英語の話し手は、なぜ力まずに通って聞こえるのか

海外の登壇者が、大声を出しているようには見えないのに、会場の後ろの席まで言葉が届いている。同じ広さの部屋で自分が日本語で話すと、喉に力を入れているのに届いた手応えがない。英語での発表や国際会議を経験した方から、この対比をよく聞きます。

このときに持ち出されやすいのが、体格の違いや呼吸法の差です。けれども声の届き方は、音の大きさだけで決まるわけではありません。大きな声と通る声が音のどこで違うのかは、「大きな声」と「通る声」は、音のどこが違うのかで、音の「量」と「配分」の違いとして整理しました。

この記事ではそこから一歩進めて、英語という言語がもともと持っているリズムの型に目を向けます。力まずに通って聞こえる理由の一部は、声そのものよりも音の強弱をどこに置くかという、言語の側の設計にあると考えられるからです。

体格や腹式呼吸では説明しきれない

最初に、はっきりさせておきたいことがあります。「英語圏の話し手は日本語の話し手より声が通る」ことを直接示した研究は、見当たりません。体格差や呼吸法の違いで届き方を説明する話も、比較データを伴って示されたものではありません。この記事も、民族や身体の差を主張するものではありません。

では、聞き手の受け取り方は何に左右されているのか。手がかりになるのが、Kang 氏らの研究です。TOEFL iBT を受けた26名の英語学習者の話し方を機器で測定し、その音声を米国の学部生188名に聞かせて、口頭能力と理解しやすさを評価してもらいました。すると、話す速さ・ポーズの置き方・イントネーションといった個々の音の並びより上の層にある特徴だけで、評価のばらつきのおよそ半分が説明できました。

ここで測られているのは、声の大きさや声質ではありません。時間と高さをどう使っているか、つまり話し方の骨格にあたる部分です。聞き手の判断がそこに大きく左右されるのであれば、「届く・届かない」という感覚を音量だけで考えるのは、出発点から狭すぎることになります。

通り方を分ける3つの違い

英語と日本語で、音の強弱の置かれ方がどう違うか。研究から整理できるのは、次の3つです。

  1. リズム — 何を等間隔に置いて話す言語なのか
  2. 際立たせ方 — 強さや長さを、どの単位に集めるか
  3. 聞き手の手がかり — 聞き手が語を見分けるとき、何を頼りにしているか
英語の話し手が力まずに通って聞こえる理由を分ける3つの違い — リズム(何を等間隔に置くか)、際立たせ方(強さと長さをどこに集めるか)、聞き手の手がかり(語を見分ける拠り所)を示す図
図|通り方を分ける3つの違い — リズム・際立たせ方・聞き手の手がかり

リズム — 英語は強い音節の間隔、日本語は拍の数

言語のリズムは、伝統的に3つの型に分けて語られてきました。強い音節がほぼ等間隔で現れる強勢拍のリズム、音節が単位になる音節拍のリズム、そして仮名一つ分にあたる拍が単位になるモーラ拍のリズムです。英語は強勢拍、日本語はモーラ拍に数えられてきました。

ただしこの分類は、長いあいだ「話し手や聞き手の直感による区分であって、音を測っても出てこないのではないか」と疑われてきました。ここに一つの答えを出したのが Ramus 氏らの研究です。8つの言語の読み上げ音声を、子音の区間と母音の区間に分けて測り、その分布を比べました。その結果、直感的に分けられてきたリズムの型が、音声信号そのものの性質に対応していることが示されました。

つまり、英語と日本語のリズムの違いは、耳の印象の問題ではなく、音の並び方の違いとして実在します。英語では強い音節と弱い音節の差が大きく、その間の音節は弱く短くまとめられます。日本語では、一つひとつの拍が比較的均等な長さで並びます。同じ長さの文を話しても、エネルギーが時間の中でどう配られるかが違うということです。

際立たせ方 — 大事な語にだけ力を集める

強勢拍のリズムでは、力は文全体に均等には配られません。強い音節に集まり、その周りの音節は弱められます。結果として、一つの文の中に強く長い部分と弱く短い部分の起伏ができます。

この起伏は、話し手が意識してつくる部分と、言語の仕組みとして決まっている部分の両方からできています。語ごとにどの音節を強く読むかは辞書で決まっていますが、文の中でどの語を際立たせるかは、話し手が何を伝えたいかによって変わります。

先ほどの Kang 氏らの研究で、評価のばらつきの半分を説明したのが、まさにこの層の特徴でした。話す速さ、どこで区切るか、高さをどう動かすか。聞き手は、一つひとつの音の正確さより先に、この起伏を手がかりにしていると読めます。

なお、起伏をつけることと速く話すことは別です。速さそのものが理解を妨げる仕組みについては、人はなぜ「早口」を聞き取りにくいのかで扱っています。

聞き手の手がかり — 強勢がずれると意味が崩れる

起伏が聞き手にとってどれほど重要かを、実験で確かめたのが Field 氏の研究です。語の強勢の位置と母音の質を操作した録音を聞かせ、何と言ったかを書き取ってもらいました。

