英語で話すたびに、発音が気になって言葉が出てこなくなる。ネイティブのように話せない限り、内容まで軽く見られるのではないか。日本語を母語とする話し手から、よく聞く悩みです。
この不安には、根拠らしきものがあります。訛りのある話し方で読み上げた文は、真実だと判断されにくい。そう報告した実験が、2010年に発表されているからです。
けれども、その後の研究をたどると、話はもう少し込み入っています。本記事では、この実験と追試が何を示し、何を示していないのかを確かめたうえで、話し手の側で整えられることを考えます。
なお、聞き取りやすさや分かりやすさが「正しそうだ」という感覚に混ざる仕組みは、わかりやすい話ほど、正しいと感じてしまう理由で扱いました。あちらは話の内容の分かりやすさ、本記事は話し手の音声の聞き取りやすさを扱います。
「発音が悪いと信用されない」は本当か
この問いには、二つの別の問いが混ざっています。
一つは、訛りがあると話し手の人柄や能力が低く見られるのか、という問いです。もう一つは、訛りがあると話の中身そのものが疑われるのか、という問いです。
前者は、第一印象や偏見の問題です。後者は、聞いた内容を真実と判断するかどうかの問題です。二つは同じように見えて、研究の結果は必ずしも一致しません。この区別が、あとで見る追試を読むときの鍵になります。
もう一つ区別しておきたいのは、訛りの「強さ」と、話の「聞き取りやすさ」です。日常ではこの二つを同じものとして扱いがちですが、研究ではこれも別のものとして測られてきました。
訛りと信頼性を調べた最初の実験
出発点になったのは、Lev-Ari 氏と Keysar 氏の研究です。論文の題は「なぜ私たちは非母語話者を信じないのか」で、訛りが話の信頼性の判断に影響するかを調べました。
後にこの研究を追試した研究者たちは、その結果を次のようにまとめています。聞き手が真偽を知らない短い文を、母語話者と、外国語の訛りのある話し手が読み上げる。すると母語話者の聞き手は、訛りのある話し手の文を、より真実でないと判断した、というものです。
この結果は、処理のしやすさで説明されました。訛りのある音声は聞き取るのに少し手間がかかる。その手間が、内容の確からしさの判断に混ざったのではないか、という解釈です。処理のしやすさが判断に混ざる仕組みそのものは、冒頭で挙げた記事に譲ります。
もしこの効果が確かなら、影響は小さくありません。採用面接や商談で、話し手の出身によって同じ内容でも信じられ方が違うことになり、それは公平さに関わる問題になります。
追試では、結果がそろわなかった
では、この効果は確かなものなのでしょうか。追試の結果は、一様ではありません。
Hanzlíková 氏と Skarnitzl 氏は、聞き手を母語話者から非母語話者に替えて追試しました。元の研究と同じ文を、英語の母語話者6名と非母語話者6名が録音し、英語を母語としない121名が、真実らしさを7段階で評価しました。結果は、非母語話者への否定的な偏りを「暫定的に」確認したというものです。著者自身が断定を避けている点に注意が要ります。
一方、Lorenzoni 氏らは、別の方法で同じ問いを確かめました。一度聞いた文は、二度目に聞くと真実だと判断されやすくなる。この現象を使い、母語の話し手と訛りのある話し手のどちらで聞いたかによって、真実らしさの判断が変わるかを調べたのです。
結果は、元の解釈とは逆でした。繰り返し聞いた文ほど真実と判断されやすくなる効果は、訛りの有無にかかわらず同じ程度に表れました。別の参加者に話し手の声の印象を評価してもらうと、外国語の訛りのある話し手には否定的な偏りが見られました。それでも、その偏りは文の真実らしさの判断には影響していませんでした。
ここから言えるのは、「訛りがあると話の中身が必ず疑われる」とは言えない、ということです。効果は再現されなかった研究もあり、まだ確立したとは言えない状態にあります。
訛りの強さと、聞き取りやすさは別のもの
では、訛りについて何が確かなのか。手がかりになるのは、第二言語の音声研究です。
Munro 氏と Derwing 氏は1995年、北京語を母語とする10名と英語を母語とする2名が即興で話した英語を、英語を母語とする18名に聞かせました。聞き手には、三つのことを別々に答えてもらいました。
- 訛りの強さ — どのくらい外国語の訛りがあると感じたか
