「緊張がばれている」と感じる瞬間

会議で発言の順番が回ってきた。話し始めたとたん、心臓の音が大きくなり、声が少し上ずった気がする。手元の資料を持つ指が震えている。聞いている人たちは、きっとこの緊張に気づいている。そう考えると、次の言葉がますます出てこなくなります。

あとで同僚に「緊張していたでしょう」と聞くと、「え、そうだったの」と返される。こうした食い違いを経験した人は少なくないはずです。本人の中では大きく揺れていた時間が、外からは落ち着いて見えていたということです。

社会心理学では、この食い違いを説明する研究が積み重ねられてきました。人は、自分の内面や言動が他人に見えている程度を、実際より大きく見積もりやすいというものです。

なお、ここで紹介する主な研究は、嘘や嫌悪感、目立つ服装、集団討論での発言を対象にしたもので、スピーチの緊張そのものを調べた研究ではありません。本稿で登壇や面接の場面に当てはめる部分は、推論として読んでください。

透明性の錯覚 — 内面は外から見えると思い込む

Gilovich 氏らは、自分の内面の状態が他人にどれだけ読み取られているかを、人が過大に見積もる傾向を「透明性の錯覚」と名づけ、三組の研究で確かめました。

  • 嘘の見抜かれやすさ — 嘘をついた人は、自分の嘘が相手に見抜かれる程度を、実際より高く見積もった
  • 嫌悪感の表れやすさ — 嫌悪感を覚えた人は、自分の嫌悪感が表情に出ている程度を、実際より高く見積もった
  • 緊急時の手助け — 三組目の研究では、この錯覚が、緊急時に人が手助けをためらう場面にどう関わるかを検討した

共通するのは、本人には強く感じられている内面が、外からはそれほど読み取られていないということです。嘘をついている最中の後ろめたさも、嫌悪感も、本人にとっては隠しきれないほど大きく感じられます。それでも、相手が実際に気づく程度は、本人の見積もりより小さかったのです。

緊張も、本人の中では強く感じられる内面の状態です。嘘や嫌悪感と同じずれが緊張にも働くなら、「全部ばれている」という感覚は、実際の見え方より大きく膨らんでいる可能性があります。ただし、これは推論です。

スポットライト効果 — 自分の言動は思うほど目立たない

内面だけでなく、外見や行動についても似たずれがあります。Gilovich 氏らは、人が自分の言動や外見が他人に気づかれる程度を過大に見積もる傾向を「スポットライト効果」と呼びました。

実験では、参加者に目立つ絵柄のTシャツを着てもらい、その場にいた人のうち何人がその絵柄を覚えているかを予想してもらいました。すると参加者は、絵柄に気づいて覚えている人の数を、実際より多く見積もりました。この傾向は、恥ずかしい絵柄でも、好ましい絵柄でも見られています。

もう一つの研究は、話す場面に近いものです。集団で討論した参加者は、自分の発言が、良い発言も悪い発言も、他の参加者の目にどれだけ目立っていたかを過大に見積もりました。自分では「まずいことを言った」と感じた一言も、周りの記憶には本人が思うほど残っていなかったということです。

会議での言い間違いや、説明の途中でつかえた瞬間を、何日も気にし続ける人がいます。スポットライト効果の研究に照らすと、その一言は、本人が思うほど周りの記憶に残っていないと考えられます。

なぜ見積もりがずれるのか

二つの錯覚は、同じ仕組みで説明されています。Gilovich 氏と Savitsky 氏は、他人からどう見えているかを判断するとき、人は自分自身の体験を出発点(アンカー)にすると論じています。

自分の内面は、心臓の鼓動、顔のほてり、頭の中の焦りとして、細かく生々しく感じられます。その強い体験を出発点にして「相手にはどう見えるか」を考えると、相手の視点に合わせた修正が十分にできません。その結果、自分の内面がどれだけ外に漏れているか、自分の言動がどれだけ注目されているかを、どちらも大きく見積もってしまうのです。

この説明は、緊張の扱い方にも示唆を与えます。緊張しているときほど、体の内側の感覚は強くなります。感覚が強いほど、それを出発点にした見積もりも大きくずれやすいと考えられます。「こんなに緊張しているのだから、外にも出ているはずだ」という推論は、出発点が自分の体験に偏っているのです(緊張に当てはめた部分は推論です)。

それでも見えるもの・見えないもの

ただし、研究が示したのは「見積もりが過大になる」ことであって、内面がまったく見えていないということではありません。嘘も嫌悪感も、一部は相手に読み取られていました。緊張も、外に出る部分はあります。

実務では、見えやすいものと見えにくいものを分けて考えると、気持ちが整理しやすくなります。以下は研究から導いた整理で、推論を含みます。

  • 本人が感じるほどには見えにくいもの — 心臓の鼓動、胃の重さ、頭の中の焦り、手のひらの汗など、体の内側の感覚
  • 聞き手に伝わりうるもの — 極端な早口、声が聞き取れないほど小さくなること、視線がずっと手元に落ちていること

前者は、自分では隠しきれないと感じても、外からは小さくしか見えていない可能性があります。気にするなら後者です。後者は、緊張そのものではなく話し方の問題として扱えるので、練習で整えることができます。

自分の見積もりを確かめるには、発表のあとで信頼できる同僚に「どのくらい緊張して見えたか」を尋ねる方法もあります。自分の感覚と相手の答えを比べる経験を重ねると、次の本番で「全部ばれている」という思い込みに引きずられにくくなるかもしれません(推論です)。声と間の整え方は、緊張しても伝わる人の共通点の記事で扱いました。

