りします」という短い一文で十分です。相手の返信の温度が、反省会では得られない材料になります。
寮の調査でギャップが消えたのは、好意が話し合いで伝わった可能性がある時点でした。手応えを推測し続けるより、相手が反応を返せる機会を自分から作るほうが、見積もりのずれは早く埋まると考えられます。営業での雑談の組み立ては、営業の雑談を関係づくりにつなげる方法の記事も参考になります。
部下との面談でも起きうるか
ここで扱った研究は、初対面の人どうしや、寮の同室者など、立場が対等な関係を対象にしています。職場の上下関係で好意のギャップが確かめられたわけではありません。以下は推論です。
上司と部下の1on1でも、終わったあとに「部下は退屈していたのでは」「話が説教くさかった」と反省する管理職は多いはずです。逆に、部下の側も「うまく話せなかった」と感じている可能性があります。双方が自分の出来だけを厳しく採点し、相手の評価を低く見積もっているなら、面談は実際より「うまくいかなかったもの」として記憶されます。
対策の考え方は同じです。面談の最後に「今日の話で役に立った点はありましたか」と一つ尋ねる、次の面談で前回の話題に触れる、といった形で、相手の受け止めを言葉で返してもらう機会を作ります。
振り返りでは、部下が自分から質問したか、話の途中で具体例を足してきたか、次の相談を持ちかけてきたかを確かめます。こうした反応があったなら、上司が感じた「うまくいかなかった」という印象よりも、面談は部下にとって意味のある時間だった可能性があります。上司の側から「今日の話は助かった」と伝えることも、部下の見積もりのずれを小さくする一言になりえます。
一人反省を減らす習慣
会話のあとの反省を、ずれにくい形に変えるための習慣を挙げます。
- 反省は「相手の反応」から書き始める — 自分の失敗の前に、相手の質問・笑い・頷きを書く
- 改善点は一つに絞る — 次に試すことを一つ決めたら、それ以上は思い返さない
- 「失敗した」と感じたら、連絡の判断を翌日に回す — 直後の感覚で関係を切らない
- 同席者に聞く — 同僚が同席していたなら、相手の様子を第三者の目で教えてもらう
- 相手の側でも同じずれが起きていると考える — 相手も「退屈させたかも」と思っているなら、こちらから好意を言葉で返すことに意味がある
最後の習慣は、第三者が好意の手がかりを読み取れたという研究の結果を、そのまま実務に移したものです。
まとめ
研究からは、人は会話のあと、相手からの好意と楽しさを系統的に低く見積もること、そのずれは会話の長さを問わず、数か月続く場合もあることが見えてきます。好意の手がかりは会話の中に表れているのに、当事者は自分の頭の中の厳しい採点のほうに注意を向けていました。
対策の中心は、見積もりのずれを知り、相手の手がかりを拾い、次の一言で確かめることです。会話の出来を決めるのは自分の反省ではなく相手の受け止めだと考えると、フォローの一言をためらう理由は小さくなります。
参考文献・出典
- Boothby, E. J., Cooney, G., Sandstrom, G. M., & Clark, M. S. (2018). The liking gap in conversations: Do people like us more than we think? Psychological Science, 29(11), 1742-1756. https://doi.org/10.1177/0956797618783714
- Epley, N., & Schroeder, J. (2014). Mistakenly seeking solitude. Journal of Experimental Psychology: General, 143(5), 1980-1999. https://doi.org/10.1037/a0037323
- Sandstrom, G. M., & Boothby, E. J. (2021). Why do people avoid talking to strangers? A mini meta-analysis of predicted fears and actual experiences talking to a stranger. Self and Identity, 20(1), 47-71. https://doi.org/10.1080/15298868.2020.1816568