- 分かりやすさ — 聞いて理解するのがどのくらい楽だと感じたか
- 聞き取れた度合い — 聞いた発話を書き取ってもらい、実際に正しく書き取れた語の割合
結果は、訛りの強さの評価は大きくばらつき、「訛りが強い」と評価された発話も少なくなかったのに、発話の多くは十分に聞き取れ、分かりやすいと評価されていました。訛りの強さは発音や文法の誤りとは多くの聞き手で関連していましたが、分かりやすさと関連した聞き手はそれより少なく、聞き取れた度合いと関連した聞き手はさらに少数でした。
著者たちの結論は、強い訛りは、必ずしも分かりやすさや聞き取りやすさを下げないというものです。
発音の矯正だけが答えではない
ここまでの研究を重ねると、話し手にとっての優先順位が見えてきます。
発音の練習には意味があります。聞き手が取り違えやすい音を直すことは、確実に伝わる助けになります。ただ、訛りを消すことを目標にすると、長い時間がかかるうえに、それだけでは話が伝わるとは限りません。訛りの強さと聞き取りやすさは、別のものだからです。
話し手が確実に動かせるのは、聞き手が理解するまでにかかる手間のほうです。訛りそのものが残っていても、話の組み立て方と届け方しだいで、聞き手の負担は大きく変わります。
目指すのは訛りのない英語ではなく、訛りがあっても聞き手が迷わない話し方です。
聞き手の負担を下げる3つの手
話し手の側で整えられることは、三つにまとめられます。
- 速度 — 遅すぎず速すぎない速さで話す
- 構造 — 話の枠を先に渡す
- 繰り返し — 大事な語を同じ言い方で繰り返す
このうち研究で直接確かめられているのは、速度についての知見です。構造と繰り返しは、聞き手の手間を減らすという考え方に沿った実務上の工夫として紹介します。
速度 — ゆっくりが最善とは限らない
発音に自信がないと、ゆっくり話そうとする人が多いものです。ところが研究は、それが最善とは限らないことを示しています。
Munro 氏と Derwing 氏は2001年、英語を第二言語とする話し手の発話について、話す速さと、訛りの強さ・分かりやすさの評価との関係を調べました。二つ目の実験では、音声を加工して速さだけを変え、話し手の英語力の違いではなく、速さそのものが評価を左右していることを確かめています。
結果は、一直線の関係ではありませんでした。最もよく評価されたのは、第二言語の話し手が一般的に話す速さよりも、やや速い発話でした。速すぎる発話も、遅すぎる発話も、評価は下がりました。
この研究は文単位の発話を評価したもので、長い発表全体に当てはめたものではありません。それでも、「自信がないからゆっくり話す」が逆効果になりうることは押さえておく価値があります。
実務では、全体を遅くするより、意味のまとまりごとに短い間を置くほうが扱いやすいでしょう。速さと理解のしやすさの関係は、人はなぜ「早口」を聞き取りにくいのかで詳しく扱いました。
構造 — 先に話の枠を渡す
聞き手は、次に何が来るかの見当がついていると、一語を聞き取り損ねても前後から補えます。見当がついていないと、聞き取れなかった一語のところで話を見失います。
そこで、話の冒頭で枠を渡します。
- 「結論は一つ、理由は三つです」と、数と順番を先に言う
- 各部分の始めに「一つ目の理由は」と、いまどこにいるかを示す
- 数字や固有名詞は、スライドや資料にも文字で出しておく
結論を先に置く英語の組み立て方そのものは、日本語のまま英語で話すと伝わらない理由で扱いました。本記事の観点で付け加えるなら、枠を先に渡すことは、訛りによる聞き取りの手間を、話の予測しやすさで埋める働きをします。
繰り返し — 大事な語は同じ言い方で
日本語の文章では、同じ語の繰り返しを避けて言い換えるのが上手な書き方だと教わることがあります。けれども、訛りのある英語で話すときは、この習慣が裏目に出ることがあります。
たとえば、最初に「cost reduction」と言った内容を、次に「savings」、その次に「efficiency」と言い換えたとします。聞き手はそのたびに、同じ話なのか別の話なのかを判断しなければなりません。訛りで一語を聞き取りにくいときほど、この判断が負担になります。
これは研究で確かめられた手順ではありませんが、聞き手の手間を減らす工夫として有効です。
- 話の要になる語は、最初に決めた言い方を最後まで使う
