管理職や経営幹部に、1対1でコーチをつける。企業の人材育成では、こうした方法が広く使われています。Theeboom 氏らは2014年のメタ分析の冒頭で、コーチングはマネジメントの手段として非常に広く使われている一方で、その効果を確かめる研究は追いついていないと指摘しました。

本記事では、職場のコーチングを扱ったメタ分析3本と、経営幹部を対象にした無作為化比較試験1本を紹介します。先にお断りすると、日本の職場への当てはめは本稿の推論です。

研修のあと、行動は続いているか

管理職研修では、部下との面談の進め方や、仕事の任せ方を学びます。ところが、研修の場で納得したことが、職場に戻ってからも続くとは限りません。研修で学んだことを現場の行動につなげる仕組みは、研修を「やりっぱなし」にしない仕組みで扱いました。

コーチングは、この「研修のあと」に入り込む方法の一つと考えられます。集団で同じ内容を学ぶ研修と違い、一人の管理職が自分の職場で抱えている課題を題材にして、一定の期間をかけて取り組むからです。

日本の職場で「コーチング」というと、上司が部下に使う問いかけの技法を思い浮かべる人も多いかもしれません。本稿で扱うのは、それとは別の、コーチを務める人が1対1で本人に付く関係です。後で紹介する Jones 氏らのメタ分析も、上司と部下、同僚どうしのコーチングを分析の対象から外しています。

コーチングとは — 1対1で本人の目標に取り組む関係

Sonesh 氏らは2015年のメタ分析で、コーチングを次のように定義しています。コーチとコーチを受ける人が1対1の関係で協力し、組織にとっても、仕事のうえでも、本人にとっても有益な成長の目標を見つけ、達成していくことです。

この定義には二つの要素があります。一つは1対1の関係であること、もう一つは目標を本人と一緒に見つけることです。研修では学ぶ内容があらかじめ決まっていることが多いのに対し、コーチングは、本人が何に取り組むのかを決めるところから始まります。

コーチングが行動を変える3段階 — 本人が取り組みたい目標を言葉にする目標(GOAL)、1対1の対話で次の一歩を決める対話(SESSION)、職場での行動が変わったかを確かめる行動の変化(CHANGE)を示す図
図|コーチングが行動を変える3段階

図は、この定義と後で紹介する研究をもとに、コーチングの流れを本稿が3段階に整理したものです。研究が定めた手順ではありません。ただ、3段階目の「行動の変化」を確かめる段階を置いたのには理由があります。後で紹介するように、コーチングの効果は態度より行動の変化に強く表れていたからです。

メタ分析が示した効果 — 最も大きかったのは目標への自己調整

Theeboom 氏らは、組織の中で行われたコーチングの研究を集め、個人に表れる成果を次の5つの領域に分けて効果を調べました。

  • 成績・技能
  • 幸福感
  • 対処 — ストレスや困難への向き合い方
  • 仕事への態度
  • 目標に向けた自己調整

結果は、5つの領域すべてで有意な正の効果でした。効果の大きさを示す値(g)は、対処の0.43から、目標に向けた自己調整の0.74までの幅がありました。値が大きいほど、コーチングを受けた人とそうでない人の差が大きいことを示します。

最も効果が大きかった「目標に向けた自己調整」は、自分で目標を定め、進み具合を確かめ、やり方を直していく働きを指します。管理職の仕事に置き換えるなら、上から指示を待たずに、自分で課題を立てて進められるかどうかに関わる力です。

ただし、5つの領域すべてで効果があったことは、業績が必ず上がることを意味しません。ここで測られているのは個人に表れる成果で、成績・技能はその一つの領域です。著者らは、結果を総合して、コーチングは組織において全体として有効な介入だと述べています。

社内のコーチと社外のコーチ、どちらが効いたか

Jones 氏らは2016年、社内または社外のコーチによる職場のコーチングに絞って、17件の研究を統合しました。

組織にとっての成果全体への効果(δ)は0.36でした。成果の種類別に見ると、技能に関する成果が0.28、感情面の成果が0.51、個人の業績などの結果が1.24です。

著者らはさらに、コーチングの実施条件によって効果が変わるかを調べ、次の二つの条件で差を見いだしました。

  • コーチの種類 — 社外のコーチより、社内のコーチのほうが効果が大きかった
  • 多面評価(360度フィードバック)の併用 — 併用すると、効果は小さくなった

この結果からは、社外のコーチが最善だとはいえません。

社内のコーチのほうが効いた理由について、要約は説明していません。社内のコーチは組織の事情や仕事の文脈を知っている、というのは本稿の推測にとどまります。統合された研究が17件と多くはない点も、割り引いて読む必要があります。

対面でもオンライン併用でも、効果は変わらなかった

Jones 氏らは、コーチングの形式と期間についても調べています。

対面だけのコーチングと、対面とオンラインのコーチングを組み合わせたものとで、効果に差はありませんでした。セッションの回数や、取り組みの期間による差も見られませんでした。

拠点が分かれている企業や、移動の多い経営幹部にとっては、オンラインを組み合わせる方法を検討しやすい結果です。ただし、比べられたのは「対面のみ」と「対面とオンラインの併用」で、オンラインだけのコーチングを比べたものではありません。

回数については、別のメタ分析では違う結果も出ています。Sonesh 氏らの分析では、セッションの回数が効果を左右する要因の一つとして挙がりました。ただ、回数が多いほど効くのか、少ないほうがよいのか、その方向は要約からは分かりません。