結果は、強勢の位置を置き違えると聞き取りが大きく損なわれる、というものでした。しかも、その損なわれ方は英語の母語話者と非母語話者でほぼ同じでした。損なわれる度合いは、強勢がどちらの方向へずれたか、母音の質が一緒に変わったかどうかで大きく変わりました。

ここから分かるのは、強勢が「上手に聞こえるための飾り」ではないということです。聞き手は、強い音節を足がかりにして語の切れ目を見つけています。足がかりが想定と違う場所にあると、母語話者であっても語を取り違えます。発音の細部よりも、強勢の位置のほうが聞き取りに直結する場面がある、と言えます。

「声が大きい」のではなく「差が大きい」

ここまでの3つを重ねると、一つの読み方が見えてきます。英語の話し手が通って聞こえるのは、声の総量が大きいからではなく、強い部分と弱い部分の差が大きいからではないか、というものです。

強い音節は長く、強く、はっきりした母音で発音される。その間の音節は短く弱くまとめられる。聞き手はその山と谷を頼りに語を切り出す。だから、平均的な音量が同じでも、山の部分は相対的に前に出て聞こえる。

ただし、ここに書いたことは複数の研究を組み合わせた仮説であって、実験で直接示された結論ではありません。Ramus 氏らはリズムの型が信号に現れることを示し、Field 氏は強勢のずれが聞き取りを損なうことを示し、Kang 氏らは音の並びより上の層の特徴が評価の半分を説明することを示しました。しかし「だから英語の話し手は力まずに通る」という筋道そのものを検証した研究は、確認できていません。そのつもりで読んでください。

日本語話者が英語で話すときに起きていること

母語のリズムは、意識しなくても身についています。日本語で長く話してきた人が英語を話すとき、拍を比較的均等に並べる読み方が出やすくなる、というのは自然な想定です。ここは研究で確かめられた事実というより、リズムの型が実在するという事実からの推論として読んでください。

確かなことは、Field 氏の結果のほうです。強勢の位置がずれると、聞き手は語を取り違える。しかもそれは、相手が母語話者かどうかに関係なく起こります。英語で話す場は、相手も非母語話者であることが珍しくありません。「ネイティブでない相手だから通じるはず」という見込みは、この結果とは合いません。

つまり、英語の発表で優先すべきなのは、発音をきれいにすることでも、声を大きくすることでもありません。語のどこを強く読むかを間違えないことが先に来ます。話の組み立てそのものを日本語の順序から変える論点は、日本語のまま英語で話すと伝わらない理由で扱っています。

日本語で話すときに持ち帰れること

ここで注意したいのは、日本語に英語の強勢を持ち込むという話ではないことです。日本語は拍が均等に並ぶ言語で、そこへ英語式の強弱を無理に足せば、不自然に聞こえるだけです。

持ち帰れるのは、もっと手前の考え方です。聞き手は起伏を手がかりに話を切り分けている。だとすれば、日本語でも意味の要所に差をつけることには意味があります。差のつけ方は強さだけではありません。その語の前に短い間を置く、少しゆっくり言う、言い切って一度止まる。いずれも、聞き手に「ここが山だ」と伝える手段です。

たとえば「結論から申し上げます」と言ってから一拍置く、数字を言う前だけ少し速度を落とす。どちらも、相手に構える時間を渡す置き方です。

逆に言えば、最初から最後まで同じ調子で話すと、聞き手は自分で山を探さなければなりません。音量を上げても、この負担は減りません。声以外の手段で伝わり方を補う方法は、英語が苦手でも伝わる非言語の力にまとめています。

英語の発表練習で、何から直すか

優先順位をつけるなら、研究が支持している順に次のようになります。

  • 強勢の位置を確認する — 原稿の中で自信のない語を辞書で引き、どの音節を強く読むかを確かめます。Field 氏の結果からすると、ここが最も聞き取りに響きます
  • 文ごとに際立たせる語を1つ決める — すべてを強く言おうとすると、差が消えます。原稿に印をつけ、その語の前に短い間を置きます
  • 速さと区切りを整える — Kang 氏らが測ったのはこの層です。速く話すことより、区切りが意味の切れ目と一致しているかを確かめます
  • 音量を上げるのは最後にする — 会場の広さやマイクの条件で必要になることはありますが、差が消えたまま量だけ増やしても、聞き取りにくさは残ります

練習の順序としては、まず自分の音声を録り、強く読んでいる語を書き出すところからで十分です。書き出した語が、自分の伝えたかった語と一致していないことは珍しくありません。一致していなければ、原稿を直すのではなく、どこで力を入れるかだけを変えて録り直します。同じ原稿のまま印象が変わるかどうかを、ここで確かめられます。

まとめ

英語の話し手が力まずに通って聞こえる現象は、体格や呼吸法よりも、言語が持つリズムの型と強弱の差から考えるほうが説明がつきます。リズムの型は音声信号に実在し、強勢の位置がずれれば母語話者でも語を取り違え、聞き手の評価の半分は音の並びより上の層で決まっていました。

ただし「差が大きいから通る」という筋道そのものは、まだ検証されていない仮説です。確かめられているのは、聞き手が起伏を手がかりにしているという一点です。英語でも日本語でも、まず整えるべきはそこだと考えます。

参考文献・出典

本記事で触れた研究の一次情報は以下のとおりです。