メンター制度は、導入のハードルが低い育成策です。先輩と後輩を組み合わせ、月に一度話す時間を取ってもらう。それだけで始められます。
ただ、始めやすい制度ほど、形だけになりやすいものです。本記事では、メンタリングの効果について研究が何を示しているのかを確かめたうえで、制度を「付けるだけ」で終わらせないための設計と、面談での言葉の使い方を整理します。
メンター制度を入れたのに、面談が続かない
人事部門がメンターとメンティーの組み合わせを決め、初回の顔合わせを設定する。そこまでは順調でも、その後に次のようなことが起きがちです。
- 何を話せばよいか分からず、雑談だけで終わる
- メンターの本業が忙しくなり、日程の調整が後回しになる
- メンティーが「こんなことを相談してよいのか」と遠慮し、相談を持ち込まない
こうして、面談は二回目、三回目と間が空いていきます。制度の名簿には名前が残っていても、関係としては動いていない状態です。
この状態を見て、「やはりメンター制度は効かない」と判断するのは早いかもしれません。研究を見ると、メンタリングには確かに好ましい成果との関係がある一方で、その大きさは控えめで、制度の作り方によって関係の質が変わることが分かってきています。
メンタリングの2つの働き — キャリア支援と心理的支援
メンタリングの研究では、メンターの働きを大きく二つに分けて調べることが一般的です。本稿では、次のように説明します。
- キャリア支援 — 仕事の進め方への助言や、社内での経験の積み方など、キャリアを前に進めるための支え
- 心理的支援 — 悩みを聞き、受け止め、相談相手になるといった、気持ちの面での支え
後で取り上げる研究では、このほかに、メンターが仕事ぶりの手本になるロールモデルとしての働きも、別に扱っています。
図は、本稿が研究をもとに実務向けに整理したものです。二つの働きは、どちらが正しいというものではありません。若手が抱える課題には、仕事の進め方の問題と、職場での不安の両方が混ざっていることが多いからです。
メンターがいる人の報酬とキャリアへの満足
では、メンターがいる人には何が起きるのか。Allen 氏らは2004年、メンタリングを受ける側にとってのキャリア上の利点を調べた既存の実証研究を、メタ分析で統合しました。
この研究が扱ったのは、次の二種類の成果です。
- 客観的な成果 — 報酬など、外から数字で確かめられるもの
- 主観的な成果 — キャリアへの満足など、本人の受け止め
分析には、メンターがいる人といない人の比較と、受けたメンタリングの量と成果の関係の両方が含まれています。結果は、メンタリングの利点をおおむね支持するものでした。
さらに、成果によって、キャリア支援と心理的支援のどちらとの関係が大きいかに違いがある兆候も見られました。メンターに何を期待するかによって、見込める成果が変わりうるということです。
効果は「ある」が、大きくはない
ここで見落とせないのは、同じ研究が、報酬などの客観的な成果に対する効果量は小さかったと明記している点です。
メンターを付ければ年収が大きく上がる、と期待するのは、研究の結果から外れています。利点はおおむね支持されたものの、報酬のような目に見える数字に表れる差は小さかったということです。
これは、制度に価値がないという意味ではありません。ただ、制度の効果を語るときは、小さいが好ましい関係がある、という程度にとどめるのが誠実です。導入の説明で「メンター制度で離職が半減する」のように言い切ると、期待と結果の差が、かえって制度への失望を生みかねません。
職場・学業・青少年で、効果の大きさが違った
Eby 氏らは2008年、それまで分野ごとに別々に進められてきたメンタリング研究を、青少年・学業・職場の三つの領域にわたって量的に統合しました。
結果は、メンタリングが行動、態度、健康、人間関係、動機、キャリアといった幅広い好ましい成果と関連していたというものです。ここでも、効果量はおおむね小さいとされています。
領域による違いも報告されています。学業と職場のメンタリングでは、青少年のメンタリングより大きな効果量が見られました。職場のメンタリングは、三つの領域の中では効果が表れやすい側にあったということです。
二つのメタ分析を合わせると、メンタリングには幅広い成果との関係があるが、その大きさは控えめだ、という見取り図になります。だからこそ、限られた効果をどう引き出すかという、制度の設計が問われることになります。
制度の設計で効果が変わる — 本人の意見と研修の質
公式のメンター制度は企業で広がり続けていますが、どう設計すれば最も効果が上がるかを調べた研究は、長く限られていました。Allen 氏らは2006年、公式制度の設計上の特徴と成果の関係を、メンターとメンティーの双方の視点から調べています。
成果として扱われたのは、キャリア支援、心理的支援、ロールモデルとしての働き、そしてメンタリング関係の質です。結果、一貫して関係していたのは次の二つでした。
- 本人の意見が反映されたと感じていること — メンタリングの進め方について、自分の意見を出せたと受け止めていること
- 質が高いと感じられる研修 — 制度の中で受けた研修を、本人が質の高いものと受け止めていること
ここから言えるのは、組み合わせを決めて面談を設定するだけでは、制度は半分しかできていないということです。参加する本人が進め方に意見を言える仕組みと、メンターやメンティーが役立つと感じる研修があって、関係の質は支えられます。
なお、この研究は設計の特徴を本人がどう受け止めたかを調べたもので、特定の組み合わせ方や研修の内容が決め手になると示したものではありません。ここから先の具体的な進め方は、研究の外の、本稿の提案です。
人事部門が制度に組み込めることとしては、たとえば次のようなものが考えられます。
- 始める前に希望を聞く — 面談で話したいことや、望む頻度を、メンターとメンティーの双方から事前に集める