幹部41人の無作為化比較試験 — 10週間で4回

Grant 氏らは2009年、公的な保健機関で働く幹部41人を対象に、無作為化比較試験を行いました。プログラムは次の三つで構成されていました。

  • 360度フィードバック
  • 半日のリーダーシップ・ワークショップ
  • 10週間で4回の個別コーチング

コーチングは、認知行動的で解決志向の手法で行われました。著者らは、組織の外のプロのエグゼクティブ・コーチがコーチングを担った無作為化比較試験として、初めて発表されたものだと説明しています。

結果は、対照群と比べて、目標の達成度が高まり、レジリエンスと職場での幸福感が高まり、抑うつとストレスが下がりました。参加者の自由回答では、自信や自分への理解が深まった、管理の技能が身についた、組織の変化に対処しやすくなった、という声が寄せられました。著者らは、短期間のコーチングでも効果がありうると結論づけています。

ただし、対象は公的機関の幹部41人です。民間企業で同じ結果になるとは限りません。また、結果は三つを組み合わせたプログラムに対するもので、要約からは、どの要素がどれだけ効いたのかまでは分かりません。

関係づくりの成果と、行動の変化

Sonesh 氏らは、コーチングの成果を二つに分けて効果を比べました。

  1. 関係の成果 — コーチとコーチを受ける人との関係に表れる成果
  2. 目標達成の成果 — コーチを受ける人が目標に近づいたかどうか

結果は、目標達成より、関係の成果に強い効果がありました。さらに目標達成の成果の中では、態度の変化より、行動の変化に最も強い効果が出ていました。また、対象者の種類、研究デザイン、コーチの経歴、セッションの回数が、効果を左右する要因として挙がっています。

この結果から、本稿は導入の評価について二つのことを考えます。一つは、受けた人の満足度だけで効果を判断しないことです。関係の成果が大きく出やすい以上、「よい時間だった」という感想は、目標に近づいたこととは別に数える必要があります。もう一つは、意識が変わったかより、職場での行動が変わったかで確かめることです。研究で効果が最も強く出ていたのは、そちらでした。

1on1・メンター・コーチの役割の違い

管理職の成長を支える1対1の関係には、コーチのほかにも上司との1on1やメンターがあります。本稿では、三つを次のように区別します。

  • 上司との1on1 — 上司と部下が、仕事の進み具合や成長について定期的に話す場。話し相手は、部下を評価する立場の人でもある
  • メンター — 経験を積んだ先輩が、自分の経験をもとに助言し、キャリアを支える関係
  • コーチ — コーチを務める人が、本人の目標への取り組みを、1対1の対話で支える関係

違いを一言でいえば、誰の経験を手がかりに話を進めるかです。1on1では上司の判断が、メンターとの対話では先輩の経験が、話の手がかりになります。コーチングでは、本人が立てた目標と本人の職場での経験が中心に置かれます。

三つは、どれか一つを選ぶものではありません。上司との1on1で何を話すかは世界標準の1on1は何を話しているのかで、対話を軸にした育成の考え方はリーダー育成で「対話」が中心になる理由で扱いました。コーチングは、上司には話しにくいことや、上司の経験では答えの出ないことを扱う場として、これらに重ねて使えます。

コーチングを導入する前に決めること

ここからは、紹介した研究をもとに本稿が考えた点検項目です。研究そのものが示した手順ではありません。

  1. 組織として何を変えたいのかを決める — 目標は本人と一緒に見つけるものだが、なぜ会社として導入するのかは先に言葉にしておく
  2. 社内か社外かを決めつけない — Jones 氏らの分析では社内のコーチのほうが効果が大きかった。社外への依頼を前提にせず、社内でコーチを育てる選択肢も比べる
  3. 多面評価と組み合わせるかを考える — 併用すると効果が小さくなったという結果がある。組み合わせる場合は、その目的をはっきりさせる
  4. 何で効果を測るかを決める — 満足度だけでなく、職場での行動の変化を、始める前と後で確かめる
  5. 形式は柔軟に選ぶ — 対面とオンラインの併用でも、効果に差は見られなかった

Grant 氏らも、コーチングの成果をどう測るかについて提言をしています。始める前に測り方を決めておかなければ、終わったあとに効果を確かめることはできません。

まとめ

職場のコーチングは、メタ分析で個人の成果の5つの領域すべてに正の効果が確認され、最も大きかったのは目標に向けた自己調整でした。社内のコーチのほうが効果が大きく、多面評価の併用は効果を小さくしたという結果もあり、「社外の専門家に任せれば効く」とはいえません。

効果は関係の成果に強く、目標達成の中では行動の変化に最も強く表れていました。導入するなら、何を変えたいのかと、何で効果を測るのかを先に決め、上司との1on1やメンターと役割を分けて使うことが出発点になります。

参考文献・出典

  • Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1-18. https://doi.org/10.1080/17439760.2013.837499
  • Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. F. (2016). The effectiveness of workplace coaching: A meta-analysis of learning and performance outcomes from coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 89(2), 249-277. https://doi.org/10.1111/joop.12119
  • Grant, A. M., Curtayne, L., & Burton, G. (2009). Executive coaching enhances goal attainment, resilience and workplace well-being: A randomised controlled study. The Journal of Positive Psychology, 4(5), 396-407. https://doi.org/10.1080/17439760902992456
  • Sonesh, S. C., Coultas, C. W., Lacerenza, C. N., Marlow, S. L., Benishek, L. E., & Salas, E. (2015). The power of coaching: A meta-analytic investigation. Coaching: An International Journal of Theory, Research and Practice, 8(2), 73-95. https://doi.org/10.1080/17521882.2015.1071418