- 要点は、段落の終わりで同じ言葉を使ってもう一度言う
- 聞き取りにくいと言われた語は、言い換えより、文字で示すほうを選ぶ
聞き手・評価する側にできること
ここまでは話し手の工夫でしたが、判断する側にも役割があります。
Lorenzoni 氏らの研究では、聞き手は訛りのある話し手に否定的な印象を持ちながら、文の真実らしさの判断には影響していませんでした。Hanzlíková 氏と Skarnitzl 氏の追試では、英語を母語としない聞き手のあいだでも、非母語話者への偏りが暫定的に確認されています。
ここから言えるのは、話し手への印象と、話の中身の評価は切り分けられるということと、訛りへの偏りは母語話者だけの問題ではないということです。英語を母語としない者どうしの国際会議でも、同じ構造が働く可能性があります。
採用面接や提案の審査で英語の発表を聞く立場なら、次の点を意識します。
- 発音の印象と、内容の根拠や論理を、分けて評価する
- 聞き取れなかった箇所は、推測で埋めずに確かめる
- 評価の記録には、話し方の印象ではなく、内容に関する事実を書く
まとめ
訛りのある話し手の文は真実だと判断されにくい、という実験は注目を集めましたが、追試の結果はそろっていません。話し手の印象が下がることはあっても、話の中身の判断まで下がるとは言い切れないのが現状です。
確かなのは、訛りの強さと聞き取りやすさが別のものだということです。だから話し手は、発音の矯正だけに頼らず、速度・構造・繰り返しで聞き手の手間を減らせます。英語の強勢とリズムで声を通す方法は英語の話し手が、力まずに通って聞こえる理由も参考にしてください。
参考文献・出典
- Lev-Ari, S., & Keysar, B. (2010). Why don’t we believe non-native speakers? The influence of accent on credibility. Journal of Experimental Social Psychology, 46(6), 1093-1096. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2010.05.025
- Hanzlíková, D., & Skarnitzl, R. (2017). Credibility of native and non-native speakers of English revisited: Do non-native listeners feel the same? Research in Language, 15(3), 285-298. https://doi.org/10.1515/rela-2017-0016
- Lorenzoni, A., Faccio, R., & Navarrete, E. (2024). Does foreign-accented speech affect credibility? Evidence from the illusory-truth paradigm. Journal of Cognition, 7(1), 26. https://doi.org/10.5334/joc.353
- Munro, M. J., & Derwing, T. M. (1995). Foreign accent, comprehensibility, and intelligibility in the speech of second language learners. Language Learning, 45(1), 73-97. https://doi.org/10.1111/j.1467-1770.1995.tb00963.x
- Munro, M. J., & Derwing, T. M. (2001). Modeling perceptions of the accentedness and comprehensibility of L2 speech: The role of speaking rate. Studies in Second Language Acquisition, 23(4), 451-468. https://doi.org/10.1017/s0272263101004016