同じ志望動機を、読むか聞くか
転職活動で、応募書類の志望動機を何度も書き直す。言葉を選び、論理を整え、読み返して納得のいく文章に仕上げる。それでも書類選考では手応えがなく、面接で同じ内容を話したときのほうが、相手が身を乗り出して聞いてくれた。
この違いは、話し方がうまかったからだと考えがちです。しかし研究は、もう少し根本的な可能性を示しています。同じ言葉であっても、文字で読むか声で聞くかによって、話し手の頭の働きそのものが違って見えるというものです。
文字のやりとりで意図や感情が誤って読まれる問題は、メールの冗談や皮肉が伝わらない理由の記事で扱いました。本稿の関心は誤読ではなく、同じ内容を受け取ったとき、相手が書き手・話し手をどんな人物だと評価するかにあります。
声で聞くと、有能で思慮深く見えた
人の知性や考えの深さは、外から直接見ることができません。周りの人は、話し方や書いたものといった間接的な手がかりから推し量るしかありません。Schroeder 氏と Epley 氏は、実際の思考と最も結びついている手がかりは声だろうと予測し、採用の場面で確かめました。
実験では、仮想の採用担当者と、プロの採用担当者が、応募者が「自分を採用すべき理由」を述べた売り込みを、映像で見る、音声で聞く、文章で読むのいずれかの形で受け取りました。
その結果、評価者は売り込みを読んだ場合よりも聞いた場合に、応募者をより有能で、思慮深く、知的だと評価しました。その結果として、応募者への印象全体も良くなり、採用への関心も高まっています。
注目したいのは、次の二つの結果です。
- 文章に声を足すと、同じ結果になった — 応募者が書いた文章を俳優が読み上げた場合だけでなく、訓練を受けていない一般の人が読み上げた場合にも、読んだ場合より評価が高くなった
- 音声に映像を足しても、評価は変わらなかった — 姿や表情が見えることよりも、声が聞こえることのほうが効いていた
二つ目の結果は、「見た目が分かったから評価が上がった」という説明を退けています。研究者たちは、知性を伝えるには、文字どおり声が聞こえることが重要だと結論づけています。
ただし、この研究は売り込みを録画・録音・文章で比べたものです。対面の面接全般で同じことが起きると確かめたわけではありません。
意見が対立する相手でも、声は印象を変える
声の効果は、採用のように相手を好意的に見ようとしている場面に限られるのでしょうか。Schroeder 氏らは、より厳しい条件で確かめました。自分と意見が対立する相手です。
人は、自分と反対の意見を持つ相手を「よく考えていない人」「物事が分かっていない人」と見なしがちです。研究者たちは、こうした相手に対してこそ、声の有無で印象が変わるだろうと予測しました。
世論が分かれる社会問題や政治的な意見を扱った三つの実験では、相手が自分の考えを説明するのを聞いた場合のほうが、同じ内容を読んだ場合より、相手の知的な能力を高く評価しました。声で聞いた相手のほうが、人間らしい心の働きをより備えた存在に見えたのです。
ここで誤解してはいけないのは、声で話せば相手の意見を変えられる、という結果ではないことです。変わったのは意見への賛否ではなく、相手をどれだけ考えのある人と見るかでした。研究者たちは、対立する側の人を見下す傾向は、その人に文字どおり声を与えることで和らぐかもしれないと述べています。
職場でも、方針に反対する部署の意見書や、異なる立場の役員のメモを、文面だけで読んで「分かっていない」と判断してしまうことがあります。以下は推論ですが、判断の前に本人の説明を一度声で聞く機会を設けると、同じ内容でも受け取り方が変わる可能性があります。
声のどこが効いているのか
では、声のどの部分が、考えの深さを伝えているのでしょうか。Schroeder 氏らの四つ目の実験は、声に含まれるパラ言語的な手がかり、つまり抑揚などの言葉以外の音の特徴が、基本的な心の働きを伝えていることを示しました。
文章は、言葉の内容をそのまま伝えます。けれども、どこで強調し、どこで間を置き、どこで声の高さを変えるかという情報は、文字にすると消えてしまいます。話し手が考えながら言葉を選んでいる様子は、こうした音の変化に表れます。聞き手は内容と一緒に、その内容を生み出している頭の動きを聞いていると考えられます。
声の高さや響きが印象をどう変えるかは、声のトーンで印象が変わる理由の記事で詳しく扱っています。本稿で強調したいのは、ここで言う効果は「良い声」かどうかではないという点です。訓練を受けていない人の読み上げでも評価が上がったことから、抑揚のある普通の話し声で十分だと読み取れます。
電話より文字を選んでしまう理由
声のほうが考えが伝わるのなら、なぜ私たちはメールやチャットを選びがちなのでしょうか。Kumar 氏と Epley 氏は、手段を選ぶときの予想と、実際の経験のずれに注目しました。
現場で行った実験では、参加者に疎遠になっていた昔の友人へ、電話かメールで連絡を取ってもらいました。実験室の実験では、初対面の相手と、ビデオ、音声、文字のいずれかの方法で会話してもらっています。
結果は一貫していました。電話、ビデオ通話、音声チャットといった声を含むやりとりは、文字のやりとりよりも強いつながりを生み、しかも気まずさは増えなかったのです。ところが人は、声のやりとりは気まずいだろう、つながりの感じ方はそれほど変わらないだろうと予想していました。この予想のずれが、文字の手段を選ばせていたと報告されています。
つまり、電話をためらう理由として挙げられがちな「気まずそう」という感覚は、実際の経験と合っていない可能性があります。
文字・音声・ビデオの使い分け
ここまでの研究は、文字をやめるべきだという結論ではありません。文字には、記録に残る、相手の都合のよい時間に読める、数字や手順を正確に伝えられるという強みがあります。研究の結果と文字の強みを合わせると、使い分けは次のように整理できます。
