書いた文章なら、出典は脚注や参考文献の欄に置けます。けれども話し言葉には脚注がありません。聞き手は、話し手が口にしたことだけを手がかりに、その根拠を信じてよいかを判断します。

英語圏の大学で public speaking(人前で話す技術)の授業に使われる教材は、この点を正面から扱っています。口頭で出典を示すことを、引用の倫理であると同時に、話の信頼性を支える技術として教えているのです。

本記事では、説得研究の知見と、米国の大学などが公開している教材の記述を分けて紹介します。なお、口頭での出典の示し方そのものの効果を実験で確かめた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。

「どこかで読んだのですが」が話を軽くする

「どこかで読んだのですが、日本の管理職の多くは研修を受けていないそうです」。この一文は根拠を示しているように見えますが、聞き手が確かめられることは何もありません。誰が、いつ、どの範囲で調べたのかが分からないので、聞き手は数字を信じるかどうかを、話し手への印象だけで決めることになります。

しかも、曖昧な根拠の影響はその一文にとどまりません。後で見るように、疑わしい根拠は、主張だけでなく話し手そのものの評価を下げることが研究で示されています。

主張と根拠をどう組み立てるかという構造の話は、世界のビジネスで通じる「主張・根拠・反証」の型で扱いました。本記事が扱うのは、その根拠の出どころを、口でどう名乗るかという発話の作法です。

根拠の出どころと信頼 — 研究で分かっていること

根拠の質と話し手の信頼の関係は、説得研究で長く調べられてきました。

Luchok 氏と McCroskey 氏の1978年の研究は、それまでの研究で「質の高い根拠を含めると話し手の信頼性が高まる」とされてきたことを踏まえ、逆の側を調べました。欠陥のある根拠、出どころが疑わしい根拠、論点と関係のない根拠を含めた場合です。結果、そうした根拠は聞き手の態度が好ましい方向へ変わることを妨げ(とくに当初の信頼性が中程度の話し手で)、話し手に対する評価も有意に下げました。

O’Keefe 氏の1998年のメタ分析は、説得的なメッセージで根拠をどこまで明示するかを比べた研究を統合しています。情報の出どころをより明確に示し、論証をより完全に述べたメッセージは、説得力も、送り手の信頼性の評価も有意に高くなりました。一方、数値をより細かく示すことには、有意な効果は見られませんでした。

ただし、どちらの研究も「口頭で出典をどう言うか」を直接調べたものではありません。分かっているのは、根拠の出どころの示し方が、話し手の信頼性の評価と結びついていることまでです。以下で紹介する具体的な言い方は、教材による指導の内容です。

英語圏の授業で教わる「口頭での出典提示」

英語圏のスピーチ教材では、口頭で出典を示すことを oral citation(口頭での引用)や verbal citation と呼び、剽窃(他人の言葉や考えを自分のものとして使うこと)を避ける作法として教えています。

ある教材は、話し手が出典を口にしなければ、聞き手はその言葉や考えを話し手自身のものだと受け取る、と説明します。そのうえで、直接の引用だけでなく、言い換えや要約にも出典を示すよう求めています。別の大学の教材は、書いた文章で出典の表示が必要なものは、話すときにも示すべきだという原則を紹介しています。

注目したいのは、教材がこれを倫理の話で終わらせていない点です。ある教材は、出典の資格や、その考えがほかの信頼できる研究者にも支持されていることを示すと、話の説得力が増すと述べています。逆に、名前だけを挙げて、その人が誰で、なぜ信じてよいのかを説明しなければ、議論は疑わしく聞こえる、とも書いています。

口頭で示す3点 — 誰が・いつ・どこで

口頭で出典を示す3つの要素 — 誰が(名前に加えて信じてよい理由を言う)、いつ(何年の調査か、いつの発言かを添える)、どこで(本・報告書・記事など媒体の種類まで言う)を示す図
図|口頭で出典を示す3つの要素

書いた文章の参考文献には、著者・年・題名・掲載誌・巻号・ページと多くの情報が並びます。話すときにそのすべてを読み上げる必要はありません。ある大学の教材は、聞き手が自分で出典をたどれるだけの情報を言えばよい、と整理しています。

教材の記述を並べると、口頭で示す情報は次の3点にまとまります。

  1. 誰が — 書いた人・調べた組織と、その資格
  2. いつ — 発表された年や日付
  3. どこで — 本・学術誌・新聞・組織のサイトといった媒体と、その名前

ある大学の図書館の案内も、口頭で伝える情報として、著者の名前、その資格の簡単な説明、作品の題名、発表された日付を挙げています。この3点は決まった型ではなく、何を言い落としていないかを確かめるための目安です。

誰が — 名前に、信じてよい理由を添える

最も言い落としやすいのが、出典の資格です。ある大学の教材は、聞き手が知らない出典であれば、その人がこの話題を語るのにふさわしい理由を添えるよう勧めています。

教材が挙げる例は、ある睡眠研究者の名前に、所属する研究所と大学での役職を添えて紹介し、さらに別の研究者の調査も同じ方向の結果を示していると続けるものです。名前だけなら聞き手は判断できませんが、何の専門家で、どこで研究しているのかが分かれば、根拠の重さを自分で見積もれます。

