「えー」を数えられる研修
社内のプレゼン研修で、講師や同僚が話し手の「えー」「あのー」を正の字で数える。終わったあとに「12回ありました」と告げられ、次はゼロを目指しましょうと言われる。こうした指導は、話し方の研修では珍しくありません。
数えるのは簡単で、改善も目に見えます。けれども、ゼロを目指して意識するほど、言葉が詰まったり、不自然に早口になったりする人もいます。手の動きを意識的に付け足すとかえって不自然になる問題は、手の動きは足さず止めないの記事で扱いました。言いよどみにも、似た構図があります。
そもそも「えー」は、聞き手にとって邪魔なだけの音なのでしょうか。研究は、もう少し違う姿を示しています。言いよどみは、話し手の頭の中で起きていることを聞き手に知らせる信号にもなっているというものです。
なお、ここで紹介する研究は、主に英語の「uh」「um」(一部はオランダ語)を対象にしたものです。日本語の「えー」「あのー」に同じことが当てはまると確かめた研究ではありません。本稿で日本語の場面に当てはめる部分は、推論として読んでください。
言いよどみは、どんなときに増えるのか
Bortfeld 氏らは、二人一組で課題に取り組む会話を集めたデータを使い、言いよどみの起こり方を分析しました。調べた要因は、話し手の年齢、課題での役割、話題の難しさ、二人の関係(夫婦か初対面か)、性別です。
課題では、一方が図や写真を説明する「指示役」になり、もう一方がそれを聞いて同じものを選ぶ「選択役」になりました。説明する対象は、抽象的な幾何学図形か、子どもの写真のどちらかです。
結果は次のとおりでした。
- 年齢の影響は小さい — 高齢の話し手は、若年・中年の話し手より言いよどみがわずかに多い程度だった
- 説明する側に回ると増える — 指示役として話すときのほうが、言いよどみの割合が高かった
- 説明しにくい対象で増える — 抽象的な図形について話すときのほうが、写真について話すときより高かった
研究者たちは、これらの結果を、言いよどみが話す内容を組み立てる難しさと結びついていることを裏づけるものだと解釈しています。言いよどみは性格や癖だけで決まるのではなく、その場で何を、どれだけ考えながら話しているかに左右されるということです。
聞き手は「えー」から何を読み取るのか
話し手は、なぜ「えー」と言うのでしょうか。Clark 氏と Fox Tree 氏は、大規模な自発話のデータを分析し、ひとつの見方を示しました。話し手は uh を小さな遅れ、um を大きな遅れの予告として使っているというものです。
この見方では、話し手は自分の話す計画を見張りながら話しており、言葉が出てくるまでに間が空きそうだと気づいたとき、その遅れを知らせるために uh や um を発します。この予告を通じて、話し手は次のようなことを伝えられると論じています。
- 言葉を探している
- 次に何を言うか決めているところだ
- まだ話し続けるので、発言の番を渡さない
- ここで発言の番を譲ってもよい
Clark 氏らは、uh と um は単なる雑音ではなく、話し手が計画して発する英語の「語」だと論じています。
では、聞き手はこの予告を実際に使っているのでしょうか。Fox Tree 氏は、英語とオランダ語の二つの研究で、言いよどみが聞き手の言葉の聞き取りに与える影響を調べました。その結果、uh を聞くと、続く言葉を認識するのが速くなった一方、um には良い効果も悪い効果もありませんでした。Fox Tree 氏は、uh は短い遅れの、um は長い遅れの合図だという考えを支持する結果だと述べています。
ここで大切なのは、すべての言いよどみが聞き取りを助けたわけではない、という点です。uh には効果があり、um にはなかった。言いよどみの働きは種類によって違い、「全部よい」とも「全部悪い」とも言えないことが分かります。
次に新しい話が来ることを予告する働き
言いよどみは、遅れだけでなく、次に来る話の中身についての手がかりにもなっています。Arnold 氏らは、聞き手の視線の動きを測る方法でこれを確かめました。
実験では、画面に複数の物が表示され、聞き手は話し手の指示を聞きながら、その中の物を見ます。指示の中で冠詞を「the」となめらかに言う場合と、「thee, uh」と言いよどむ場合を比べました。
すると、なめらかな冠詞のあとでは、聞き手はすでに話題に出ていた物に目を向けやすく、言いよどんだ冠詞のあとでは、まだ話題に出ていない物に目を向けやすいことが分かりました。この偏りは、続く名詞の音が聞こえ始めるのとほぼ同時に現れており、研究者たちは、言いよどみが言葉を読み解く基本的な処理に影響していると述べています。
つまり聞き手は、言いよどみを「次は新しい話かもしれない」という手がかりとして使っていたことになります。ただし、この実験が示したのは、どの物に注意を向けるかが変わったことです。言いよどみがあるほど理解が深まる、という結果ではありません。
減らすべき「えー」と、気にしなくてよい「えー」
研究を踏まえると、「えー」を一律に数えて減らす指導には見直す余地があります。以下は研究から導いた実務上の整理で、日本語の場面への当てはめは推論です。
- 気にしなくてよい「えー」 — 質問に答える前、言葉を選び直すとき、新しい話題に移る直前に、ときどき出るもの。考えている途中であることを相手に知らせる働きを持ちうる
- 見直したい「えー」 — ほぼ毎文の頭に付く、文の切れ目ごとに必ず入るなど、考える必要のない箇所でも出るもの。予告としての意味が薄れ、聞き手には話の区切りが見えにくくなる
言いよどみや沈黙が、誠実に考えている印象につながる場面については、AI時代に人が話す価値の記事でも触れました。本稿の関心は、言いよどみが聞き手の理解の処理にどう関わるかにあります。
頻発するときの原因は準備にある
Bortfeld 氏らの研究では、説明する役に回ったときや、説明しにくい対象を扱うときに言いよどみが増えていました。これを登壇や会議の場面に当てはめると、「えー」が多いときに直すべきは口の動きではなく、何をどの順で話すかの準備だと考えられます。