- 途中で見直す機会を置く — 三か月ほどで、進め方が合っているかを二人に尋ね、変えてよいと伝える
- 研修で聞き方を練習する — メンター向けに、助言の前に相手の話を聞く練習を入れる
- 研修の感想を集める — 受けた研修が役立ったかを参加者に尋ね、次の回の内容に反映する
どれも、本人が「意見を出せた」「研修が役立った」と受け止められるようにするための工夫です。
メンターが最初の面談で話すこと
初回の面談は、関係の進め方を二人で決める場にすると、その後が続きやすくなります。メンターから、次のような言葉で切り出すことができます。
- 「この面談で何を話したいか、まずあなたの希望を聞かせてください」
- 「仕事の進め方の相談でも、職場で気になっていることでも構いません」
- 「月に一回、三十分で始めてみて、合わなければ変えましょう」
一つ目と三つ目は、進め方にメンティーの意見を入れるための言葉です。研究で示された「本人の意見の反映」を、面談の最初の数分で形にするものだと考えられます。
初回のうちに、次の三点を二人で確かめておくと、その後の面談が途切れにくくなります。
- 頻度と時間 — 月に何回、何分か。日程はどちらから声をかけるか
- 話の扱い — 面談で話した内容を、誰にどこまで伝えるか
- 区切り — いつ一度振り返り、続けるかどうかを決めるか
反対に、最初の面談で避けたいのは、メンターが自分の経験談を長く話し続けることです。経験談は役に立ちますが、メンティーが何に困っているかを聞く前に話すと、相談の入り口をふさいでしまいます。
メンティーが相談を持ち込む言い方
面談が続かない原因は、メンター側だけにあるわけではありません。メンティーが「こんなことを聞いてよいのか」と遠慮すると、面談は雑談のまま終わります。
相談は、状況と、聞きたいことを一緒に持ち込むと、メンターも答えやすくなります。
- 「来月、初めて社外向けの説明を担当します。準備で気をつけていたことを教えてください」
- 「上司への報告が長いと言われました。○○さんは、どう短くしていましたか」
- 「仕事の話ではないのですが、異動してから職場になじめていない気がしています」
一つ目と二つ目はキャリア支援、三つ目は心理的支援を求める相談です。三つ目のような話を持ち込めることが、上司ではない先輩がメンターを務める意味の一つでもあります。
面談の前日に、「明日は報告の短くし方を相談したいです」と一行送っておくのも一つの方法です。メンターは自分の経験を思い出す時間が取れ、当日の話が具体的になります。
メンターの側は、相談を受けたら、答えを出す前に「どうしてそう感じたのですか」と一度聞き返すと、メンティーが自分の考えを整理する時間になります。
上司とメンターの役割を分ける
メンター制度が形だけになるもう一つの原因は、上司との役割が重なることです。上司がメンターを兼ねると、メンティーは評価を気にして、本当の悩みを話しにくくなります。
上司との1on1、メンター、コーチの役割の違いは、世界の企業は、なぜ管理職に専門のコーチをつけるのかの「1on1・メンター・コーチの役割の違い」の節で整理しました。本稿の文脈では、次の点を押さえておけば十分です。
- メンターは、メンティーを評価する立場にない先輩が務める
- 面談で聞いた話を上司へ伝えるかどうかは、メンティーの了解を前提にする
- 仕事の割り振りや評価に関わる話は、上司との1on1に戻す
上司との1on1で何を話すかは世界標準の1on1は何を話しているのかで、新人の最初の1週間の声かけはオンボーディングで新人が安心する伝え方で扱いました。メンター制度は、これらに重ねて使う仕組みです。
まとめ
メンタリングは、キャリア上の成果をはじめ幅広い好ましい成果と関連していましたが、効果量はおおむね小さく、報酬などの客観的な成果への効果は特に小さいものでした。公式の制度では、本人の意見の反映と研修の質が、関係の質と一貫して関係していました。
組み合わせを決めるだけで終わらせず、最初の面談で進め方を二人で決める。これが、制度を動かす最初の一歩です。
参考文献・出典
- Allen, T. D., Eby, L. T., Poteet, M. L., Lentz, E., & Lima, L. (2004). Career benefits associated with mentoring for protégés: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 89(1), 127-136. https://doi.org/10.1037/0021-9010.89.1.127
- Eby, L. T., Allen, T. D., Evans, S. C., Ng, T., & DuBois, D. L. (2008). Does mentoring matter? A multidisciplinary meta-analysis comparing mentored and non-mentored individuals. Journal of Vocational Behavior, 72(2), 254-267. https://doi.org/10.1016/j.jvb.2007.04.005
- Allen, T. D., Eby, L. T., & Lentz, E. (2006). Mentorship behaviors and mentorship quality associated with formal mentoring programs: Closing the gap between research and practice. Journal of Applied Psychology, 91(3), 567-578. https://doi.org/10.1037/0021-9010.91.3.567