組織が出典の場合も同じです。「ある調査会社によると」ではなく、組織の名前と、それがどんな組織なのかを一言添える。社内の数字であれば「経理部の月次集計では」のように、誰がまとめた数字なのかを言うだけでも、聞き手の受け止め方は変わります。

いつ — 古い数字を新しく聞かせない

教材の例では、雑誌や新聞、ニュースサイトを出典にするときは日付を言うよう示されています。発表された時期は、聞き手がその情報の鮮度を判断する材料になるからです。

実務で問題になりやすいのは、何年も前の調査の数字を「最近の調査では」と紹介してしまうことです。後で聞き手が出典を確かめたときに古い数字だと分かれば、ほかの数字まで疑われかねません。「2019年の調査ですが」と先に言っておけば、古さはそのまま情報の一部になります。

数字の示し方そのもの、たとえば割合を「何人中何人」に言い換える工夫は、「10人に1人」と「10%」で、伝わり方が変わる理由で扱いました。

どこで — 媒体の種類まで言う

大学の教材は、出典の種類ごとに言うべき情報を分けて例示しています。本なら題名と著者、雑誌なら誌名と日付、学術誌なら誌名・日付・著者、組織のサイトならサイトの名前、インタビューなら相手の名前と資格です。

同じ教材は、避けるべき言い方の例として「Google で見つけた」や、長い URL をそのまま読み上げることを挙げています。検索エンジンは出典ではなく、URL は聞き手の耳に残りません。情報が載っていた場所の名前と、それがどんな媒体なのかを言うのが基本です。

媒体の種類を言うと、聞き手は情報の性質も推し量れます。査読を経た学術誌の論文なのか、業界団体の報告書なのか、新聞記事なのか、個人の投稿なのか。同じ数字でも、どこに載っていたかで受け止め方が変わることを、話し手が先に開示しておくわけです。

出典を言うと話が止まる、を避ける入れ方

出典を丁寧に言おうとすると、話の流れが止まるのではないか。この心配にも、教材は具体的に答えています。

  • 情報より先に出典を言う — ある大学の図書館の案内は、書き言葉の文中引用とは逆に、情報を述べる前に出典を言うよう勧めています。聞き手は「誰の話か」を知ったうえで中身を聞けます
  • 「引用、ここまで」と言わず、間で区切る — 同じ案内は、直接引用の始まりと終わりを短い間で示すよう勧めています
  • 言い回しを変える — 別の大学の教材は、「〜によると」を繰り返すと単調になるとして、「これは〜の調査でも裏づけられています」のように言い方を変えるよう助言しています
  • まとめて示す — 一つの出典に長く頼る部分は、その範囲が聞き手に分かる形で一度示せばよいとされています

同じ教材は、出典は少ないより多いほうがよいとしつつ、読み上げる参考文献一覧のように聞こえないようにとも注意しています。出典は話の中身を支えるために言うもので、出典を並べること自体が目的になってはいけません。

スライドの脚注だけでは代わりにならない理由

スライドに出典を小さく書いておけば十分だ、と考える人もいるでしょう。教材も、スライドの最後や配布資料に参考文献を載せること、引用や画像には出典を書き添えることを勧めています。ただし、それは口頭での提示を補うものとして扱われています。

理由は、先に見た教材の説明にあります。話し手が口にしなければ、聞き手はその言葉を話し手自身のものとして受け取ります。聞き手の多くは、話を聞きながらスライドの隅の小さな文字までは読みません。口頭で言ったものだけが、確実に聞き手に届く出典です。

スライドの文字を読み上げることの弊害は、スライドの文字を読み上げると、なぜ伝わらなくなるのかで扱いました。

日本の会議で出典が省かれやすい場面

日本の会議や講演では、「〜と言われています」「業界では常識ですが」といった、出どころを示さない言い方がよく使われます。日本と英語圏で出典の示し方を比べた研究は見当たらないため、どちらが多いとは言えません。それでも、次のような場面で出典が省かれやすいことは、実務の感覚として思い当たる人が多いのではないでしょうか。

  • 上司や顧客の前で、話を短くまとめようとしたとき
  • 社内で共有されている数字を、出どころを確かめないまま使うとき
  • 自分の経験からの意見を、一般的な事実のように述べるとき

3つ目は特に注意が要ります。自分の経験に基づく意見であれば、「私が担当した5社では」と範囲を示すことも、出どころを名乗ることの一つです。出典を示すとは、聞き手が根拠の重さを判断できるようにすることであり、権威のある名前を借りることではありません。

原稿を準備する段階で、数字・引用・出典の部分だけは正確に書いておく方法は、英語圏のスピーチ教育が分ける、4つの話し方で紹介しました。

まとめ

話し言葉には脚注がありません。英語圏のスピーチ教育は、口頭で出典を示すことを、引用の倫理であると同時に、話の信頼性を支える技術として教えています。説得研究でも、疑わしい根拠は話し手の評価を下げ、出どころを明確に示すことは信頼性の評価の高さと結びついていました。

口頭で示すのは、誰が・いつ・どこでの3点です。情報より先に出典を言い、引用の区切りは間で示し、「〜によると」の言い回しを変えていく。「どこかで読んだのですが」を一つ減らすことが、根拠を根拠として届ける第一歩です。

参考文献・出典