頻発するときは、次の点を見直します。
- 話の順番が決まっているか — 結論、理由、具体例の順など、各段落の役割を事前に決めておく
- 話題の切り替え目に言葉を用意しているか — 「次に、費用の話です」のように、つなぎの一文を準備しておく
- 抽象的な話を、具体例なしで続けていないか — 説明しにくい内容ほど言いよどみが増えやすいので、数字や事例を一つ添える
研究が示したのは課題会話での関係で、登壇の準備を変えれば言いよどみが減ると実験で確かめたものではありません。それでも、「えー」は、組み立てが追いついていない箇所を教えてくれる目印として使えます。
「えー」の代わりに間を置く
話題の区切りで毎回「えー」が入る人には、その箇所を声を出さない間に置き換える練習が役立ちます。話の区切りで黙ることは、聞き手が直前の内容を整理し、次に備える時間になります。間がもたらす効果と適切な長さは、話の「間」の力の記事で詳しく解説しています。
練習の手順は次のとおりです。
- 話の区切りで「えー」と言いそうになったら、口を閉じて一呼吸置く
- その間に、次の一文の最初の言葉だけを頭の中で決める
- 決まったら、聞き手の方を見て話し始める
ただし、文の途中で言葉を探しているときの言いよどみまで無理に黙りで置き換える必要はありません。Fox Tree 氏の研究では、uh を聞いたあと、聞き手は続く言葉を速く認識できていました。文の途中の短い言いよどみにも、同じような働きがあるかもしれません(日本語での確認はなく、推論です)。置き換えの対象は、区切りごとに習慣で出る「えー」に絞ります。
オンラインで目立ちやすい理由
オンライン会議では、対面より「えー」が気になると感じる人がいます。ここからは研究で確かめられたことではなく、推論です。
対面では、話し手が言葉を探している様子は、視線や表情、手の動きからも伝わります。画面越しでは、そうした手がかりが小さく、遅れて届きます。そのため聞き手は、話し手の状態を声の情報により多く頼ることになり、言いよどみの音が相対的に目立つと考えられます。また、話し手側も相手の反応が見えにくく、発言の番を保とうとして「えー」で間をつなぎがちです。
オンラインでは、話し始める前に要点を一行メモにしておく、区切りで黙っても通信が途切れたと思われないよう「ここまでで一点目です」と言葉で区切りを示す、といった工夫が考えられます。オンライン会議の話し方全般は、オンライン会議の話し方の記事も参考にしてください。
録音で自分の癖を知る
自分の言いよどみは、話している最中にはほとんど気づけません。現状を知るには、録音して聞き返すのが確実です。そのとき、回数を数えるだけでなく、どこで出ているかに注目します。
- 質問への答えの冒頭か、話題の切り替え目か、文の途中か
- 毎文の頭に付いているか、ときどきか
- 同じ箇所で繰り返し出ているか
出る場所が分かれば、対処も変わります。話題の切り替え目に集中しているなら、つなぎの一文を準備する。答えの冒頭に多いなら、「一点だけ確認させてください」のような言葉を用意する。文の途中で言葉を探しているなら、その話題の用語を事前に整理する。数を減らすことより、出る場所を知ることが先です。
録音した自分の声に違和感があって聞き返すのがつらい場合は、録音した自分の声が変に聞こえる理由の記事を読んでから試すと、抵抗が和らぐかもしれません。
まとめ
英語の研究からは、言いよどみが話す内容を組み立てる難しさと結びついていること、話し手が uh と um を遅れの予告として使っていること、聞き手がそれを続く言葉の聞き取りや注意の向け先の手がかりにしていることが分かります。ただし効果は種類によって違い、言いよどみが多いほど理解が深まるわけではありません。
日本語の「えー」にそのまま当てはまるかは確かめられていません。それでも、「えー」を数えてゼロを目指すより、どこで出ているかを知り、準備と間で整えるほうが、聞き手にとって分かりやすい話し方に近づく方法だと考えられます。
参考文献・出典
- Arnold, J. E., Tanenhaus, M. K., Altmann, R. J., & Fagnano, M. (2004). The old and thee, uh, new: Disfluency and reference resolution. Psychological Science, 15(9), 578-582. https://doi.org/10.1111/j.0956-7976.2004.00723.x
- Bortfeld, H., Leon, S. D., Bloom, J. E., Schober, M. F., & Brennan, S. E. (2001). Disfluency rates in conversation: Effects of age, relationship, topic, role, and gender. Language and Speech, 44(2), 123-147. https://doi.org/10.1177/00238309010440020101
- Fox Tree, J. E. (2001). Listeners’ uses of um and uh in speech comprehension. Memory & Cognition, 29(2), 320-326. https://doi.org/10.3758/BF03194926
- Clark, H. H., & Fox Tree, J. E. (2002). Using uh and um in spontaneous speaking. Cognition, 84(1), 73-111. https://doi.org/10.1016/S0010-0277(02)00017-3