- 声 — 考えの深さや人柄、判断の理由を伝えたい場面。応募の自己紹介、方針の説明、反対意見への応答など
- 文字 — 日時、数字、手順、決定事項など、記録として残し正確に参照してもらう情報
- 使い分け — 気まずさの予想だけを理由に文字を選ばない。迷ったら、要点は声で伝え、記録は文字で送る
ビデオと音声のどちらを選ぶかについては、採用の実験で音声に映像を足しても評価が変わらなかったこと、つながりの実験で声を含む手段がまとめて文字より良い結果だったことが参考になります。大切なのは映像の有無より、声が届くかどうかだと考えられます。オンライン会議でカメラを切っても、マイクの音質を整えることには意味があります。
文字のやりとりで関係がこじれたら
チャットで意見がぶつかり、返信のたびに文面が硬くなっていく。こうした場面での切り替え方は、誤読を防ぐ観点からメールの誤読の記事で取り上げました。本稿の研究は、その切り替えに別の理由を加えます。
文字で対立していると、相手は「こちらの事情を考えていない人」に見えやすくなります。意見の対立の実験が示したのは、同じ主張でも声で聞くと、相手がより考えのある人に見えるということでした。以下は推論ですが、短い電話や音声通話に切り替えることは、誤解を解くだけでなく、互いを考えのある相手として見直すきっかけになりえます。
切り替えるときは、「文面だとうまく伝えられないので、5分だけお電話してもよいですか」と、理由と時間を添えると相手も応じやすくなります。話した内容は、最後に要点を文字で送って記録に残します。
録音メッセージと動画の自己紹介
就職・転職では、録画面接や動画での自己紹介を求められる場面が増えています。経営層にとっても、社内への方針説明を文章だけで配るか、動画や音声を添えるかは、日常的な判断です。
研究の結果を当てはめると、次の工夫が考えられます。いずれも研究から導いた推論です。
- 書いた文章を、そのまま配るだけにしない — 要点だけでも本人の声で説明する音声や動画を添える
- 判断の理由は声で語る — 結論や数字は文字で示し、「なぜそう考えたか」を声で補う
- 映像の作り込みより音声を優先する — 背景や照明より、聞き取りやすい音で録る
- 録り直しは数回までにする — 何度も録り直すと、読み上げ調になり抑揚が平板になりやすい
自分の録音を聞くと声に違和感を覚え、録り直しを重ねてしまう人もいます。その違和感の正体は、録音した自分の声が変に聞こえる理由の記事で解説しています。
原稿を読んでも、抑揚を失わない
採用の実験では、書かれた文章を読み上げただけでも評価が上がりました。ただし、声の効果を支えているのが抑揚などの手がかりだとすれば、抑揚が消えた棒読みでは、その効果を損なう可能性があります。ここからは研究の結果を踏まえた実務上の提案です。
- 原稿は話し言葉で書く — 一文を短くし、書き言葉の硬い接続詞を減らす
- 強調する語に印を付ける — 一文につき一か所、意味の中心になる語を決める
- 区切りで間を取る — 読点ごとではなく、意味のまとまりごとに息継ぎをする
- 聞き手を一人思い浮かべる — 画面やマイクではなく、特定の相手に説明するつもりで読む
- 一度は原稿から目を離して話す — 要点を覚え、自分の言葉で言い直した版も録って聞き比べる
最後の聞き比べは、自分の声のどこに考えが表れているかを確かめる練習になります。原稿どおりの版より言い直した版のほうが伝わると感じたなら、それは抑揚や間が戻ってきた証拠と考えられます。
まとめ
研究からは、同じ内容でも、文字で読むより声で聞くほうが、話し手が有能で思慮深く、知的に見えることが分かります。この傾向は、プロの採用担当者が評価した場合にも、意見が対立する相手を評価した場合にも見られました。効いていたのは映像ではなく、抑揚などの声の手がかりでした。
一方で、人は声のやりとりを気まずいものと予想し、文字を選びがちです。考えの深さを伝えたい場面では声を、記録に残す情報は文字を選ぶ。書いた内容が伝わらないと感じたら、文章を直す前に、声で届ける方法を考えることが、評価を変える近道になります。
参考文献・出典
- Schroeder, J., & Epley, N. (2015). The sound of intellect: Speech reveals a thoughtful mind, increasing a job candidate’s appeal. Psychological Science, 26(6), 877-891. https://doi.org/10.1177/0956797615572906
- Schroeder, J., Kardas, M., & Epley, N. (2017). The humanizing voice: Speech reveals, and text conceals, a more thoughtful mind in the midst of disagreement. Psychological Science, 28(12), 1745-1762. https://doi.org/10.1177/0956797617713798
- Kumar, A., & Epley, N. (2021). It’s surprisingly nice to hear you: Misunderstanding the impact of communication media can lead to suboptimal choices of how to connect with others. Journal of Experimental Psychology: General, 150(3), 595-607. https://doi.org/10.1037/xge0000962