「緊張しています」と言うべきか

話の冒頭で「緊張していますが」と前置きする人がいます。言ってしまえば楽になる、という考え方もあります。

透明性の錯覚の研究に照らすと、一つの見方ができます。聞き手は、話し手が思うほど緊張に気づいていない可能性があります。そうだとすると、わざわざ口にすることで、気づかれていなかった緊張に注意を向けさせることになるかもしれません。前置きの言葉が聞き手の評価に与える影響を直接調べた研究は今回の出典にはないため、これは推論です。

一方で、場を和ませる目的で短く触れるのは、話し手の判断です。言うかどうかより大切なのは、前置きで時間を使わず、早めに本題に入ることだと考えられます。冒頭の詫びや前置きが印象に与える影響は、「すみません」から始めるスピーチが損をする理由の記事で詳しく扱っています。

言いよどみや言い直しの扱い

緊張すると、言葉に詰まったり、言い直したりすることが増えます。話し手はそのたびに「今のでばれた」と感じがちです。

スポットライト効果の研究では、集団討論での自分の発言の目立ち方を、参加者が過大に見積もっていました。一度の言い直しも、聞き手の記憶には本人が思うほど残っていない可能性があります。言い直したあとに謝ったり、取り繕ったりせず、そのまま次の文に進むほうが、聞き手の注意を話の中身に戻しやすいと考えられます(推論です)。

「えー」「あのー」などの言いよどみが聞き手の理解にどう関わるかは、「えー」「あのー」は、本当に減らすべきなのかの記事で整理しました。

聞き手の注意はどこに向いているのか

スポットライト効果の研究が示唆するのは、人はそれぞれ自分のことに注意を向けているという当たり前の事実です。Tシャツの実験でも、着ている本人には絵柄が強く意識されていた一方で、絵柄を覚えていた人は本人の予想より少なかったのです。

会議や発表の聞き手も同じだと考えられます。聞き手の多くは、話の内容が自分の仕事にどう関わるか、次に何を質問するか、自分の発表の順番がいつ来るかを考えています。話し手の声の震えを細かく観察している人は、本人が想像するほど多くないでしょう(推論です)。

面接も同様に考えられます。面接官は、応募者の答えの中身を聞き取り、評価を記録し、次に何を尋ねるかを考えながら座っています。応募者の手の震えより、質問に対して何をどの順で答えたかのほうが、面接官の手元に残りやすいはずです。緊張していると感じたら、答えの結論を最初の一文で言うことに注意を向け直します。

自分と相手の見積もりのずれは、会話の後の印象にも見られます。初対面の会話で相手が自分をどう思ったかを人が低く見積もる傾向は、初対面の会話のあと、相手は思うよりあなたを好いているの記事で紹介しました。他人の目に映る自分を、人は自分の内側から推し量ってしまうという点で、二つは通じ合っています。

本番前に自分に言い聞かせること

緊張をなくす必要はありません。本番前には、見え方についての見積もりを修正しておきます。

  1. 「この緊張は、外からは小さく見えている」 — 体の内側の感覚は、他人からは見えにくい
  2. 「言い間違いは、思うほど覚えられていない」 — 一度つかえても、そのまま先へ進む
  3. 「聞き手は、自分の関心で話を聞いている」 — 注意を向けるべきは、聞き手が知りたいことを届けること

ただし、この三つは研究の知見をもとにした言い聞かせであって、効果を実験で確かめたものではありません。自分の発表を録画して見返すと、外からどれくらい緊張が見えるかを自分の目で確かめられます。録画の自分に違和感がある場合は、録音した自分の声に違和感がある理由も参考にしてください。

緊張の捉え直しや呼吸の整え方は、緊張で頭が真っ白になる面接の対策の記事で、緊張が起きる脳の仕組みはプレゼン前の「極度の緊張」を科学するの記事で扱っています。

緊張の見え方を知る3つの視点 — 内面は外から見えていると思い込むTRANSPARENCY(透明性の錯覚)、自分の言動は思うほど注目されていないSPOTLIGHT(スポットライト)、見えている量を小さく見積もり直すREALITY(実際の見え方)を示す図
図|緊張の見え方を知る3つの視点 — 透明性の錯覚・スポットライト・実際の見え方

まとめ

社会心理学の研究は、人が自分の内面が外に漏れる程度(透明性の錯覚)と、自分の言動や外見が注目される程度(スポットライト効果)を、どちらも過大に見積もりやすいことを示してきました。その背景には、自分自身の生々しい体験を出発点にして他人の視点を推し量る、という仕組みがあると説明されています。

これらはスピーチの緊張を直接調べた研究ではありません。それでも、「緊張は全部見えている」という感覚を疑い、見えにくいものは気にせず、伝わりうる話し方だけを整えることが、人前で話す負担を軽くする一つの考え方になります。

参考文献・出典

  • Gilovich, T., Savitsky, K., & Medvec, V. H. (1998). The illusion of transparency: Biased assessments of others’ ability to read one’s emotional states. Journal of Personality and Social Psychology, 75(2), 332-346. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.2.332
  • Gilovich, T., & Savitsky, K. (1999). The spotlight effect and the illusion of transparency: Egocentric assessments of how we are seen by others. Current Directions in Psychological Science, 8(6), 165-168. https://doi.org/10.1111/1467-8721.00039
  • Gilovich, T., Medvec, V. H., & Savitsky, K. (2000). The spotlight effect in social judgment: An egocentric bias in estimates of the salience of one’s own actions and appearance. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 211-222. https://doi.org/10.1037/0022-3514.78.2.211